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感染症対策を大学に丸投げする文科省の無責任さ

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:西村尚己/アフロ)

萩生田光一文科大臣は9月6日、フジテレビの「日曜報道 THE PRIME」に出演し、新型コロナウイルスの影響でオンライン授業が続く大学について、あらためて対面授業の実施を求めた。

「学ぶ意欲があって大学に入学した新入生も、まだキャンパスに入ったことがない学生もいる。後期もオンラインですよと宣言してしまっている学校もあって、そこは違和感を感じる」

先日の記事(「大学のキャンパス再開が難しい理由と、政府に求められる大学支援」室橋祐貴)でも書いたように、筆者も対面授業の再開を強く望んでおり、後期も「オンライン授業のみ」のところに違和感を覚えないではないが、文科省は口で要請するだけなのだろうか?

大学には感染症対策費用を措置しない文科省

というのも、基本的に対面授業に戻している(オンライン授業ができないために戻らざるを得なかった)初等中等教育に対しては、令和2年度第2次補正予算において、学校での感染症対策に予算措置をしており、コロナ対策に費用負担が発生することは当然認識しているはずである。

出典:令和2年度文部科学省第2次補正予算案事業別資料集
出典:令和2年度文部科学省第2次補正予算案事業別資料集

にもかかわらず、対面授業を求める大学に対しては、予算措置をしないのだろうか?(私学助成金の交付前倒しは決めたが追加支給されるわけではない)

また、8月に秋学期が始まったアメリカでは、相次いで大学でクラスターが発生しており、日本でも同様の事態に陥ることは容易に想像できるが、政府として、報道機関に対して学校名を伏せるなり、余計なバッシングを生まないよう求めるなど、何か対策はしないのだろうか。

一貫性に欠ける政府の姿勢

何より、感染者が増えるからと、企業にリモートワークを要請し、「Go To Travelキャンペーン」で東京都を外す一方、大学には感染拡大の可能性が高いキャンパス再開を求めるという、政府の矛盾した姿勢が余計な混乱を生み出している自覚はないのだろうか。

(マスコミも、対面授業再開を求める一方、クラスターが発生したら大学名を公開するというマッチポンプを展開しているが)

大学は7月27日に文科省から出された通知に応じて、後期の対応を検討しており、その判断に「ケチ」を付けるなら、予算措置や感染拡大に政府が責任を持つ等、政府として何かしらの対応を行うのが筋である。

本年度後期や次年度の各授業科目の実施方法を検討するに当たっては,大学設置基準第25条第1項が,主に教室等において対面で授業を行うことを想定していることに鑑み,地域の感染状況や,教室の規模,受講者数,教育効果等を総合考慮し,今年度の授業の実施状況や学生の状況・希望等も踏まえつつ,感染対策を講じた上での面接授業の実施が適切と判断されるものについては面接授業の実施を検討していただき,授業の全部又は一部について面接授業の実施が困難と判断される際には,「2 遠隔授業等の実施に係る留意点」を踏まえた上で,遠隔授業等(面接授業との併用を含む。)の実施を検討いただくようお願いいたします

(中略)

以上を踏まえ,各授業科目の実施方法について御検討いただいた結果,本年度後期や次年度の授業の実施方法としては,面接授業のみ実施,面接授業と遠隔授業の併用実施,遠隔授業のみ実施等多様な授業の実施形態が考えられますが,いずれの場合も,授業計画(シラバス)等に明示し,学生に対して丁寧な説明に努めるとともに,その実施方針等については、受験生の進学先の参考となるよう,できる限り早めにインターネット等により公表していただくようお願いいたします。

出典:本年度後期や次年度の各授業科目の実施方法に係る留意点について

明確な文書で対面授業を「要請」することなく、マスコミに出て現場に「忖度」を求める。そして政府は予算も出さなければ、責任も取らない、というのはあまりに無責任ではないだろうか。

関連記事:大学のキャンパス再開が難しい理由と、政府に求められる大学支援(室橋祐貴)

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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