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「9月入学」移行案に当事者の学生はどう思っているのか?【独自調査結果】

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:西村尚己/アフロ)

賛否両論が白熱している「9月入学」への移行案。

大手新聞社等が実施している「9月入学」の是非に関する世論調査では、賛成多数のものが多く見られるが、そのほとんどが当事者ではない18歳以上を対象にしており、当事者である学生の意見はなかなか見えてこない(その世論調査に関しても、たとえば日経新聞の調査では、知事の6割が「賛成」とタイトルにも入れて強調しているが、ほぼ同数が「どちらともいえない」と答えており、報道のバランスに関して疑問が拭えないところも存在する)。

そこで、筆者が代表理事を務める日本若者協議会では学生を対象にアンケートを実施。全国の小学生から大学院生まで、計718名に回答してもらった。

その結果を、一部紹介したい。

以下の内容は全て、日本若者協議会によるアンケート結果速報からの引用。

「9月入学」の是非に関する学生アンケート結果速報

アンケートの概要

このアンケートは、日本若者協議会のHPやSNS上で回答を募集したWebアンケートです。調査対象は、小学生〜大学院生で、調査期間は5月1日(金)〜10日(日)です。

・調査方法 Web調査(日本若者協議会ホームページやSNS上で回答を募集)

・調査対象 全国の小学生〜大学生・大学院生

・調査期間 5月1日(金)~5月10日(日)

・回答数 718回答

・アンケート結果についての注意点

※回答は実名制ですが、不適当な回答の可能性があります。

※Web上の調査であり、属性が偏っている可能性があります。

日本若者協議会とは、若者の声を政府や社会に届ける「窓口」として、若者政策の立案、各政党との政策協議、政策提言を行っている若者団体です。

学生全体だとやや反対

まず、学生全体では、「賛成」37.2%、「反対」47.0%、「どちらとも言えない」15.8%と、反対がやや多い結果となった。

「9月入学」の是非に関する学生アンケート結果速報
「9月入学」の是非に関する学生アンケート結果速報

属性別に見ると、高校生は拮抗した一方、小中学生は反対多数、大学生・大学院生も反対が多めとなった。

小中学生ー「賛成」18.6%、「反対」78.6%、「どちらとも言えない」2.8%

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高校生ー「賛成」41.1%、「反対」39.0%、「どちらとも言えない」19.9%

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大学生・大学院生ー「賛成」35.0%、「反対」53.5%、「どちらとも言えない」11.5%

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「行事をやり直したい」「受験への不安」「実習ができない」(賛成意見)

賛成している学生はどのような理由を挙げているのか。一部紹介したい。

◯公立小学6年生・長野県

小学生最後の一年なのに、勉強も行事もちゃんと出来ないで終わってしまうからです。ちゃんとやりなおしたいです。

◯私立小学6年生・東京都

僕たち6年生は今年は最高学年として学校で勉強以外にも行事などを通していろいろなことを学ぶと先生に伝えられていました。

でも、入学式、運動会、創立記念行事、平和学習の行事がもう中止です。学校や塾から宿題ばかり送られてただ勉強をするだけで4月から外出は全くしていません。勉強だけで、楽しさは全くありません。楽しい、悔しい、達成感など何もありません。大人は勉強の遅れの事ばかり言いますが、勉強以外にも学ぶことが学校にはあると思います。

勉強だけでいいなら学校はいりません。心の教育もとても大切だと思います。そのためには夏休みをなしにして勉強の遅れを取り戻そうと詰め込むことだけを考えてほしくないです。無茶苦茶な教育はやめてほしいです。僕たちはロボットではありません。

僕には今年1年生のはずだった妹がいます。妹は卒園遠足も中止、卒園式も写真撮影もできず縮小、入学式は学校からの映像を見るだけで終わりでまだ1度も学校に行っていません。もちろん春の行事もないです。僕は入学式の時、とてもドキドキしたけど、6年生が優しくしてくれて安心したのをよく覚えています。なので6年生になったら1年生を優しく迎えたいと思っていました。妹はそんな経験ができないのはかわいそうだと思います。

僕は受験生でもありますが、塾も休みでテストも受けられず志望校も決められません。このまま2月の入試のままだとどうなるのか不安です。

◯私立中学3年生・神奈川県

今は学校の授業はオンラインで行っている状況です。私は学校で学ぶべきものは勉強以外にも社会性もあると思います。

オンライン授業では学生同士のコミュニケーションを取るのは難しい現状にあります。

受験生としてはやはり通常の授業より進行が遅くなってしまっているので不安もあります。

また、9月入学にすることによって留学もしやすくなりますし、そのことによって日本の学力向上が期待できるのではないでしょうか。国としても学力の向上を目指しているのであれば世界に目を向けてグローバル化を推し進めるべきだと思います。

