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就職活動が冬の時代へ ~手ごわい競争相手の台頭

中原圭介経営アドバイザー、経済アナリスト
例年、幕張メッセで開催される「就職合同説明会」の様子。(写真:森田直樹/アフロ)

新卒採用におけるグローバル企業の本音とは

 日本の大学進学率は戦後から上昇基調を継続し、2019年は54.67%となっています。なぜこれまで大学進学率が増えてきたのかというと、大多数の学生が未だに、「できるだけ有名な大学に入ることができれば、有名な企業にも入ることができる」と考えているからです。それゆえ、日本の高校生は大学に入学するために必死で勉強をしていますが、卒業するためのハードルが低いせいか、大半の学生が入学後はあまり勉強しなくなる傾向があります。

 しかしながら、経済のグローバル化の進展やデジタル経済の著しい進化によって、日本の大学生はこれまでの意識を大きく変えなければいけない状況になってきています。私がよく知る大手企業の社長は、「日本だけでは優秀な学生が足りない。海外からもっと採用したい。優秀な学生以外はいらない」と本音を漏らしています。これを表立って言えばマスコミに批判されるので言わないだけで、とくにグローバルに事業を展開する企業の経営者の多くが、程度の差こそあれ、同じようなことを思っているのではないでしょうか。

大手企業でアジアの大学生の評価が高まっている理由

 とりわけグローバル化への対応が早かった大手企業の経営者のあいだでは、海外の大学生は日本の大学生と比べて一生懸命勉学に励んでいるので、専門性においても教養においても能力が高いという評価が定着しつつあります。ですから、中国や韓国、東南アジアの大学の日本語学科などに行くと、日本語を流暢に話す学生が多いのにまったく驚くことはありませんし、アジアのどの国の学生が日本企業への就職を未だに憧れの対象にしているのかも理解しています。

 日本を除くアジア全般の大学生にいえるのかもしれないですが、アジアの大学生は自分の人生が懸かっているくらいの勢いで一生懸命勉学に励んでいます。たとえば、東南アジアや南アジアの国々では、徐々に豊かな暮らしを手に入れ始めているとはいえ、まだ多くの学生はもっと勉強してもっと豊かな暮らしを手に入れたいというモチベーションが高いのです。勉学に励むのが大学生の本来の姿であるはずなのですが、その点では日本の大学生も大いに見習ったほうがいいでしょう。

大学の生き残りをかけた改革が本格化する

 企業が大学に求める人材のハードルが上がっていったら、優秀な学生を輩出することができない日本の大学は存在する価値を失い、廃校になるところも出てくるのは必至です。大学が危機意識を持って人材育成に真剣に取り組まなければ、海外の優秀な学生との競争で日本の学生は太刀打ちできなくなります。新しい時代の要請に柔軟に応えられる大学でなければ、生き残っていくのが難しい時代がやってくるのです。

 私大の雄とされる早稲田大学では、生き残りのための改革として、新しい取り組みを進めています。学生の質を向上させるべく、学部生の2割減、教員の2割増という目標を2032年度までに達成しようとしているのです。学部生の減少は減収に、常勤教員の増員は支出増に直結するのですが、早大では収入減の一部を優秀な外国人学生を2倍以上に増やすことで賄おうと考えているようです。そうしなければ二流の大学に転落するかもしれないという危機意識を持っているのでしょう。

大学も勉学に励まない学生はいらない時代に

 これからの時代では、大学の存在意義が問われることになります。ほぼすべての大学が真っ先に着手すべきは、卒業要件を厳しくしたうえで、「真面目に勉強しない学生は当大学には入学しないでください」と宣言することです。大学の淘汰が避けられない環境下にあるなかで、それができる大学が生き残ることができるでしょう。トップクラスの大学では優秀な学生を育てるために、それぞれの教育体制の改革を進めているところですが、おそらくは2040年代には3分の1の大学がなくなっているのではないでしょうか。

 今から5年以内には、真摯に勉学に励んでいる学生でなければ、少なくともグローバル展開をしている企業への就職は難しいものとなっていきます。つまり、一流の大学であればあるほど、勉強をしない学生はこの先必要とされないということです。日本の学生は国内の学生だけを見るのではなく、海外の学生にも目を向けたほうがいいでしょう。自分が希望する職種には世界中でどれだけの競争相手がいて、自分はどう戦っていけばよいかを、学生のうちに考えておいてほしいところです。

厚待遇の採用は外国人との競争が激しくなる

 現役の大学生の立場からすれば、通年採用(年間を通じて行う採用)の拡大によって、就職活動の開始時期を自らで決めることができ、長期インターンシップや海外留学などで経験を積みやすくなるというメリットがあります。しかしその一方では、これまで以上に競争が激しくなるのではないかと不安を感じる意見もあります。これを大学生にとってデメリットといっていいのかわかりませんが、これからの大学生は国内の大学生だけでなく海外の大学生とも競争するのが当たり前となっていくので、その点ではどうしても腹をくくる必要があります。

 グローバル経済が進展した昨今では、日本企業の採用においても、外国人が占める割合が着々と高まってきています。それは、とりわけ厚待遇の採用をめぐっては、日本の大学生と海外の大学生が争う確率が高まることを意味します。当然のことながら、大手企業や有望なベンチャー企業では、日本の学生の採用数が少なくなっていく事態は避けられそうにありません。実のところ、海外に幅広く展開している企業では、外国人の新卒採用を以前から拡大し続けているところが多いのです。

メルカリの新卒エンジニアの88%が外国人という衝撃

 たとえば、NECはインド工科大学ボンベイ校と人材交流を重ねながら、同社の中央研究所では2012年から同大学の卒業生を直接採用しています。これまで30名以上の卒業生が最先端技術の研究開発に取り組んでおり、今後も同大学からの直接採用をいっそう強化していくということです。NECのような大企業だけではなく、ベンチャー企業のメルカリでも優れた外国人エンジニアが活躍し始めています。2018年に採用した新卒エンジニア50人のうち外国人が44人(88%)、このうち32人(64%)をインド出身者が占めているということです。

 企業の採用活動で通年採用や中途採用が一般的になる頃、おそらく10年後くらいには、新卒で一括採用した社員が戦力として働けるまで費用と時間がかかりすぎるという認識は、企業社会に広く浸透していることになりそうです。若手の人材が欲しいのであれば、東南アジアやインドなどから優秀な人材を採用したほうが手っ取り早いと考える企業が増えるのは必然的であり、このような潮流は専門性が高い人材を求めれば求めるほど強まっていくことになるでしょう。

 海外の学生に負けない専門性の磨き方や考え方については、拙書『定年消滅時代をどう生きるか』(講談社現代新書)で詳しく説明していますので、興味がございましたらご覧いただければと思います。

経営アドバイザー、経済アナリスト

「アセットベストパートナーズ株式会社」の経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員。「ファイナンシャルアカデミー」の特別講師。大手企業・金融機関などへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。経営や経済だけでなく、歴史や哲学、自然科学など、幅広い視点から経済や消費の動向を分析し、予測の正確さには定評がある。ヤフーで『経済の視点から日本の将来を考える』、現代ビジネスで『経済ニュースの正しい読み方』などを好評連載中。著書多数。

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