日本が少子化を和らげる実証的な方法とは

コマツの坂根正弘・相談役(写真)は、これまで効果的な少子化対策を実践してきた

少子化対策はコマツに学べ

 今後の日本について懸念すべき最大の問題は、誰もが認めるように「少子高齢化」しかありえません。少子高齢化によって長期的にもたらされる悪影響は、国家としての経済規模の縮小にとどまらず、社会保障費の膨張、税収不足に伴う財政危機、治安の悪化など、私たちの生活水準の著しい低下を招くことが必至だからです。たしかに、私たち自身が老いていくわけですから、高齢化を止めることも緩和することも絶対に不可能でしょう。それでも、少子化を緩和する実証的な方法はありますので、それを実践しないという選択肢はないはずです。

 しかしながら、この厄介な問題を解決するために、政治の世界では一向に抜本的な処方箋を講じることができていません。政治にとって優先されるのは、成果が20年先、30年先に表れる政策よりも、目先の選挙で投票してもらえる政策を実行することだからです。したがって、政治家の方々は「少子化対策を何とかしなければならない」と普段から訴える素振りを見せていますが、結局のところ、この問題に対して真剣に取り組もうとはしないのです。

 だからこそ私たちは、建設機械大手コマツの少子化対策への取り組みに括目するべきでしょう。今ではグローバル企業として確固たる地位を築いたコマツは、国内雇用をきわめて重視している見本のような企業です。同社の坂根正弘・相談役は2001年に社長に就任して以降、為替に左右されない高収益体質を築き上げたタフな経営者ですが、その坂根氏が社長時代から進めてきたのが、事業の選択と集中によって競争力は維持できるとして、創業地である石川県への地元回帰を中心とした本社機能や工場の地方への分散であります。

 その経緯を振り返ると、まずは2002年に、部品調達本部を東京本社から石川県小松市に移しています。これからもITが進歩していく世の中では、部品調達本部は協力企業が近くに集まる工場にこそあるべきだと判断したというのです。続いて2007年には金沢市と茨城県ひたちなか市に新しい港湾工場をつくり、2011年には本社の教育研修組織と複数拠点に分散する研修施設を統合して、小松市に総合研修センターを開設しています。これまでの地元回帰では、150人以上の社員が本社などから石川に転勤になったということです。

石川の従業員は東京と同等の賃金体系のため、生活が豊かになり子供の数も増えていく
石川の従業員は東京と同等の賃金体系のため、生活が豊かになり子供の数も増えていく

女性社員1人あたりの子供の数が3.4倍に

 私は2011年にコマツが本社機能の地方分散を進めていることを初めて知ったとき、少子化を緩和していくためには、かつ、地方の衰退を止めていくためには、コマツの取り組みを多くの大企業が見習う必要があるだろうと直感することができました。それ以降、コマツの取り組みが他の大企業にも波及することを願い、自らの連載や講演会、拙書などでも取り上げながら応援してきたつもりです。

 実際に、本社機能の地方への分散は、正確にはどの程度の効果をもたらすことができているのか、私自身もずっと気になっていたところです。そのように思いを巡らし続けていた矢先、偶然にもある催しでコマツの坂根正弘・相談役にお会いする機会があったので、お話を伺いたいと率直に申し上げたところ、日本の将来を考えるうえで、非常に意義あるインタビューをさせていただくことができました。

 坂根氏は「なぜ地方を重視するのか」という問いに対して、「その本質的な動機は、この国の深刻な少子化問題を解決したいという思いにある」と明かしています。コマツは1950年代に石川から東京に本社を移し、工場も輸出に有利な関東・関西に移していますが、多くの地方企業がそういう歴史を辿ったことによって、東京への過度な一極集中とそれに伴う少子化を加速させてきたという事実を直視し改めなければならないというのです。

 現に、コマツの本社機能の地方への分散は、少子化対策としてはっきりとした数字を残しています。同社の30歳以上の女性社員のデータを取ると、東京本社の結婚率が50%であるのに対して石川が80%、結婚した女性社員の子供の数が東京は0.9人であるのに対して石川は1.9人と、掛け合わせると子供の数に3.4倍もの開きが出ているのです(東京0.5×0.9=0.45:石川0.8×1.9=1.52 ⇒ 1.52÷0.45=3.37)。石川は物価が東京よりもずっと安いし、子育てもしやすい環境にあるので、これは当然の結果といえるでしょう。

 坂根氏は地方回帰を進めてきた効果について、「女性従業員の出生率が飛躍的に上がった」だけでなく、「従業員の生活が豊かになった」「退職者の健康寿命が延びた」などと語り、さらに「代表的な地方出身企業であるコマツが率先して地方への回帰で成功を収めれば、いずれは他の大企業も次々と回帰の道を辿ってくれるのではないか」という期待も述べています。坂根氏の気持ちを汲み取るならば、コマツは国家の将来を憂い、強い使命感を持って経営にあたっているということなのです。

企業と地方のコラボが不可欠

 しかしながら、今現在において本社機能の一部を地方に移すという動きは、トヨタやアクサ生命などわずかな大企業でしか行われていないという厳しい現状があります。実際に、本社機能の地方移転が少子化対策として本質的対策であることは、コマツの事例が明確に示しているはずですが、どうしてコマツの取り組みがずっとクローズアップされなかったのか、非常に不思議に思っているところです。日本の企業経営者もいま一度、地方に目を向けた経営、雇用を考えてみるべきではないでしょうか。

 私には坂根氏が「コマツの後に続いてくれるところが少ない。この国はどうなってしまうのか」と嘆いていたのが印象に残っていますが、大企業が自らの利益や効率性だけを考えていたら、本社機能の地方移転などはとても決断できない経営判断であるといえます。だから、政治が何としても少子化を食い止めようという気概を持って、地方移転にチャレンジする大企業を支援する優遇税制などの措置を講じなければ、大企業が地方に興味を示すことはなく、絶対に少子化の問題は解決に向かうことはないでしょう。

 その一方で、地方自治体が積極的に大企業の本社機能の誘致に取り組んでいく必要もあるでしょう。ただし、地方自治体によって各々の特色があるので、相乗効果が発揮できる大企業と地方自治体が協力するのであれば、大企業のほうは何も創業地にこだわる必然性はないと思っています。そういった意味では、地方の疲弊が止められるのか、疲弊が進んでしまうのかは、各々の知事の才覚に大きく左右されることは間違いありません。これからの道府県民はそういった視点を持って、選挙に自らの票を投じてもらいたいところです。

まずは、できることから始めよう

 冷徹になって少子高齢化や地方の疲弊の行き着く先を分析すると、どう考えても日本の将来は悲観せざるをえない状況にあります。たとえ奇跡的に20代~30代の女性の出生率が数年後に2.0に跳ね上がったとしても、その年代の女性の人口がとても少ないので、50年後まで日本の少子化は止まらないのがわかっているからです。将来の日本は今より重税感が強くなるにもかかわらず、地方自治体の破綻が相次ぐような社会になっているでしょう。

 そうはいっても、私たちは少子化を和らげるために、各々ができることからやっていかなければならないと考えています。何もしないで放っておいたら、将来の状況はさらに悲惨になってしまうのが避けられないからです。そういった趣旨では、私がこの問題に対して今できるのは、コマツの取り組みをもっと世の中に知ってもらい、微力ながらも少子化対策の流れに協力していくことであると思っています。