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感染者急増、薬不足の中国で「医薬品を分け合う相互扶助アプリ」をテンセントが開発

中島恵ジャーナリスト
中国で開発された医薬品を分け合うアプリ画面(中国・新民晩報のサイトから筆者撮影)

新型コロナの感染者が急増し、すでに2億5000万人以上が感染したといわれる中国では医薬品不足が深刻化しているが、このほど、ネットサービス大手、テンセント(騰訊)がコロナの「医薬品を必要とする人」と「医薬品を多めに持っている人」をSNS上で結びつけ、マッチングさせるという画期的な助け合いアプリ「新型コロナ対策相互扶助サービス」を開発したことがわかった。

ウィーチャット内で閲覧できる

中国メディア新民晩報の12月21日の報道によると、同アプリはテンセントによりサービス提供が開始されたもので、中国で10億人以上が使用しているといわれるメッセージアプリ「ウィーチャット」(微信)内にあるミニプログラム(小程序=アプリ内アプリ)で、誰でも無料で使用することができる。

ウィーチャットの使用者はまずミニプログラムから「抗疫互助」欄を開き、アプリ内に入る。そこには「私は薬が必要です」(我需要薬)と、「私は薬があります」(我有多的薬)という2つの欄があり、どちらかを選択する。

実名登録、売買禁止

その下にある「情報広場」欄には、「情報を求める」欄と「情報を提供する」欄があり、薬が必要な人は、自分の現在地、症状、情報と求める時間、必要な薬の種類や抗原検査キット、必要な数、氏名、電話番号、ウィーチャット番号などを記入。

情報提供者も自分の現在地、すでに持っている薬の名称と数、その入手ルート、氏名、電話番号、ウィーチャット番号などを記入する。

そこで情報交換した結果、もしマッチングがうまくいけば「解決済み」という表示になる。

薬は中国国家衛生健康委員会が推奨する薬に限定されており、氏名は実名、売買は禁止となっており、何かあれば通報することができると明記されている。

同記事によると、「雪中送炭」(雪の中で寒い思いをしている人に炭を送ってあげること=困窮している人を援助すること)の精神でお互いに助け合いましょう、と書いてあり、中国のSNS上ではすでに「こういうアプリができて助かった!」「薬や検査キットがなくて困っていた」という書き込みが多数ある。

医師の診断がなくていいのか、という疑問もあるが「どこにも薬がないのでやむを得ない」「どうしようもない状況だから助かる」といった声が大きい。

同アプリ上では発熱外来がある病院の位置情報やワクチン接種に関する情報も掲載されている。

アプリ内で医薬品の情報を共有できる(筆者によるスクリーンショット)
アプリ内で医薬品の情報を共有できる(筆者によるスクリーンショット)

感染者はまだ増える

中国では3月~5月に上海でロックダウンされた際も、政府からの配給が届かなかったときに団体購入(同じマンション内で食品などを大量に購入して一括配送してもらうサービス)というサービスができ、政府に頼らず、市民同士が助け合うことで急場をしのいできたという経緯がある。

現在、明らかになった中国の内部資料によると、感染者は人口の約2割の2億5000万人に上っているとされ、浙江省の発表では1日100万人以上、山東省青島市では1日50万人以上が感染しているといわれる。

1月には春節を控えており、感染者は全国各地、農村にまで広がるだろうとの予測もある。

政府はこれまで毎日発表してきた感染者数や死者数の発表を25日から取りやめており、状況把握は難しくなっている。準備不足のままいきなり「ウィズコロナ」に移行した政府に人々は翻弄され続けているが、市民同士は助け合いの精神で乗り切ろうと必死だ。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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