Yahoo!ニュース

スペインの若者政党・ポデモスと日本のSEALDsは何が違うのか?

室橋祐貴日本若者協議会代表理事
(写真:ロイター/アフロ)

既にブレイディみかこ氏の記事でご存知の方も多いかもしれないが、昨年12月に行われたスペイン総選挙で躍進した政党・ポデモスが注目を集めている。

ポデモスは2014年1月にできたばかりの新しい政党で、同年5月の欧州議会選挙でスペイン第4の政党に、支持率は一時与党を抜いてトップに立ち、昨年末の総選挙では定数350議席のうち69議席を獲得し、第3党にまでなっている。

市民運動の流れで出てきたポデモス

リーマン・ショック後のスペインは、徐々に改善してはいるが、若者の失業率が約50%と危機的な状況で(全体では約25%)、2011年5月には「Occupy Wall Street」を模倣した大規模な抗議運動が起こり、緊縮政策や格差に対する不満をぶつけた。しかしデモだけでは選挙結果に影響を与えることはできず、与党は単独過半数に。こうした中で、2014年1月に30人の知識人によってポデモスが結党された。ポデモスとは、スペイン語で「我々にはできる」という意味で、政策決定の段階から市民に参加してもらう従来の政治手法とは異なる形を実現しようとしている。メンバーも大半が30代で、若者政党という側面もある。

ポデモスはスペイン版SEALDs?

このように見てみると、一見日本の学生団体・SEALDsと似ている印象を抱く。しかし、大きく異なる点が二つある。それは、理念と戦略の有無である。

ポデモスの党首パブロ・イグレシアス氏は、1978年生まれの37歳で、マドリード・コンプルテンセ大学の政治学教授、他の主要メンバーも大学教授や学者などで構成されている。

確かに結党当初こそ、「極左」だと批判され、実際グローバル化や市場主義を強く批判し、政策も、自由貿易からの離脱、生活に最低限必要な資金提供(ベーシックインカム)、利益を出している企業は労働者解雇を禁止、公的債務支払いに関する市民の監督権といった典型的な左派ポピュリストの政策が多かったが、「左派や右派ではなく、民衆と連帯するポスト・イデオロギー政党」を実現すべく、徐々に現実的な路線に変化してきている。

最初の非現実的な政策案も、今から思えば戦略の一部であったように思える。つまり、現政権に最も不満を抱えている若者、低賃金層からの支持を集めるためである(スペイン国民の最大の関心事は失業、汚職、経済だ)。ポデモスは政治資金をクラウドファンディングで集め、誰もが参加できる集会を開き、そこで出た意見をマニフェスト(プログラム)に反映させている。

そして結党後すぐに行われた2014年5月の欧州議会選挙ではスペイン第4の政党に選ばれた。まずはマニフェストに一般市民からの意見を取り入れることで期待を集め、また国民が汚職に大きな関心があることから、イグレシアス氏は長髪、白いシャツにジーパンという古い政治家(と彼が批判する)とは一線を画した爽やかな印象をつくっている。学者らしい難しい表現を使ったりもしない。デイヴィッド・ハーヴェイやサルバドーレ・アジェンデなどマルクス主義思想家の影響を受けていると過去のインタビューの中で答えてはいるが、大衆に対しイデオロギー色を強く打ち出すことはない。また、現実的に実施する上では財源の問題は出てくるが、新興勢力としては他党を批判しても注目を集めることはできず、「どういう変化をもたらすのか」を明確に打ち出すことが重要だ。ポデモスは「希望を胸に投票したのはいつでしたか?」という選挙スローガンを掲げている。

現在のマニフェストには、欧州議会選挙時に物議を醸した全家庭へのベーシックインカム、公的債務支払いに関する市民の監督権は撤回している。経験不足による実行力への不安から一時ほどの支持率はないが、それでも1980年代はじめ以降勢力を保ってきた国民党と社会労働党の二大政党を脅かしている。今後より幅広い支持層を確保するために、中道寄りにシフトしており、ポデモスの指導部は「極左」という呼び方はやめてほしいとよく言っている。ポデモスが支持した市長もバルセロナとカディスに2人誕生している。昨年末の総選挙時には約39万人の党員が存在し、スペインで2番目に多い。日本の自民党の党員が2014年末で約89万人、民主党が約23万人であることを考えると非常に多いことがわかる(スペイン人口は約4600万人)。

理念と戦略を持った中道左派が求められる

一方、SEALDsなどの日本の市民運動は、「戦争法案」といったレッテル貼りやただ「憲法守れ」と叫ぶなど、一部の人にしか受け入れられない運動になっている。これも戦略上の考えで、今後はより現実的な主張をしていくのなら別だが、今のところ「安倍政権打倒」という「理念」しかないように見える。本来、「現実主義」と「理想主義」で議論を行うべきだが、「現実主義」と「非現実主義」に陥ってしまっている。

これに対し、自民党は非常に戦略的で、保守的な理念を実現するために、経済優先の現実路線をとっている。皮肉なことに、日本では(選挙対策とはいえ)保守政党の方が、女性の社会進出や年金受給者の支援に力を入れている状態だ。

それでも、世論調査では「支持政党なし」が最も多く、自民党に不満を抱えている層が多いのも事実である。しかし、最大野党の民主党は明確な理念もなく、自民党以上に刹那主義に陥っており期待できない。共産党に一部流れているが、マジョリティはそこまで極左には振り切れない。自民党の理念に共感できない層にとって選択肢がない状態である。

こうした中で、民主党に政策提言を行う「リベラル懇話会」も立ち上がっているが、今の民主党に提言するだけでは難しい、というのが正直なところだ。今は連立与党である公明党がリベラルの立場からバランスを取っている状況だが、宗教上の観点から積極的に支持することができないのも事実だろう。

そして、どの政党も目を背けているが、今後さらに少子高齢化が進む日本では、高齢者への負担増が避けられない。その時に必要になってくるのは、子育て世代や若者世代を重視した政党であるように思える。若者政党の実現可能性についてはまた別の機会に書きたいと思っているが、実現すれば社会にとっては有益だろう。

しかし、繰り返すが、重要なのは理念と現実的な戦略だ。高齢者と若者の世代間対立を煽っても意味はない。将来日本をどういう社会にしたいのか、その実現のためには何が必要か、考えていく必要がある。

日本若者協議会代表理事

1988年、神奈川県生まれ。若者の声を政治に反映させる「日本若者協議会」代表理事。慶應義塾大学経済学部卒。同大政策・メディア研究科中退。大学在学中からITスタートアップ立ち上げ、BUSINESS INSIDER JAPANで記者、大学院で研究等に従事。専門・関心領域は政策決定過程、民主主義、デジタルガバメント、社会保障、労働政策、若者の政治参画など。文部科学省「高等教育の修学支援新制度在り方検討会議」委員。著書に『子ども若者抑圧社会・日本 社会を変える民主主義とは何か』(光文社新書)など。 yukimurohashi0@gmail.com

室橋祐貴の最近の記事