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上海でロリータファッションをする50代の中年女性がSNSで賞賛されている、ある理由

中島恵ジャーナリスト
中国メディア「捜狐号@四令大叔」より引用

今年6月ごろから中国のSNSで話題になっている1人の中年女性がいる。派手なロリータファッションに身を包み、上海市内のストリートを闊歩している姿が注目されているのだ。当初は「あの人、頭がおかしい?」などと揶揄されたが、その服装をしている経緯がわかった今、SNSは賞賛の嵐に変わったという。

頭にはティアラ、ロリータ衣装の中年女性

上海市のおしゃれなストリート、安福路(アンフールー)。もともとフランス租界だったエリアで、今では西洋料理のレストランや流行のカフェなどが立ち並ぶ一角として有名だ。ここを毎日のように派手なロリータファッションで歩く1人の中年女性がいる。

年齢は50代くらい。かなり太っていて、髪は短髪だ。それだけならよくいるおばさんの1人だが、特徴的なのは派手なロリータ衣装を着ていることだ。

ここ数年、中国でも10代~20代の女性を中心にロリータファッションは大流行しているので、ただロリータの衣装を着ているだけでは、人々は振り向かないし、SNSで話題に上ることもない。

だが、中年の、しかも、一見男性かと見間違うような容姿や体形の女性がこのようなファッションをしていることに、通りかかった人々は驚き、女性を撮影した写真がSNSに出回り、話題に上るようになった。

中国メディア「捜狐網」より引用
中国メディア「捜狐網」より引用

写真の通り、女性は頭にお姫様のようなティアラをかぶり、ロリータの衣装を着ている。手には小さなハンドバッグを提げ、靴は低いパンプスを履いている。買い物袋などを提げていることもあり、頻繁にこのストリートに出没している。

中国メディアで検索してみると、この女性は「安福路小公主」(安福路のお姫様、安福路のリトルプリンセス)などと呼ばれていることがわかった。

関連して「安福路のお姫様は女性か、男性か?」「安福路のお姫様の若い頃は?」などのワードもヒットする。SNSには通行人が撮った写真が多数掲載されており、この女性が頻繁に出没する安福路に、わざわざ写真を撮りに出かけている人まで増えているという。

当初は「あの人、頭がおかしいのでは?」「おっさん?おばさん?気持ち悪い」などと批判されたり、嘲笑されたりしていたが、メディアで多数取り上げられるようになり、この女性がなぜこのようなファッションでストリートを歩いているかがわかってくると、人々の反応は一変した。

女性の生き方に賞賛の声

報道によれば、女性はこの付近に住んでおり、もともと家庭は裕福だったが、数年前に大病を患った。長期間、薬を服用した影響で髪が薄くなり、身体もむくみがひどくなって、太ってしまったという。

女性は、自分の変わり果てた容姿や体形に落胆し、悲嘆にくれた時期が長かったが、気を取り直し、「今後、残された人生はもっと自由に、自分の好きなように生きてみよう」と決意。以後、若い頃に着たくても着られなかったロリータファッションで、思い切って外に出てみよう、と思い立ったという。

通常の既製服では体形に合わないため、衣服はすべて手作りだ。大きなフリルやリボンもあしらい、色もコーディネートしている。ティアラも身に着け、気分だけはお姫様になろうと決めた。

そうした、吹っ切れて堂々とした姿が人々の目に留まったわけだが、ロリータの衣装を着るようになった辛い過去がわかった今、SNSでは賞賛の声が巻き起こっているという。

「人にはそれぞれ自分の人生があるよね」「この人は誰にも迷惑をかけていない。好きなように生きていて、カッコいいよ」「残された人生、自分の好きなように生きるべきだと思う」と感銘を受ける人が続出するようになった。

女性は見ず知らずの通行人やインフルエンサーなどから声を掛けられても気軽に応じ、堂々とストリートを闊歩しているという。

上海といえば、今年3月から約2ケ月、中国の厳しいゼロコロナ政策の下でロックダウンされたことが記憶に新しい。人々は自由に外に出ることも許されなかった。

そうしたこともあり、「人生、何が起こるかわからない」「好きなように生きる」という女性の意思に共感し、勇気づけられた人が多かったのかもしれない。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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