2022年カタールワールドカップ(W杯)でドイツ、スペインという世界屈指の強豪と同組になった日本代表にとって、W杯出場国と対戦できる6月シリーズは貴重な強化の場。とりわけ、6日のブラジル戦は最も重要なゲームだ。

 FIFAランキング1位のセレソン(ブラジル代表)相手、新国立競技場初の代表戦、そして6万人の大観衆集結と注目要素満載の一戦だけに、日本としては不甲斐ない試合はできない。2012年からの4回のブラジル戦全て帯同し、2012年(ヴロツワフ=0-4)、2013年(ブラジリア=0-3)、2017年(リール=1-3)の3試合の惨敗をピッチで味わってきた長友佑都(FC東京)は、並々ならぬ闘志を燃やしているに違いない。

「ブラジル戦でW杯の戦い方が見えてくる」

「最終予選とW杯の相手のレベルは間違いなく違ってくる。ブラジルなんかもトップ中のトップ。そういう相手とやることで、自分たちがW杯でどういう戦いをしていくかが見えてくる」と6月シリーズ開始時に冷静にこう語っていた。

 過去のW杯でも、直前のテストマッチの敗戦で戦術変更が行われたケースは幾度もあった。長友が初参戦した2010年南アフリカW杯が顕著な例だ。直前の東アジア選手権や壮行試合・韓国戦(埼玉)で惨敗した後、田中マルクス闘莉王が「俺たちは弱い」とミーティングで口火を切り、守備ラインを下げてブロックを作る戦い方にシフト。フォーメーションも阿部勇樹(浦和ユースコーチ)をアンカーに置く4-2-3-1から4-3-3に変更して本大会に挑み、ベスト16進出を果たしている。

 森保一監督は「守備だけでは世界を上回ってはいけない」と話していたが、ブラジル戦の結果次第では、より現実的な戦い方を選択せざるを得なくなる恐れもある。キャリアの集大成となる4度目のW杯に挑もうとしている35歳の大ベテランにしてみれば、そのシナリオだけは何としても回避したいはず。だからこそ、強い危機感を持ってピッチに立つはずだ。

20101年南アフリカW杯のような戦い方の変更はあるのか?
20101年南アフリカW杯のような戦い方の変更はあるのか?写真:YUTAKA/アフロスポーツ

日本の右サイドは生命線

 長友は、自身5度目となるセレソンとの対戦に、右サイドバック(SB)で先発する可能性が高まった。というのも、絶対的右SBの酒井宏樹(浦和)が右足第5中足骨骨挫傷で手術し、長期離脱を余儀なくされているからだ。右SB要員としては今回、山根視来(川崎)と菅原由勢(AZ)が招集されたが、菅原が負傷離脱し、山根も2日のパラグアイ戦(札幌)にフル出場。強行日程が懸念される。

 しかも、4-4-2をベースとするブラジルの左MFには、先月28日のUEFAチャンピオンズリーグ決勝・リバプール戦(パリ)で決勝弾を叩き出したヴィニシウス・ジュニオール(レアル・マドリード)が陣取ると見られる。2トップの一角を占めるであろうネイマール(PSG)も左サイドに流れる傾向が強いため、日本の右サイドは間違いなく生命線になる。となれば、国際Aマッチ135試合目を迎える大ベテランに大役を託すしかない。指揮官の強い期待を背に、長友はギラギラ感を前面に押し出している。

「今、世界でもアタッカーとしては本当に今、エンバペ(PSG)かヴィニシウスかというくらいの、バロンドールを取ってもおかしくないぐらいの選手だと思います。僕自身、相手が強くなればなるほど、モチベーションが高まり、燃えてくるので、楽しみであるのと同時に、その選手を止めないと難しくなるなという危機感もあるのは事実です。

 彼がいい形でボールを持った時、スピードアップしている時にはうまくスペースを潰しつつ、味方のフォローを待ちながら、どこで奪うのか。自分もいろいろ世界のトップの選手たちと対戦してきた肌感覚が今も残っているので、その経験を生かして戦いたいなと思います」と5日のオンライン取材でも目を輝かせていた。

「新しい長友を見せられるように頑張りたい」

 確かにインテルやガラタサライでの右サイドの経験は豊富。今季のFC東京でも右で出ることが圧倒的に多い。代表では1~2試合程度の経験しかないが、「新しい長友を見せられるように頑張りたい」と鼻息が荒い。

 今回、右の長友、左の中山雄太(ズヴォレ)という形が機能すれば、本番に向けて有力なオプションが生まれることになる。酒井宏樹のケガの多さや、ボローニャやアーセナルで右SBを数多く経験してきた冨安健洋のコンディション面が不安視される中、長友が右でエースキラーとして確固たる価値を示せれば、ドイツやスペインにも堂々と挑める。そんなシナリオになるのが理想的だ。

 昨年秋のJリーグ復帰後は衰えを指摘されることが増え、代表レジェンドの松井大輔(YSCC横浜)も「大半のサッカー選手は33~34歳でフィジカル的にキツくなる時期が来る。そこでプレーヤーとして1回切り替えないといけなくなる」と年齢的な難しさを指摘していた。その一方で「それでも佑都は35歳になった今も走力や強度を高いレベルで維持している。それは大したもの」と前向きな評価もしていた。

2010年南アフリカW杯・パラグアイ戦。長友はこの試合でも奮闘した(筆者撮影)
2010年南アフリカW杯・パラグアイ戦。長友はこの試合でも奮闘した(筆者撮影)

 森保監督も同じような見方をしているからこそ、長友に重責を託せると考えているはず。ブラジル戦でヴィニシウスやネイマールを完封できるという底力を示せれば、36歳で挑むことになる4度目のW杯も射程圏内になるはず。2010年南アフリカW杯直前のテストマッチでセオ・ウォルコット(サウサンプトン)をイングランド代表落選に追い込み、コートジボワールのエマニュエル・エブエを完封。本大会のカメルーン戦(ブルームフォンテーヌ)でサミュエル・エトオを消すなど、エースキラーとして成り上がってきた男の真骨頂を今こそ発揮するしかないのだ。

36歳で挑む4度目W杯出場は見えてくるのか?

「世界的な選手とやれるという震え上がるような当時の興奮が今も体に染みついている。本当にアドレナリンマックスで試合に臨んでいたし、長友佑都というのは強い相手とやってこそ、本領を発揮してきたなと。そこには自信を持っています。

 今回もバロンドールをとってもおかしくないような乗りに乗っている選手を相手に、自分がどのくらいできるのか。今の自分の位置を試せるなと。全くできないようなら、W杯でスペインやドイツのような強豪と当たるのも厳しくなる。言ってみれば『生きるか死ぬかの戦い』だなと。レギュラー争い、W杯のメンバー入りのサバイバル含めて生きるか死ぬかだと僕は感じてます」

 大ベテランの悲壮な決意が日本代表全体に伝わり、吉田麻也(サンプドリア)や原口元気(ウニオン・ベルリン)らが呼応すれば、大金星もあり得るのではないか。大きな期待を持って6日の決戦を見たい。