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セリエで賛否両論のビデオ判定「VAR」、イタリアの人々は約80%が歓迎

中村大晃カルチョ・ライター
6月18日、コンフェデ杯ポルトガル対メキシコ戦での大型スクリーン(写真:ロイター/アフロ)

2017-18シーズンのセリエAから導入されたビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)は、開幕から2試合で早くも賛否両論を呼んでいる。だが、『ガゼッタ・デッロ・スポルト』によると、イタリアの人々はおおむねVARの導入を歓迎しているようだ。

開幕から20試合を終えたセリエAで、VARはすでに何度も採用されている。ユヴェントス対カリアリの開幕戦で、37分に初めてVARによりPKが与えられ、ジャンルイジ・ブッフォンがジエゴ・ファリアスのPKを止めた場面は、セリエAの歴史に刻まれた大きな1ページとして話題となった。

だが、その試合後に「恐れずに歓迎すべき技術」とVARを評していたブッフォンは、再びVARによりPKを取られた第2節のジェノア戦後に「使い方が気に入らない」と不満を表した。「これじゃ水球みたいだ」と、VARを採用するタイミングに苦言を呈したのだ。

ジェノア戦ではダニエレ・ルガーニのアンドレイ・ガラビノフへのタックルがVARでPKとなり、一方でユーヴェもマリオ・マンジュキッチのシュートが相手のハンドを誘ったとのVAR判定でPKを獲得している。ブッフォンは、このどちらもVARでPKにすべきではないと主張している。

一方で、第2節のローマ対インテルでは、ミラン・シュクリニアルがディエゴ・ペロッティにタックルした場面でVARが採用されなかったことも問題視された。このとき、マッシモ・イッラーティ主審がモニター担当に「どうする」と尋ねていたのは、審判サイドにも迷いがあることを裏付けている。

また、トリノ対ボローニャでは、プレーが完結する前に笛が吹かれ、VARを採用できず、正当なゴールが認められないというミスが発生。前述のジェノア対ユーヴェ戦では、ガラビノフがボールを受けてルガーニにタックルされる前にオフサイドポジションにいたことが見逃された。

ただ、始まったばかりのシステムですべてにおいて完ぺきを求めるのは不可能だ。ブッフォンをはじめ、苦言を呈した関係者は少なくない。だが、彼らは不満を吐露しただけでなく、改善のための提言をしようという想いがあったはずだ。

実際、VARによって間違いが修正されたケースもあり、『ガゼッタ』による1000人を対象としたアンケートでは、全体の79%が賛同している。

ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より
ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より

興味深いのは、ユヴェントスのサポーターに限ると、賛成が72%と全体より低く、反対は26%とライバルクラブのサポーター(10%)やビッグクラブのサポーター(15%)、中小クラブのサポーター(13%)と比べて圧倒的に多いことだ。

だが、全体的には、ビッグクラブや中小クラブだからとの理由で有利不利が働くことはないと考えられているようだ。全体の55%が、全クラブが平等に守られると回答しており、これはユヴェントスのサポーターに限っても68%という数字になっている。

ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より
ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より

また、VARが「主審が正しい判定を下す助けになるか」との質問には、「とても」(40%)と「わりと」(44%)を合わせて84%がイエスの回答。「信頼性を高めてサッカーのシステム全体の助けになるか」との質問でも、合わせて80%がイエスと答えた。

だが、「ピッチで選手がよりスポーツマンらしく振る舞う助けになるか」という質問では、「とても」(28%)と「わりと」(44%)を合わせてイエスが72%だった。選手たちの審判への抗議が減るのもVARの効果のひとつという声があるが、劇的な変化に期待する人はやや少ないのかもしれない。

なお、ブッフォンはVAR適用すべき場面に苦言を呈したが、「適切に使用されている」と感じているのは45%と半数近くにのぼった。一方で、「もっと極端な例にのみ使用すべき」が26%、「もっと多くの場面で使用すべき」も18%と、採用基準に関してはさまざまな意見があるようだ。

ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より
ガゼッタ・デッロ・スポルト紙より

前述のように、VARはまだスタートしたばかりの新しいシステムだ。課題はこれからも浮き彫りになっていくだろう。ただ、少なくとも一般の人々は好意的に受け止めている。その信頼を損なわないように、問題点を修正しながら前進を続けることが大切ではないだろうか。

カルチョ・ライター

東京都出身。2004年に渡伊、翌年からミランとインテルの本拠地サン・シーロで全試合取材。06年のカルチョーポリ・W杯優勝などを経て、08年に帰国。約10年にわたり、『GOAL』の日本での礎を築く。『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿。現在は大阪在住。

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