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人生も仕事も豊かになるためのヒント

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
仕事はモチベーションが高いほうが良い結果が出る(写真:アフロ)

深刻な人手不足なのに、大企業では人が余っている

 ITをはじめとした経済のデジタル化の進展がダメ押しとなり、余剰人員の問題がいよいよ企業の経営を揺り動かす事態となっています。日本は深刻な人手不足だといわれていますが、それは小売店や飲食店などのサービス業や、介護職などの特定の専門職の話であり、日本の大企業はホワイトカラーを中心に大量の余剰人員を抱えているのが現状です。

 現在ホワイトカラーが担う業務の6割は定型業務化でき、そのうち8割をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で代替できるとされています。つまり、RPAは定型業務の48%(60%×80%)を担うことができるというのです。それは裏を返せば、ルール通りに働いている仕事のおよそ半分はなくなるというわけです。

 そのような情勢のなかで、否応なく進むテクノロジーの変化によって今の仕事さえ失う社内失業者が増えるだろうといわれています。リクルートワークス研究所の調査によれば、日本企業のなかには社内失業者が2020年の時点で推計408万人いるとされていますが、中高年を中心にこの人数は増えていかざるをえないでしょう。

生産性を上げるには、高いモチベーションが欠かせない

 各国のコンサルティング会社の調査結果で共通しているのは、他の先進国と比べて日本の大企業の社員は仕事へのモチベーションがことのほか低いという点です(図参照)。日本の大企業がスキルの通用しなくなった社員をそのまま抱え込んでいる現状を考慮すれば、モチベーションが目立って低いという結果はやむをえないでしょう。意欲に欠ける社員が多ければ、生産性や効率性が上がることはなく、イノベーションが起きる可能性も尻すぼみになってしまいます。

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 それとは対照的に、米欧ではモチベーションが高い社員の割合が日本より高いという結果が出ていますが、これは不満を感じる社員がさっさと退社し、満足できる職場を探すという環境が根付いているからです。

 ただし、アメリカやイギリスなどでは能力やスキルがない社員はたとえモチベーションが高くても職を失う運命にあるので、国民の中に生じた格差の拡大が大きな社会問題となっています。両国では国のあり方について国民を二分する対立が続いており、政治も社会も不安定化しているという点は押さえておきたいところです。

筆者の経験から思い当たること

 そうはいっても、モチベーションの高さが重要であることには、私自らの経験から思い当たる節があります。私がかつて在籍していた金融機関では、セクションの半分がアメリカ人、イングランド人、オーストラリア人などの外国人だったのですが、彼らがいつも遊び心を持って仕事を進めていたことは今でも強く印象に残っています。

 仕事が忙しいなかでもジョークが多く、チーム一丸となって笑いながら職務に当たっていたことは懐かしい思い出です。チームワークが求められる職務では、笑いや遊び心が生産性を上げることはあっても下げることはありません。

 さらに当時の外国人のメンバーに気付かされたのは、職務に当たるうえで服装がその能率や成果に関係しているということです。ネクタイを締めたスーツ姿と動きやすい私服では、明らかに後者のほうがリラックスできるうえ、疲労の蓄積も軽減できるからです。外部のビジネスマンと会う時以外スーツを着ないというのは、極めて合理的な考え方です。

 今でこそ、IT企業やベンチャー企業などでは働きやすい服装で仕事をするのが一般的で、最近では三井住友銀行の東京と大阪の本店に勤務する行員の服装が自由になったことが話題になりましたが、20年以上前はネクタイを締めることなく私服で働いているという環境は非常に珍しかったと思います。

 今の日本の若者は過去の慣習にとらわれず、合理的に物事を考える人が多いので、私が若い頃経験したような働き方は合っていると考えています。

人生を豊かにするための仕事の価値観

 若手にとっても、中堅にとっても、ベテランにとっても、高齢者にとっても、これからの新しい企業社会で生き抜いていくカギは、「仕事は楽しみながらする」という価値観を取り入れることができるかどうかに懸かっています。

 圧倒的多数の中高年の人々にとって、仕事とは「生活のためにするもの」「つらくて憂鬱なもの」であり、「楽しむもの」だという発想が乏しいのではないでしょうか。この重要な点が近年の若者との大きな違いでもあるのですが、中高年の人々が自ら興味がある仕事を見つけて、その仕事を楽しむという発想が持てるようになれば、仕事へのモチベーションも上がり、生産性も上がるということは、実証的なデータがなくとも十分イメージできるでしょう。

 さらに付け加えれば、誰であろうが仕事を楽しむということが、その人の人生を豊かにするヒントになります。仕事が自分にとって好きなこと、やりがいのあることであれば、おのずと熱中できるはずなので、スキルは着実に上達していく傾向が強いはずです。

 そういった意味では、個人が一生を通して好きなことを仕事にできれば理想ではあるのですが、その好きなことに関するスキルが20年後には必要性がなくなってしまうかもしれないことや、あるいは、その好きなことに人生の途中で飽きてしまうことも想定しなければならないでしょう。

人生を楽しむキャリアの歩み方とは

 私の経験から申し上げると、経営アドバイザーや経済アナリストとして一生懸命に仕事に打ち込んできた結果、およそ十数年を過ぎた頃に、それまでの情熱が少し冷めてくるというか、何か新しい仕事を一から始めたいという衝動に駆られるようになりました。それまでは仕事が楽しくて仕方がなかったのですが、自分が目標としていたレベルまでやり切ってしまったので、次は何か違う仕事をしてみたいと思うのは、むしろ人としては自然な気持ちの流れなのではないかと思っています。

 だからここ数年の私は、仕事を目いっぱい楽しんでいるというよりは、楽しみの度合いが減った分、それを使命感で補って仕事のモチベーションを保っている状態が続いています。一般的に、自分自身の興味というものは、キャリアの形成でも趣味の世界でも、時間の経過とともに衰退していくものです。そうなった時に人生を楽しむためのひとつのキャリアの歩み方としては、今の仕事に新しい目的を見出してモチベーションを保ちながら、次に興味を持ち始めたものが仕事にできるようにスキルを学び始めるということです。

仕事も趣味も早く飽きる時代には、「楽しむ能力」が欠かせない

 趣味についてもこれまでは長い時間をかけて少しずつ自らのレベルを上げていったのに対して、今後は3年もあれば何十年も続けてきた人のレベルに到達できる蓋然性が高まっていきます。だからこそこれからの時世では、趣味にわりと早く飽きてしまう人が増えてくるでしょうが、これが過去と比べて幸せかどうかは個人の価値観によるのでわかりません。 

 それでも私は、人生のなかでいろいろな趣味を楽しめる機会が増えていくわけですから、前向きに捉えたほうがいいのではないかと考えています。やはり人生を豊かにする基本は、仕事を楽しみながらするということです。仕事を楽しむ秘訣というのは、種々雑多なことに好奇心を持つことで、「楽しむ能力」を身に付けるということです。いろいろな変化を前向きに捉えるというのも、「楽しむ能力」のひとつであると理解しています。

 今の若い人々を見ていると、「楽しむ能力」を獲得している、または獲得していく適性が高いので、これからの社会では、仕事を一生懸命に楽しみながらやれば、また次の新しい仕事に挑戦したいという意欲が湧いてきて、うまく切り替えができる人が増えてくるのではないかと思っています。このテーマに関してもっと詳しく知りたい方は、拙書『定年消滅時代をどう生きるか』(講談社現代新書)をご覧いただければと思います。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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