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「留学予定者に至急ワクチン接種をさせて欲しい」。学生から集まる悲痛な叫び

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:w.mart1964/イメージマート)

新型コロナウイルスワクチン接種が広がり、コロナ禍で海外留学を諦めかけていた学生たちにも希望が見えつつある。

6月15日には、文部科学省が渡航先でワクチン接種が必要とされている海外留学予定者に対して、大学拠点接種の枠組みの中で接種を受けられるよう支援する仕組み、「留学予定者ワクチン接種支援事業」を開始。

最大約9割が本事業の対象外になる可能性

しかし、当の海外留学予定の学生たちからは「これでは受けられない」と、対象拡大を求める声が多く上がっている。

「留学予定者ワクチン接種支援事業」は、対象条件として、「渡航先でワクチン接種が必須又は強く求められている。」ことを挙げているが、米国以外の多くの大学ではワクチン接種は「推奨」もしくは「要請」にとどまるケースが多く、対象外となっている。

実際、海外留学予定の学生(123名)に実施したアンケート結果によると(6月17日〜19日にインターネット上で実施)、本事業の利用の意向を示した日本人留学生は約5%で、約半数となる47%が「本事業の利用を希望しているが対象ではないので接種できない」と回答している。

特にワクチン接種を「必須」「強く求められている」渡航先が極めて少ない欧州に赴く日本人留学生から、「本事業の利用を希望しているが対象ではないので接種できない」との声が多く寄せられている。

「留学予定者ワクチン接種支援事業」に関する実態調査アンケートより
「留学予定者ワクチン接種支援事業」に関する実態調査アンケートより

「留学予定者ワクチン接種支援事業」に関する実態調査アンケートより
「留学予定者ワクチン接種支援事業」に関する実態調査アンケートより

「間に合うか不安」との悲痛な叫び

「留学予定者ワクチン接種支援事業」に関する自由記述回答では、合計2回の接種や現地での隔離措置・授業準備に要する期間から「間に合うか不安」、「今夏を逃すと二度と留学できない」といった悲痛な叫びが並ぶ。

「大学からの接種を求められている」という条件をなくしてほしい。卒業までの2年間、経済的な理由で帰国する予定がなく、副作用で何かあった時のことを考えると、日本で打つ方が経済的にも精神的にも"安心安全"。それは、大学から接種を求められていようといまいと、全員に当てはまることではないだろうか。また、文部科学省を通じず自力で接種してもらえた場合、これも接種が義務付けられていなければ英文証明書を発行できないと回答を受けたが、発行できるようにしてほしい。戸籍謄本ですら英文で発行できない市町村にそのような対応力はない。

ワクチンについては交換留学先から今現在何も指示が出ていないため、留学先の学校から指示が出ている学生しか接種できないのは困る

渡航先でワクチンが必須条件になっていないので、せっかく優遇して頂いても接種することができません。合格通知書もしくはそれに相当する正式な書類があれば接種できるようになるとより多くの人が該当するのではないかと思いました。

とても良いことだと思ったが、打つ前の条件が引っかかる。ワクチン必須のところなんて、まだ少ないのではないかと思った。

政策の柔軟性は良いと思うが、実質的に渡航先の国や大学が、ワクチン接種を必須もしくは強く要請することは人権や訴訟リスクの問題上、難しさがあり、またオーストラリアなどの現在国境が閉じている国では国境が開いた際 (トラベルバブルなどの第三国を経由する入国も含む) 、留学生の入国の必須項目にワクチン接種済みが入る可能性が高いため、現在必須となっていなくても事前に接種済みであることの重要性も考慮してほしい。

義務化されていない大学へ留学する人は条件不備で打てないというのが納得いっていません。ワクチンが余っているはずなのにそのような条件を出さなくても良いと思いました。現に私は義務化されない大学へ留学するのでワクチンを打てずに海外へ行くことへの不安が募ります。

留学予定者にとってはありがたい制度ですが、少なくとも大学からワクチン接種を推奨されていなければ本制度を利用することが難しいと思います。他方、イギリスではワクチン接種者の入国後の隔離制限を緩和する動きもあり、大学からワクチン接種を推奨されていない学生も本制度を利用できればメリットになると思います。使用されるモデルナのワクチンは 4 週間間隔を空けて接種しなければならないので、9 月の渡航に間に合うように、早めに対象者拡大の動きがあればありがたいと思います。

