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2億5000万人がコロナに感染したと推計される中国で「幻陽症」の症状を訴える人が続出中

中島恵ジャーナリスト
心配で頻繁に検査キットで調べてしまう人が続出中(筆者の友人提供)

新型コロナの感染者が爆発的に増え続けている中国。このほど流出したことが明らかになった政府の内部資料では、人口の約2割に当たる約2億5000万人が感染したと推計される。

周囲の人々が次々と感染していることに対する不安や焦りから、実際にコロナで陽性になったわけではないのに、陽性になったような症状が出る「幻陽症」という病気を発症する人が急増している。

幻陽症の症状はコロナそっくり

「幻陽症」とは中国のゼロコロナ政策が緩和されて以降、最近になってネット上に初めて出現した流行語で、想像上のコロナ陽性症状、疑似陽性のことをいう。

症状はのどの痛み、頭痛、筋肉痛、腹痛、めまい、寒気、発熱など、コロナに似たようなものだ。

また、そうした症状はないものの、1日に何度も繰り返し抗原検査キットで検査してしまい「陰性」なのに落ち着かなくなる人や、身近なところに陽性者が出たことから、極度な不安に陥って過剰に消毒液を振りまくなどの反応をしてしまう人、パニック障害のような状態になる人もいる。

また、それとは逆に、これほど不安な気持ちになり焦るのなら、いっそのこと、自分も早く陽性になりたいと自暴自棄になる人なども、広い意味での「幻陽症」だといわれている。

とくに感染が拡大している都市部でこのような症状を訴える人が続出している。

心身の健康を保つことが大事

こうした症状について、人民網の記事では上海市の心理療法士や医師の言葉を引用し、次のように伝えている(以下、抜粋)。

「自分が陽性になったという思い込みでこのような症状を発症するのは、急激な感染状況の変化に対して、心理的に追いついていないために起こる。未知の状況に直面して情緒不安定になることは、ある意味で正常な反応だ。

ただし、過度に怖がり過ぎるのではなく、できるだけポジティブに対応するべきだ。感染症の情報だけをずっと追い続けるのではなく、別のことにも目を向けることが必要だ。

なるべく普段通りに勉強や仕事をして、生活のリズムを保ち、健康的な生活を送り、心と身体を十分に休めることが大事である」

また、広東台触電新聞に掲載されていた曁南大学付属病院精神科の医師はコメントで「免疫力と情緒は深い関係にある。情緒が安定していないと感染しやすくなるので、この時期、精神の安定が最も大事」と述べており、メンタルをしっかり保つことがコロナ陽性にならないために必要だとも説明している。

中国のネット上には、これらの医師による動画での説明や記事が多数掲載されており、できるだけ人々の不安を取り除こうとしている。

しかし、中国では猛スピードで感染が拡大しており、挨拶代わりに「あなたは羊(陽性)になりましたか?」といった言葉も飛び交っている。

陽性の「陽」と「羊」が同じ「ヤン(yang)」という発音であることから、「我羊了」(私は陽性になった)といった文章や羊のイラストなどもネット上で頻繁に見かける。

感染拡大は一体どこまで広がるのか。陽性になることに対して、多くの人々が戦々恐々となっていることがわかる。

参考記事:

コロナ発生から丸3年 武漢で再び感染爆発、上海、重慶でも 北京はピーク超え 底は1月末か

感染者急増、薬不足の中国で「医薬品を分け合う相互扶助アプリ」をテンセントが開発

幻陽症の症状を紹介するイラスト(中国のサイトより筆者引用)
幻陽症の症状を紹介するイラスト(中国のサイトより筆者引用)

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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