もちろん混乱を招くことは承知の上です。

私立学校の場合学費の問題などもあると思います。しかし、大事なのは学校に行き勉強し社会性を学ぶことではないでしょうか。

◯公立高校3年生・山口県

私立高校はオンライン授業の体制がすでに整っているところが多く、友達で私立に通っている子たちはオンラインで授業を受けることで、授業が進んでいるし、オンラインであっても、学校との繋がりがあるため、勉強のモチベーションも比較的保ちやすい状況にあると思う。しかし、私のように公立の学校に通っているほとんどの生徒はオンライン授業の体制も整っておらず、自力でこの先の学習を予習しなければならないという状況下にあると思う。ずっと家で課題をこなすだけでもなかなかモチベーションが上がらず一苦労なのに、さらにこの先の予習までも"完璧に"こなせと担当教員から言われることはすごくストレスに感じてしまう。私の代から共通テストに変わるということだけでも不安があるのに、なかなか授業が行うことができない、予習は自分でということはさらに不安が積み重なり、気分転換の外出も控えなければならず、正直ストレスばかりがたまる一方である。学校や地域によって現時点で学習に差があることは確かである。私たちはみんな教育を受ける権利があるのだから、そこは全国一律に、平等にということを意識してもらいたい。確かに、メリットばかりではないが、地方の学生や、オンライン体制が整っていないところに目を向けてほしい。

◯短期大学2年生・東京都

私は短期大学生で、今年が就職活動期間です。

これから何度か実習があるはずですが、どうなるかわかりません。実習自体がなくならない保証もありません。

もしも実習に行けないとなると、残りの少ない時間で他の期間にずらす、又は他の実習先を探し実習をさせていただく、もし見つからなければ私たちは資格を取れず留年することを余儀なくされます。就職活動期間の短さもお考えください。今年のように就職難の学生が増えると思います。短大生や専門学生にとってのこの2ヶ月は本当にとても貴重でした。留年するにしても、また学費を払う金銭面の余裕はありません。

オンライン授業だけでは事足りない学生もいる事をどうかご理解ください。

私たちには時間が必要です。

「今の状況下でも勉強を頑張っている」「半年分の学費、生活費をどうするのか」「9月入学で留学生が増えるとは思えない」(反対意見)

次に、反対している学生の声も一部紹介したい。

◯公立小学2年生・埼玉県(母親記入)

絶対に絶対に嫌だと本人は言いますが、理由をうまく説明できないようです。

今同じ学年の子と学年が変わってしまうのが嫌だそうです。あとは8月生まれなので早生まれになってしまいます。

◯公立小学6年生・埼玉県

中学受験をする予定ですが、9月の入学は絶対に反対です。なんとか自宅学習でしのいで新学期が2ヶ月過ぎてほっとしているところで、9月からふりだしにもどるなんて絶望しかないと思います。この機会にオンラインの拡充に全力を注ぐことで、ゆくゆくは公立の学校も自宅学習スタイルと通室スタイルを選べるようになると一番良いと思います。今やるべきことは全学生一斉留年ではなく全力で学校のあり方をかえることだと思います。

塾のオンライン授業が先日始まりましたが、「手をあげる」ボタンなどがあり、はっきり言って勉強ができる方ではない僕は普通の授業ではだまってきいてあてられないよう小さくなって帰るだけとなってしまいがちでしたが、オンラインでは人に知られず後からでも質問ができるのです。

せっかくできることを頑張って、なんとなくリズムがつかめてきたところで今回の9月入学の話がいきなり出て来て、休校延長よりはるかに心がざわつき憤りを感じます。このままでは本当にそうなってしまうのではという不安に苦しめられています。

◯公立高校3年生・福島県

これがグローバルスタンダードに合わせる絶好のチャンスだなどと言われていますが、そもそも国際化が無条件に良いと思わないです。政治家がインパクトあることを言って注目を浴びようとしているようにも見えます。これまでの4月入学の制度は良くないという議論はあったであろうが、そこまで大きくなかったし、不満を感じている人などかなり少ないと思います。ここにきて、急に?と思ってしまいます。更に、ただでさえセンター廃止など共通テストに関してゴタゴタしていたのに、これ以上振り回さないで欲しいです。3月で高校を卒業し、大学へ進学して自立するつもりで必死で勉強してきたのに。僕は塾にも行かず学校で配られた参考書のみで勉強しています。勉強が遅れてしまうという理由で下の人に合わせて欲しくないです。頑張ってる人は頑張っている。僕の場合ですが学校がある普段よりも勉強している気がします。こういう時だからこそ本当に努力した人を入試では見てもらいたいという気持ちもあります。日本全体で自粛しようと頑張っていて、緊急事態だからこそもう青春とか遊びとか関係ありません。僕の他にも早く卒業したいと望む人や、早く卒業して稼がないといけない高校生、大学生などもいるはずです。