私の渡航予定の大学は、キャンパス内に入るのに、72 時間以内の PCR 検査陰性証明とワクチン接種証明のいずれかを求めている。日本でワクチンを接種できないまま現地に行くことになれば、毎日のように PCR 検査を受けねばならない。金銭的にも厳しく、現実的ではない。私と同じような問題に直面している交換留学生は、他にも多数いると思う。条件緩和を検討してほしい。

国内でのワクチン接種がいまだ広く国民に行き渡っているとは言えない中、海外留学を通じた人材育成の重要性も考慮しつつ、海外留学予定者に優先接種を行ってくださることについては、心から感謝しなければなりませんし、その恩恵をかみしめつつ謙虚でなければならないと思います。しかしながら、イギリスをはじめとして多くの国が優先接種の対象とはならない中、「ワクチン接種を理由に留学を断念し、人生における貴重なチャンスを失うことがないように」という目的に照らして政策のパフォーマンスが低くなるのではないかと懸念しています。渡航前にワクチン接種をできない場合、自己隔離や PCR 検査などの追加費用が大きな負担となったり、渡航経路などについて様々な制限が課されたりするなど、渡航先で接種が必須となっていない場合でも留学に大きな障害が生じる可能性があります。以上のことから、渡航先で接種が必須となっているか否かに関わらず優先接種の対象としていただくよう、文部科学省をはじめとする政府関係者の皆様にお願い申し上げます。

また、現状は「「海外の大学での学位取得」若しくは「日本の大学の留学が必須の課程での学位取得」のため、又は9か月以上の期間海外の大学に渡航する必要がある。」場合が本事業の対象になっているが、9か月未満の交換留学も対象に含めて欲しいという声も多く上がっている。

前期の留学がコロナの影響でオンライン留学になってしまった。残すは後期の約 4 ヶ月間であり、また留学先大学からもワクチン接種を求められていないため、文科省の支援対象外である。また、自治体や大学の接種も未だ見通しが立っていない。8 月半ばの渡航に合わせて早急にワクチンを打ちたいため、1 セメスターの交換留学及び留学先大学からワクチン接種を求められてない場合も対象としてほしい。

9 ヶ月以上の留学に対してしか認められていないのはなぜか。半期で 4 ヶ月の交換留学生は対象にならないのか。

交換留学 (留学が義務の学部ではない) で 2021 年秋学期に1学期間アメリカの大学に留学予定。留学先はワクチンを義務化しているおり、アメリカの大学側は学校のプログラムが開始する際には全ての学生・スタッフが 2 回の接種を終えていることを前提としている。渡航は決まっているのだが、文科省の交換留学生のワクチン接種基準の「9ヶ月以上の渡航」に当てはまらないため現基準だとワクチンをうけることができない。地元の自治体の接種券の発送が 7 月 30 日以降のため間に合わない。8 月 5 日に渡航し、8 月 23 日に留学先のプログラムが開始する。9ヶ月以上の基準ではなく、同じ”交換留学”として一学期の学部交換留学の予定者にも「留学予定者ワクチン接種」を認めて欲しい。

海外では「外国で学んでいる」なら優先接種の対象に

コロナ禍で海外留学に制限がかかっているのは世界共通の課題であるが、アジア近隣諸国では、よりハードルの低い形で優先接種を行なっており、積極的に海外留学の機会を確保しようとしている。

たとえば、シンガポールでは、「物理的な出席が必要」なら優先接種の対象としている。

シンガポール保健省は「外国での教育プログラムの参加・修了を目的とする国民および永住者」を優先接種の申請対象に位置付けている。具体的には、「課程の開始・修了、考査もしくは入学試験に外国の教育機関での物理的な出席が求められている場合」としている。

香港では、「外国で学んでいる」16歳以上の生徒・学生を拡大優先接種グループに位置付けている。

海外留学はオンラインでは学べない、貴重な経験であり、コロナ禍で1年休学して留学を望んでいる学生も珍しくない。

そうした学生の夢を途絶えさせぬよう、日本政府には一刻も早く優先対象を拡大することを求めたい。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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