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大迫再離脱、古橋負傷、浅野リーグ無得点…。カタールW杯で「本田の1トップ」のようなサプライズはある?

元川悦子スポーツジャーナリスト
2010年南アフリカW杯で1トップで起用され、大活躍した本田圭佑(写真:ロイター/アフロ)

 11月23日の2022年カタールワールドカップ(W杯)初戦・ドイツ戦まで2カ月半。日本代表のメンバー選考もいよいよ大詰めだ。9月にはアメリカ・エクアドル2連戦(23・27日=ドイツ・デュッセルドルフ)が行われるが、森保一監督も絞り込みに頭を悩ませている様子である。

 9月2日のオンライン取材で「欧州遠征のメンバーを当初予定の26人から30人程度に増やす」と明言するなど、選択肢を広げて最終判断を下すつもりのようだ。

 その背景には、主力のケガや出場機会減少がある。とりわけ、気がかりなのがFW陣。2018年秋の森保ジャパン発足時から絶対的1トップに君臨してきた大迫勇也(神戸)のケガ再発は最大の誤算だろう。

カタール本番まで2カ月半。不安視される日本代表FW陣

 3月のW杯アジア最終予選大一番・オーストラリア戦(シドニー)を棒に振るなど、今季の大迫は相次ぐ負傷で出たり出なかったりを繰り返してきた。8月に入ってようやくJリーグで先発に復帰。不安定な状態からようやく脱したと思われたが、8月18日のアジアチャンピオンズリーグ(ACL)ラウンド16、横浜F・マリノス戦で後半15分までプレーしたのをきっかけに再び足に違和感が出たという。

 続く22日の準々決勝・全北現代戦を大迫はスタンド観戦。この時点では軽傷と見られたが、その後も神戸の全体練習に合流できておらず、9月3日の京都サンガとの下位直接対決もベンチを外れた。

 森保監督も「現段階ではまだ(状態が)分からないということを聞いてます。どの程度、コンディションが上がってきているかつかめていない」と9月の遠征招集に対して言葉を濁らせた。「確率としては低いと思うが、9月の活動に参加しなくても、W杯に招集の可能性がある選手は見ていきたい」とも発言をしており、最後の最後まで大迫に賭けたい思いが見え隠れする。が、先行き不透明なのは間違いない。

8月18日の横浜戦で喜田と競り合う大迫。この試合を最後に公式戦から遠ざかっている
8月18日の横浜戦で喜田と競り合う大迫。この試合を最後に公式戦から遠ざかっている写真:西村尚己/アフロスポーツ

欧州組の1トップ候補者たちも苦戦中

 そんな絶対的1トップとは対照的に、今季開幕から早くも6点というゴールラッシュを見せていたのが、古橋亨梧(セルティック)。今週からはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージも開幕するだけに、「世界最高峰レベルを体感できる古橋をFWの軸にすべきではないか」という声も高まっていた。

 ところが、そのキーマンが3日のグラスゴー・レンジャーズとのオールドファーム・ダービーの開始早々に左肩を負傷。早々とベンチに下がったのだ。現地報道によれば軽傷で、アンジェ・ポステコグルー監督も「6日のCL初戦・レアル・マドリード戦は出場可能」という見方を示している様子だが、強度の高い試合でムリをすれば何が起きるか分からない。完全に不安を払しょくできたとは言い切れないだろう。

 それ以外の候補者たちを見ると、森保監督が最終予選の重要局面で重用してきた浅野拓磨(ボーフム)は今季ブンデスリーガでノーゴールと苦しんでいる。同じく最終予選終盤から最前線でトライされてきた前田大然(セルティック)も今季はまだリーグ戦で無得点。古橋のゴールをお膳立てする動きは目立っているが、数字で這い上がってきた男だけに、現状には納得していないはずだ。

森保監督が強い信頼を寄せる浅野のリーグ初ゴールはいつ?
森保監督が強い信頼を寄せる浅野のリーグ初ゴールはいつ?写真:アフロ

 今夏にベルギーに赴いた東京五輪世代の上田綺世(セルクル・ブルージュ)は8月27日のズルテ・ワレゲム戦で待望の新天地初得点を奪ったが、まだ欧州の環境に慣れようとしている真っ最中。浅野も2016年夏にシュツットガルトに赴いた頃には「ピッチが日本と全く違うのでボールが全然止まらない」と困惑していたことがあったが、足元でピタッとボールを止めて強烈シュートといったプレーがJリーグ時代のようにはいかないのではないか。ポジションも1トップや2トップなどさまざまな形で使われていて、適応にも多少の時間がかかりそうだ。その上田をドイツやスペインと真っ向勝負を強いられるカタールW杯で1トップの中心に据えるというのも、やはりリスクが高いように映る。

1トップからの布陣変更も選択肢?