◯私立高校3年生・神奈川県

私の家庭は決して裕福でなく、私立に何とか行かせてもらっています。

今9月入学になった場合、半年分の学費が出せるか、、もし出せなかったら、私は中卒になってしまいます。

高校生で賛成しているのは裕福な家庭か自分たちが文化祭などの行事ができないことが悔しいだけではないのでしょうか。

本当に明日の生活も苦しい家庭があることを分かっているのでしょうか。9月入学するなら、その補償もセットでなくてははっきり言って無理です。私の周りにもそういう人が何人もいます。

◯大学4年生・東京都

私は今年度大学を卒業する者で、大学院進学を志している。院試は、今年どうなるのか不安である。9月になれば、時期も変わるのだろうか。9月にすることによるコストは、メリットより大きいであろう。時期の問題ではなく、オンライン設備が整っていないことが問題ではないのか。私は、本当は今年2月からオーストラリアで留学していてコロナで強制的に留学が終了した。現地の大学はすぐにオンライン授業に切り替わり、すごく授業も充実している。それに比べて私の日本の大学は、非常に対応が遅く、いつまで経っても授業が始まらない。これは、日本の教育がどれだけアナログであったかということを語っているように思う。変えるべきものは時期ではなく、学ぶ環境の整備など教育体制ではなかろうか。

未就学児の保護者は反対多数

今回のアンケートは学生を対象にしており、回答数からは除外したが、未就学児や小さい子どもの保護者からも、多数回答してもらったため、一部紹介したい。

賛否に関しては、90%以上が反対と、多くの反対の声が集まった。

◯会社員・愛知県

未就学児が2名います。

仮に9月入学が実行され、学年を決める基準日がずれることになると想定していた学年が変わってきます。

多くの家庭では教育費や家庭環境、教育方針諸々で年の差を考えています。我が家でも入学年に合わせて学資保険を準備していますが、学年がずれれば入学後半年以上経って満期となります。それ以外にも想定していた学年が変わるのは大きな問題が出てくるはずです。(年子が同学年や二つ差が年子、逆に想定よりも年の差が大きくなる、その結果受験期が被るなど。)

確かに現役の学生の方も大変でしょう。けれど、今学校に行っていない子供たちにも大きな影響があることもわかって欲しいです。年少だって友達がいれば、自分が次に年中年長になることを知っています。小中高すべてが突然留年組と進学組に分けられていいという方は多くないはずです。小さい子で調整すれば良いなんてあまりに乱暴です。

基本的には9月入学自体に反対です。そもそもこの非常時にこれだけの大改革を行うなんてどさくさ紛れにしか思えません。

ただこのコロナによってどうしても9月になるのであれば、未就学児にも移行期間をください。できれば今年度生まれる子まで4月基準日を適用としてその後経過措置をとりながら基準日を変更としてください。最低限でも既に入園した子たちはそのままの学年でいさせてあげてください。

◯会社員・埼玉県

子供が保育園年中であり、全てが半年ずれこむ。最終的に義務教育終了も半年ずれ、親の経済的負担が多大。また、従来の4~3月生まれでひとくくりを、9月生まれからとすると、一学年 だけ人数が1.5倍となる。教育となにより就職に圧倒的に不利。就職については1.5倍の学年の前後学年も影響を受ける。私が企業経営者なら、優秀な人材を苦労せず取れる1.5学年で採用をし、前後は採用を控えるか減らす。就職できない人が一気に増え、ひどい不公平だ。

また、9月入学にしても、こどもの教育格差は埋まらないと思う。それより、クラス担当教師を倍にし、遅れてる子供にきめこまかい対応をする。コロナ不景気での教員志望者の採用人数をあげ、やる気のある先生を就職させ、さらに学校教育の充実を図るようにするべき。

◯会社員

私には子どもが2人います。上の子は早生まれだったこともあり、4,5月生まれの子供と比べると、成長の差が大きいなと感じることが多かったです。保育園の入園でも4,5月生まれの方が有利だったこともあり、2人目の子供は4,5月生まれになるように妊活をしました。結果的には7月生まれでしたが。9月入学になると、下の子は現在の早生まれの子どもと同じ状況になってしまいます。今までほとんど議論されず、いきなり9月入学にするっていうのはあまりにも暴論だと思います。

◯社会人

現在年長と年少の子供が居ます。

9月入学となると、学習開始が半年遅れになります。その上、新一年生が激増すると後々受験や就職でも人数が多い中なので大変不利です。学校も人数多い中授業するので、手薄になるのは目に見えてます。

せっかくこれから将来がある子供の人生がすでに不安だらけです。

学習機会を確保したいなら、今年の卒業を一ヶ月程度延期、次年度の入学は通常通り4月からなどでもいいと思います。

高校生からの9月入学の意見が多いようですが、一番深刻なのは情報発信できないけど、これからが長い未就学児の子供たちです。

本当にかわいそうでなりません。

どうか、いまの未就学児の人生の事を考えて下さい。

日本若者協議会では、現在、本アンケート結果や教育現場の現状、専門的知見等を踏まえ、提言をまとめており、近日中に政府に提出予定だ。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

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