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元ソフトバンクのイ・ボムホ 感動の引退試合 元同僚の川崎宗則氏も「サランヘヨ」と動画メッセージ

室井昌也韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表
引退試合で同僚と抱擁するイ・ボムホ(写真:KIAタイガース)

KIAタイガースの内野手で元ソフトバンクのイ・ボムホ(李★浩、37)が後進に道を譲るため、現役引退を決断。13日に引退試合が行われた。

異例とも言えるシーズン中盤、7月の引退試合。そこにはイ・ボムホのある要望があった。

味方全員が同じ背番号をつけ古巣と対戦

2000年にハンファイーグルスでプロ生活をスタートしたイ・ボムホが、引退試合の対戦相手に望んだのは10年間所属したその古巣。ハンファとのKIA本拠地戦で週末開催のこの日がイ・ボムホのラストゲームとなった。

イ・ボムホの惜別ゲームに球団は準備を惜しまなかった。韓国では2012年に引退試合を行ったイ・ジョンボム(元KIA)をはじめ、選手全員が引退する選手の背番号を背負うことがある。

この日のKIAは選手とコーチ陣だけでなく、裏方さん、球団職員など関係者全員がイ・ボムホの名前と背番号25が入った、オリジナルデザインのユニフォームを着用。別れの舞台を作った。

全員が25番を着用。金色の背番号にはイ・ボムホのサインもプリントされている(写真:ストライク・ゾーン))
全員が25番を着用。金色の背番号にはイ・ボムホのサインもプリントされている(写真:ストライク・ゾーン))

満員札止め20,500人のファンがスタンドを埋める中、イ・ボムホは6番三塁で通算2001試合目となるゲームに先発出場した。

元同僚で同い年、川崎宗則氏からのメッセージ

イニング間には大型ビジョンにイ・ボムホへのメッセージ映像が次々と映し出された。日本からはイ・ボムホが2010年に在籍したソフトバンクの同僚で同い年の川崎宗則氏から全文韓国語でコメントが寄せられた。以下がその映像だ。

(映像:KIAタイガース公式youtube)

<メッセージ全文翻訳>

「私はイ・ボムホ選手が日本で所属したチームの川崎宗則です。イ・ボムホ選手とは2010年に1年間一緒にプレーしました。その時、イ・ボムホ選手が韓国についてたくさん教えてくれました。だから韓国がとても好きです。またイ・ボムホさんと会いたいです。いつも韓国の兄弟だと思っています。サランヘヨ!」

イ・ボムホは「日本の元同僚で引退を伝えたのは、時折連絡を取り合っている川崎だけ」という。イ・ボムホは川崎氏が台湾で現役を再開することを知らず、川崎氏に「いつ日本に来るんだ。来たらバッティングを見て欲しい。そしてマッコリを飲もう言われた」と笑顔で話した。

「満塁男」に訪れたまさかの見せ場

試合はハンファが序盤に4点をリード。その間、イ・ボムホの打席は四球とセンターフライという内容だった。

しかしKIAは0-7と大きくリードを許して迎えた5回裏、反撃に転じる。3点を挙げ4点差とし、なおも2死満塁。一発出れば同点という場面で打席にイ・ボムホが入った。

「満塁とイ・ボムホ」

それは特別な意味を持つ。イ・ボムホが満塁で放ったホームランの数は歴代1位の17本。ファンの「満塁男」への期待はおのずと高まった。

この場面でイ・ボムホはカウント1-2の4球目をとらえた。しかし打球はフェンスまで届かずレフトフライ。イ・ボムホはこの打席で退き、現役最後の出場を終えた。試合は5-10でKIAが敗れ、イ・ボムホの最後を勝利で飾ることは出来なかった。

試合後、イ・ボムホは満塁での“最後”の打席をこう振り返った。

「最後に訪れた満塁の場面で、三振だけはしないようにと思ってあせったら、スイングの始動が早かった。バットの先だった」

だが、イ・ボムホには予め、挽回の機会が用意されていた。試合後のセレモニーではKIAのナインがグラブを手に守備位置へ。守備だけではなく3つのベースも走者が埋めた。そして右打席にはイ・ボムホ。そう、満塁の場面の再現。最後の最後のイ・ボムホの満塁ホームランチャレンジだ。

イ・ボムホに与えられたのは5スイング。イ・ボムホは投手役を務めたキム・ソンビン内野手から3スイング目を、見事左中間の芝生席に運ぶ満塁弾。ダイヤモンドを一周するイ・ボムホにスタジアムは歓喜に包まれた。

長距離砲が描く、指導者としての夢

イ・ボムホは盛大な引退試合について、「チームの生え抜きではないし、(在籍9年と)短いのにこのような引退試合をしてもらえることに心配もした。申し訳ないとも思った。たくさんの準備をしてくれた球団に感謝している」と話した。

また、イ・ボムホのハンファ当時のチームメイトのキム・テギュン(元千葉ロッテ)は、1つ年上の先輩についてこうコメントした。

「10年間、ハンファでプレーした先輩で辛い時、そして代表チームでも一緒だった。いつも誠実でチャンスに強い。4番の自分がチャンスを逃しても、その後ろで還してくれた。守備も安定感があるし、後輩にとって学ぶ点が多かった。まだまだ十分にやれると思うけど、決めたことだから仕方がない。決断して楽になったと言っていた」

キム・テギュン(右)はハンファ当時のイ・ボムホを描いた額を贈呈した(写真:KIAタイガース)
キム・テギュン(右)はハンファ当時のイ・ボムホを描いた額を贈呈した(写真:KIAタイガース)

イ・ボムホはしばらく家族との時間を過ごした後、9月から海外で短期の指導者研修を受ける。そしてその後のプランについて、イ・ボムホはこう明かした。

「韓国の若手にいい打者はいるが、ボールにスピンをかけて打つ技術を知らない。これから研究して、タイガースに指導者として戻ってきた時に、長打を打てる選手を作ることが最大の目標だ」と話した。

歴代5位の通算329本塁打を残し、ユニフォームを脱いだイ・ボムホ。第2の人生で次代の長距離砲が生まれる日が待たれる。

※★は木へんに凡

韓国プロ野球の伝え手/ストライク・ゾーン代表

2002年から韓国プロ野球の取材を行う「韓国プロ野球の伝え手」。編著書『韓国プロ野球観戦ガイド&選手名鑑』(韓国野球委員会、韓国プロ野球選手協会承認)を04年から毎年発行し、取材成果や韓国球界とのつながりは日本の各球団や放送局でも反映されている。その活動範囲は番組出演、コーディネートと多岐に渡る。スポニチアネックスで連載、韓国では06年からスポーツ朝鮮で韓国語コラムを連載。ラジオ「室井昌也 ボクとあなたの好奇心」(FMコザ)出演中。新刊「沖縄のスーパー お買い物ガイドブック」。72年東京生まれ、日本大学芸術学部演劇学科中退。ストライク・ゾーン代表。KBOリーグ取材記者(スポーツ朝鮮所属)。

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