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李克強前首相の遺体 北京で火葬 中国各地で半旗が掲げられるも、最も熱かったのはあの「聖地」

中島恵ジャーナリスト
追悼の花束で埋め尽くされる李克強氏の旧居前(中国メディアより筆者引用)

11月2日、李克強前首相の遺体が北京市内で火葬され、習近平国家主席をはじめ、政府高官などが参列して告別式が営まれた。

中国中央テレビなどの報道によると、天安門、新華門、人民大会堂、外交部、各省、自治区、香港特別行政区、マカオ特別行政区、駐中国の各国大使館などで一斉に半旗が掲げられ、亡くなった李氏を追悼した。

同日午前、李氏の遺体を乗せたと思われる車が北京市内を走ると、多くの市民が「総理!総理!」と声を掛けたが、混乱を警戒してか、市内各所には通常以上に多くの警官が配備された。微博(ウェイボー)では「天安門下半旗悼念李克強同志」(李克強同志を追悼して天安門に半旗)というワードが早朝からトレンドランキングで1位になった。

李氏死去の報道は少ないが…

李氏の死去はあまりにも突然の心臓発作によるものだった。多くの人々が驚き、亡くなった先月27日は、SNSなどに追悼の言葉や動画を投稿する人が相次いだ。

しかし、追悼の声があまりにも大きくなり、これが習近平政権への反発や反政府運動へと発展することを警戒したからか、翌日以降、SNSのコメント欄の多くは閉じられ、李氏の訃報を伝えるメディアは不自然な形で大幅に減少した。同時にSNSでの追悼の声も急速に小さくなっていった。

今日火葬されることが発表されると、再び追悼する人の声が大きくなったが、コメント欄などはいまも閉鎖されていることが多く、コメントが投稿できるところでも、言葉ではなく、ロウソクの絵文字や白い菊の花の写真だけなど、無難なものになっているようだ。

膨大な花束で埋め尽くされた旧居前

しかし、1カ所だけ、堂々と追悼できる場所がある。李氏の故郷、安徽省合肥市紅星路の旧居前だ。李氏が幼い頃に一時期住んでいたという一般住宅だが、27日に訃報が伝えられてすぐ、この旧居前には花束を持った人々が自然発生的に訪れるようになった。それは現在まで続いており、膨大な数に上っている。

花束は白や黄色の菊が多く、手書きのメッセージカードなども添えられている。「人民のよき総理」「李総理、安らかに」などの言葉が多いが、一部、政治的とも受け取れるメッセージは、地元公安などによって検閲、撤去されており、住宅街のため、交通規制も行われている。

追悼の聖地に

しかし、市民のガス抜きのためもあるのか、花束を持って訪れる人自体を規制する動きは今のところないようだ。

中国のある知人は「他に追悼する場所がない。SNSでの追悼コメントも投稿しづらく、李氏に関する情報は統制されている。せめて、花束をささげる場所がないと、気持ちがおさまらない人がいるからでは……。ここにきて追悼の気持ちをあらわしたいという人は非常に多い」と推測する。

李氏の死去については、あまりにも急な心臓発作だったこと、8月には敦煌を元気に旅行している姿が目撃されていたこと、住居のある北京ではなく、上海で休養中に突然起こったことなど不自然なことが多いことから、死去の要因についてさまざまな憶測が飛び交っていた。

「悲運のナンバー2」に対して、多くの人々が心を寄せているが、その気持ちは封印されたまま、今日で幕を閉じることになりそうだ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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