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世界卓球 「中国は孫穎莎がいたから勝てた?」辛勝でわかった卓球王国の焦り

中島恵ジャーナリスト
団体戦で優勝した中国チーム(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

2月24日、韓国・釜山で行われた世界卓球(世界卓球選手権)の女子団体戦・決勝で日本は中国に2-3で敗れ、中国が辛くも優勝(金メダル)を獲得した。中国はこれにより世界卓球で6連覇を成し遂げ、日本は5大会連続の準優勝(銀メダル)に終わった。

しかし、日本チームは早田ひな選手と平野美宇選手が歴史的ともいえる2勝を挙げたり、張本美和選手がベテランの陳夢選手から1ゲームを奪い取るなど、中国チームをギリギリまで追い詰めた。

試合後、中国チームの陳夢、孫穎莎、王芸迪の3選手は涙を流しながらお互いの健闘をたたえ、勝利をもぎ取り、卓球王国・中国の王座を守り抜いたことに安堵した様子だった。

SNSにあふれた孫選手への祝福コメント

この様子は中国の人民網などの大手メディアやスポーツメディアだけでなく、微博(ウェイボー)、微信(ウィーチャット)などのSNSでも大きな話題となった。陳夢選手と孫穎莎選手が抱き合って涙を流している様子に対し、「優勝おめでとう!孫選手おめでとう!」などのコメントが大量に書き込まれたのだ。

また、元男子卓球選手の水谷隼さんがX(旧ツイッター)で孫選手に対して「強すぎ」と日本語で書き込んだコメントは、そのままスクリーンショットする形で微博などにも掲載され、日本語であるにもかかわらず、検索ランキングの上位に入った。

中国では基本的にXなど海外のSNSは閲覧できないが、閲覧できる人がそれをシェアする形で広まったのだ。つまりそれほど、孫選手の強さは群を抜いており、中国のSNSには「孫選手がいたからなんとか勝てた」「孫選手の強さは別格だ」といったコメントが多かった。

中国卓球女子の今後は……

孫穎莎選手は世界ランキング1位で名実ともに女子卓球界のトップに立つ。東京オリンピックの際は女子団体で金メダル、シングルスで銀メダルを獲得した。シングルスの準決勝では伊藤美誠選手に勝利したが、決勝で同じ中国の陳夢選手に敗れた。2000年生まれで現在は早田選手と同じ23歳。

30歳になるベテランの陳夢選手らに続き、中国の女子卓球界の中心的存在だ。ほかに、今回出場しなかった王曼昱選手(25歳)などもいるが、現在の卓球界で孫選手の右に出る選手はいないといえるだろう。

しかし、今回の団体戦は出場順などの面でも、中国より日本側の戦略が功を奏したとの分析もあり、シングルスと違い、団体戦での弱点が見え隠れした。世界ランキング1位から3位までの選手が揃っているのに、ここまで苦戦したことに中国側は強い危機感を覚えている。だからこそ、勝利後にあれだけ涙を流したのだろう。

また、日本は15歳の張本美和選手が出場したことからも、夏のフランス・パリオリンピックに向けて上り調子といえるが、中国ではまだ10代の若手でそこまで有望な選手の名があがっていない。

むろん、中国は卓球王国だ。日本よりも卓球人口が多く、優秀な選手は日本以上に多いのは言うまでもない。だが、中国のZ世代と呼ばれる、主に2000年代生まれの若者は、受験でも、スポーツでも、何であれ、厳しい戦いを好まない傾向がある。

今回は優勝したため、SNSもお祝いのコメントであふれたが、もし負けたら誹謗中傷にさらされる可能性もある。もちろん、すぐに卓球王国・中国の地位が揺らぐとは言えないし、まだ日本との実力の差はある。だが、今回の日本チームの善戦は、「中国は負けて当たり前の相手ではない」ことを私たちに感じさせてくれるのに十分だったのではないだろうか。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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