新型コロナ(オミクロン株)の影響で、上海市がロックダウン(都市封鎖)に入って1ヵ月以上が過ぎた。4月末、1日当たりの感染者数が1万人を下回るなど減少傾向にあるが、まだ市内の多くの地区では厳しい外出制限が行われている。

中国は5月1日のメーデー(労働節)から5日間の大型連休に入っており、従来ならば帰省や旅行のため民族大移動となるはずだが、今年は北京でも感染者が急増。政府から移動の自粛が呼びかけられていることもあり、公共交通機関を利用する人は昨年の62%も減少している。

そのような状況下、上海でパンを手作りする人々が増えている。SNSを見ていて気がついたのだが、中国のサイトやSNSで調べてみても、パンを作る人向けにレシピなどが多数シェアされており、家庭内に閉じ込められている人々の間で、ちょっとしたブームになっているようだ。

パン作りで気分転換

「ほら見て、こんなにおいしそうに焼けたよ!」

数日前、上海で旅行関係の仕事をしている友人が、オーブンから取り出したクロワッサンの写真を投稿(=写真)。続けて「香ばしい臭い。一瞬で幸せな気持ちになれた。明日の朝、子どもが起きてくるのが楽しみ」と書いていた。

この友人はコロナ前、仕事がとても忙しく、国内外を飛び回っていて家にいる時間はほとんどなかったが、コロナ後は海外に行くことができなくなった。

上海がロックダウンされて以降は自宅マンションがある敷地の外に出ることも難しくなり、「一時は気が狂いそうになり、ものすごく落ち込んだ。どうやって毎日を過ごしたらいいかわからなくなった」と話していたが、ロックダウン生活が長引くにつれ、次第に今の環境に慣れ始めた、と話してくれた。

友人は「何とか気持ちを落ち着かせようと思いましたが、SNSをずっと見ていても、気持ちは不安定になるばかり。団体購入(マンションごとに一括で食品などを購入するネットのシステム)のサイトばかり見て、食材を注文する生活にもうんざり。スマホやパソコンにかじりつく生活ではいけないと思い、ふだんはあまりしないことに挑戦しようと思ったんです」という。

その一つが野菜の栽培。もう一つがパン作りだ。

野菜の栽培はパン作りよりももっと手軽なため、単身者や日本人駐在員など多くの人も取り組んでいる。政府配給などでもらったネギやカイワレ大根などを水栽培したり、ベランダの土に植えたりして再利用しているもので、これもちょっとした流行になっている(以前ロックダウンされた武漢や西安でもやっている人が多かった)が、もう少し高度なものがパン作りだ。

パンをこねてストレス発散

ロックダウン以降、生まれて初めてパンを作ってみたという別の友人によると、「政府からの配給の中に大きな小麦粉の袋が入っていたので、思いついてやってみたんです。ロックダウンの前は餃子でさえ家で手作りする暇はなかったけど、今は時間がたっぷりある。パンなら餃子とはちょっと違う気分が味わえるし、こねている間にストレスも発散できるし、子どもと一緒に作れるのもいい。主食にもなるし、SNS映えもするから(笑)」と話していた。

むろん、まだ一部の地域では政府の配給や団体購入でも食料が十分に買えず、困っている人が大勢いる。だが、中には「食料事情は日に日によくなっている。ネット購入のコツもつかんだ」という人や、「友人や知人のツテで、行きつけのベーカリーのおいしいパンや、酒類も手に入るようになってきた」という人も増えている。

確かに一時期に比べて、悲惨な話は少しずつ減ってきているようにも感じるが、依然として高齢者世帯にとって状況は厳しいし、急病になるリスクもある。また、「この異常な状態に慣れてくるのも問題。この先の仕事のことなどを考えると不安な気持ちになり、精神的にとても苦しい」という人も少なくない。

だが、そんな中でも、友人のように、「パンを作って、いい香りに包まれて、少しでも前向きな気持ちになろう」とふんばっている人々も大勢いる。パン作りは単なる暇つぶしではなく、厳しいロックダウン生活を少しでもベターなものにし、困難な状況を乗り越えようとする気持ちの表れなのかもしれない。