 となれば、別の選択肢を考えなければならない。1つは布陣変更だ。最終予選の日本代表は昨年10月のオーストラリア戦(埼玉)以降、4-3-3をベースにし、遠藤航(シュツットガルト)、守田英正(スポルティング・リスボン)、田中碧(デュッセルドルフ)の中盤3枚の攻守の連動性を起点にチームを回していた。これは中盤でボールを支配して日本がアクションを起こせる対アジアには非常に有効な戦い方だった。

 しかしながら、ドイツやスペイン相手に彼ら3枚がずっとボールを握り続けるのは難しい。逆に前線からハイプレスをかけて、素早い守から攻への切り替えを前面に押し出していこうと思うなら、3ボランチにこだわる必要はない。むしろ、4-2-3-1か4-4-2にして、前線には献身的な守備と一瞬の一刺しができる人間を配置する方がサプライズを起こせる可能性が高まるのではないか。

 そこで注目すべきなのが、ここ最近、クラブでFW起用されている伊東純也(スタッド・ランス)や久保建英(レアル・ソシエダ)。彼らが前から猛然とボールを追いかけ回して敵を翻弄するという形はドイツ戦を想定するとかなり効果的ではないか。もちろん前田や浅野、南野拓実(モナコ)も守備力は計算できる。ドイツでゴールラッシュを見せる鎌田大地(フランクフルト)の抜擢も含めて、可能性のある面々をうまく使いながら、これまでとは違ったスタイルを模索するのも、苦境打開の一案になるかもしれない。

スタッド・ランスでは代表と違った一面を見せる伊東純也
スタッド・ランスでは代表と違った一面を見せる伊東純也写真:YUTAKA/アフロスポーツ

「伊東と久保はFWの位置からサイドに出たり、中盤に下りたりといったプレーをしている。生かせるところは生かしたい」と森保監督も前向きなコメントをしている。さらに伊東については「FWのプレーはオプションとして考えられる。右ウイングと運動量が違ってくるので、本人と話しながら練習で動きを確認したい」とも言及。9月2連戦でトライする可能性を示唆したのだ。

 伊東本人は右サイドにこだわりがあるようだが、確かに伊東を最前線に回せば、今季新天地で活躍中の堂安律(フライブルク)を右サイドで使うことができる。堂安の決定力も確実に上がってきているだけに、好調な人間を使わない手はない。

「W杯はコンディションが全て」というのは、過去に大舞台を経験している松井大輔(YSCC横浜)や吉田麻也(シャルケ)らが口を揃えていること。そういう観点で見れば、クラブで活躍している面々を優先的に使いながら、機能できるスタイルで戦うのが得策ではないか。

コンディション最優先。既成概念に囚われない起用もあっていい

 振り返ってみれば、2010年南アフリカW杯でも、本田圭佑の1トップ起用という奇策が奏功している。岡田武史監督(JFA副会長)が右に松井、左に大久保嘉人を配した4-3-3を試したのは、初戦・カメルーン戦(ブルームフォンテーヌ)の約1週間前のジンバブエとの練習試合。まさに大博打とも言える戦術で挑んで結果を出したのだから、森保監督も既成概念に囚われない大胆さや勇敢さを表現してもいいはずだ。

 もちろん、FWを本職とする岡崎慎司(シントトロイデン)や武藤嘉紀(神戸)、新顔の町野修斗(湘南)らをサプライズ選出するという道も残されている。だが、ドイツから勝ち点を挙げようと思うなら、相手の意表を突くようなカウンターパンチが不可欠。10年前のロンドン五輪初戦(グラスゴー)で、運動量とアグレッシブさで強敵スペインを凌駕した「グラスゴーの奇跡」のような戦いを目指すことを指揮官に求めたい。

 FW陣の戦いの行方は果たしてどうなるのか。誰が選ばれるのか。まずは15日発表予定の欧州遠征メンバーの顔ぶれを待ちたいところだ。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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