日本型雇用の大転換期が迫っている

幕張メッセでの会社合同説明会の様子(写真:森田直樹/アフロ)

新卒の「一括採用」への偏りが見直しになる背景とは

 日本の多くの企業はこれまで、新卒の学生を春にまとめて採用し、入社後に配属先を決めてきました。通常は2年~3年の異動を繰り返し、多岐にわたる部署を経験しながら昇進していくという終身雇用の仕組みで採用するのが主流だったのです。新卒一括採用と終身雇用を組み合わせた雇用形態は、人口が順調に増え続けているのと同時に、経済が右肩上がりの成長期には、極めて有効な採用方法であったと評価することができます。

 ところが今や、この企業が選択してきた方法が大きな転機を迎えています。経済のグローバル化やそれに伴うGDPの低成長に加えて、人口減少による人手不足や経済のデジタル化が加わり、良質な商品をつくれば売れるという時代ではなくなってしまいました。企業は従来のビジネスの考え方から脱し、商品を幅広いサービスと絡めながら、新卒一括採用では移り変わりが早い時代に対応できなくなってきたのです。

 2019年4月に経団連と大学側は、新卒学生の就職活動について、春の一括採用に偏っている現状を抜本的に見直し、年間を通じて採用を行うことができる「通年採用」を拡大していくことで合意しました。現在の就職活動のルールは経団連が取り決めていて、会社説明会は大学3年生の3月から、面接は4年生の6月から解禁というスケジュールになっています。2021年春入社の学生まではこのルールで運用され、2022年春入社の学生からは通年採用を広げていく方針だということです。

新卒の「通年採用」が拡大していく理由とは

 このように一括採用から通年採用への流れが決定的になっていますが、実はこの通年採用への方向性は、今の若者の仕事に対する価値観と非常にマッチしています。これまでの新卒一括採用の場合は、職務や勤務地、労働時間などを限定しないことが前提で、細かな労働条件を明文化していない「メンバーシップ型」の雇用契約が大多数となっています。  

 これに対して通年採用の場合、職務や勤務地、労働時間などを明確に限定した「ジョブ型」の雇用契約を結ぶことになります。「ジョブ型」の雇用契約はアメリカやヨーロッパでは一般的な雇用形態であり、評価の対象となる職務がはっきりしているため、定時に帰宅するのはもちろんのこと、年次有給休暇も消化することが難しくありません。

 通年採用がジョブ型雇用といっしょに拡大していけば、日本の従来の雇用形態、すなわち、現行の新卒一括採用やそれに伴う年功序列・終身雇用といった日本型雇用慣行は縮小されていくことになるでしょう。企業が定年までの長期にわたる雇用を保障する代わりに、社員は幅広い職務や転勤を受け入れるという日本固有の社員像は、否が応でも見直しを迫られるのが不可避だからです。人口減少が加速していくなかで、企業はデジタル人材を中心に多様な能力や経験を持つ人材を確保しなければならず、そのための見直しは待ったなしの状況にあるのです。

 実際に、経団連の2022年から通年採用を拡大するという方針に先駆けて、春の新卒一括採用に偏った採用手法を見直す動きは始まっています。たとえば、損保大手である損害保険ジャパン日本興亜では、2020年の新卒採用から季節を限定しない秋採用や冬採用を導入しています。海外に留学している学生や種々の活動で就職活動ができなかった学生を取り込みたいといいます。

企業にとっての通年採用のメリットとは

 専門性が求められる時代だという点でも、通年採用の需要が急速に高まっています。経済のグローバル化とデジタル化が進み、企業はITやAI、データ分析、マーケティングなど専門性を有する人材や、海外の価値観や文化を心得ている人材を確保し、国内だけでなく世界でも競争力を高めようとしています。

 ところが、専門性の高い能力を持つ人材や海外での経験が豊富な人材は、日本での新卒一括採用の網にはほとんどかからないという厳しい現状にあります。企業が求めている人材には限りがあるにもかかわらず、採用時期にこだわった今の方式では、海外に留学している学生や海外から留学している外国人にとって日本の企業で就職する機会が失われています。

 こういった状況を改善するために通年採用の仕組みが導入されれば、日本人の留学生や外国人留学生が日本で就職活動をしやすくなります。東南アジアなど海外の大学生も日本の企業に就職しやすくなります。さらには、長期のインターンシップと組み合わせた就職活動も可能となり、時期を問わない企業の採用は貴重な人材の離職防止にもつながっていきます。

転勤を廃止したら、就職希望者が例年の10倍に

 こうした通年採用に基づくジョブ型の雇用契約は、少子高齢化に蝕まれている日本社会の要請でもあります。仕事と親の介護や育児を両立しなければならない会社員には、日本独特の制度である転勤の負担が非常に重くなってきているからです。近年では親の介護や育児を理由に「転勤がないようにしてほしい」と訴える社員や、親の介護のためにキャリアアップをあきらめたり、離職したりする社員も増えています。

 そういった背景から、企業が転勤制度を見直し始める動きが徐々に広がってきています。たとえば、AIG損害保険は会社の都合による転勤を原則として廃止しています。それまでは営業社員が平均で4年ごとに全国各地を異動していましたが、2021年までに希望する地域で働けるようになり、本人が希望しない限りその後の転勤もないといいます。大多数の社員が転勤を希望していないという実情に配慮したということです。

 金融業界などでは転勤のある社員と転勤のない社員(地域限定社員)を区別して、給与に1割~2割の差を付ける企業が多いのですが、AIG損害保険は地域限定社員の存在が優秀な社員のモチベーションの低下やキャリアアップの障害になると判断し、思い切って転勤の廃止を決断したといいます。その効果は採用の面に如実に表れ、同社では2019年の就職希望者が例年の10倍にまで増えたというのです。

終身雇用・年功序列の終わりの始まり

 社員の採用と離職の防止といった課題を前にして、企業には社員の働く環境を重視した柔軟な制度を導入することが求められています。転勤がある限り優秀な外国人社員を採用できないばかりか、若者を中心に日本人の採用もおぼつかなくなってしまうのです。若い社員は住む地域が定まらなければ人生設計を立てにくいと、とりわけ転勤という制度を嫌がります。そもそも転勤は2分の1ないし3分の2は玉突きによる不要な人事だという実態があるため、企業はその効果を検証して必要な転勤とそうでない転勤を見極めるべきです。

 優秀な学生や留学生、外国人を獲得するために、通年採用とジョブ型雇用を増やす方針は前向きに評価できると思います。通年採用とジョブ型雇用の広がりは、企業が自由な採用活動を認められる契機となり、横並びの一括採用と年功序列に象徴される日本型の雇用慣行が大きく変わる原動力となっていくでしょう。新卒採用から通年採用への移行は、終身雇用の終わりの始まりを意味しているというわけです。