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メールに「お世話になっております」と書くのは礼儀? 中国人はメールの冒頭に何と書く?

中島恵ジャーナリスト
(写真:アフロ)

 大型連休が終わり、仕事を再開したという人が多いでしょう。たまっているメールの返信から始めるという人もいるかもしれません。日本ではビジネスメールの冒頭に「お世話になっております」などと書くのが一般的ですが、それについて、4月27日のプレジデントオンラインに以下の記事が掲載されていました。

堀江貴文「メールに“お世話になっております”と書く人は最悪だ」

 同記事で堀江氏は、「処理能力が低い人に限って、メールに『お世話になっております』などと書いている。読んでいるだけでイライラさせられる」と述べていました。

 読者からの反響は大きく、コメント欄には「(書くかどうかは)相手によって違う」、「定型文があると便利だと思う」、「送られてきても無意識に読み飛ばしている(ので問題ない)」など賛否両論が書き込まれていました。

 堀江氏は打ち合わせやスケジュール確認などは、スピーディーで短い言葉だけでいいLINEで済ませていると書いていましたが、日本では、仕事上の連絡手段はメールが多いので、どうしても文面は長くなりがちです。

 では、中国ではどうでしょうか?

中国では「ニーハオ」が一般的

 中国でも日本企業との関係が深い中国企業や、日系企業に勤務する中国人で日本語ができる人ならば、メールの冒頭に日本語で「お世話になっております」と書いてくる人もいるのですが、日本語ができない人ならば、当然そのようには書きません。

 中国語で仕事のメールを送ってくる場合、人によって異なりますが、筆者が知る限りでは、冒頭には「〇〇さん、ニーハオ」(こんにちは)や、「ニンハオ」(ニーハオの丁寧形)と書いてくることが多いです。

 日本語の「お世話になっております」を中国語に翻訳し、それを書いてくる人もいるのですが、決まりはなく、書き方はさまざまです。

 中国人同士の場合、仕事のやりとりはメールよりもSNSを利用することが多いです。中国で10億人以上が利用しているといわれるウィーチャット(微信=ウェイシン)というSNS、メッセージアプリです。

中国での連絡はSNSで短くスピーディーに

 ウィーチャット(SNS)を使うメリットは、堀江氏がLINEを使うメリットとして挙げていたのと同じく、スピーディーで簡単なこと。スマホ上のアプリなので、いつでも、どこでも見ることができ、すぐに返信ができます。

 LINEと同じく、要件だけ短く書けばよく、返信は仕事関係者でも「いいね」のボタンを押すだけという場合もよくあります。文字を打つのが面倒くさい場合は音声入力をする人も多く、手軽です(LINEと違って「既読」はつきませんので、相手が見たのかどうか不安になることもありますが、やりとりの履歴は残ります)。

 このように、仕事でもSNSを多用することが当たり前で、文章は極力短くする中国人なので、日本人のビジネスメールでほぼ必須といわれている「お世話になっております」という一文に対して、あまり意味がないと感じる人もいるようです。

 また、初めて連絡する人へのメールなのに、冒頭に「いつもお世話になっております」と書く人がいることを不思議に思ったりもします。

 もちろん、日系企業につとめている人の中には「丁寧な日本人らしくて、好感が持てる」と思っている人もいるのですが、「いちいち書かなくてもいいのでは?」と堀江氏のように思っている人もいます。日本人にも両方の意見があるように、中国人も同様です。

 しかし、中国人から見て「お世話になっております」よりも、もっと不思議な日本語のフレーズがあります。

 それは「お疲れさまです」という一言。

 日本では「お世話になっております」の代わりとしてメールの冒頭に書く人もいますし、口頭でいうこともよくあります。会社内では、朝でも昼でも夕方でも、しょっちゅうこのフレーズをいっている、といってもいいくらい、日本人は無意識に使っているフレーズではないでしょうか?

すれ違ったときに、なぜ「お疲れさま」?

「お疲れさまです」は中国語で「辛苦了」(シンクーラ)といい、「お世話になっております」と違って、中国人もよく使う表現です。

 しかし、中国語では、どちらかというと「ご苦労さまです」の意味に近く、仕事やスポーツ、勉強など、本当に疲れたことをしたあとなどに使います。また、文字通り、「苦しい」「苦労した」といった意味で使うこともあります。

 最も多いのは、何かの仕事をやり終えて、一段落したときなどにいったりすることで、何に対して「お疲れさま」だったのかが明確なのですが、日本語では異なり、本当に疲れたことをしたときに限らず、儀礼的にしょっちゅう使われていることです。

 来日した中国人留学生がよく戸惑うのは、この儀礼的であいまいな「お疲れさま」です。

 ある留学生から聞いた話ですが、その留学生が学生寮のシャワー室から出て、濡れた髪を拭きながら自室に戻ろうと廊下を歩いていたとき、すれ違った日本人学生から「お疲れさまです!」と明るく声を掛けられてびっくりしたそうです。

 留学生は「シャワーを浴びた(疲れることをした?)あとだったから、お疲れさま、といってくれたのかな?と首をかしげてしまいました」と苦笑していました。

 日本では退勤するときにも、同僚に対して「お疲れさまです」といいますし、仕事先の人に会ったときにも「こんにちは」の代わりに「お疲れさまです」といったりします。

 つまり、日本では、挨拶ことばの一つとしてすっかり定着しているのですが、日本語に不慣れな中国人が聞くと、不思議に思うことのようです。

 堀江氏は「お世話になっております」とメールの冒頭に書く人は「処理能力が低く、イライラさせられる」と書いていましたが、多くの日本人は、そこまで考えず、イライラもせず、単にメールのマナーとして使っているだけでしょう。

 しかし、海外の人の目を通してみると、日本人自身がふだんあまり自覚していないことで、不思議がられることはかなり多いのではないか、と感じさせられます。

 そういいつつ、今日もまた、筆者もメールの冒頭に「お世話になっております」と書くだろうと思いますが……。

ジャーナリスト

なかじま・けい ジャーナリスト。著書は最新刊から順に「中国人が日本を買う理由」「いま中国人は中国をこう見る」(日経プレミアシリーズ)、「中国人のお金の使い道」(PHP研究所)、「中国人は見ている。」、「日本の『中国人』社会」、「なぜ中国人は財布を持たないのか」「中国人の誤解 日本人の誤解」、「中国人エリートは日本人をこう見る」(以上、日経プレミア)、「なぜ中国人は日本のトイレの虜になるのか?」、「中国人エリートは日本をめざす」(以上、中央公論新社)、「『爆買い』後、彼らはどこに向かうのか」、「中国人富裕層はなぜ『日本の老舗』が好きなのか」(以上、プレジデント社)など多数。主に中国などを取材。

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