東京五輪メンバー選考で指揮官が悩んだポイント

 新型コロナウイルス感染拡大によって1年延期となった東京五輪。紆余曲折の末に最終登録メンバー18人が決まった。A代表経験者の冨安健洋(ボローニャ)、堂安律(ビーレフェルト)、久保建英(ヘタフェ)ら主軸にオーバーエージ(OA)枠の吉田麻也(サンプドリア)、酒井宏樹(浦和)、遠藤航(シュツットガルト)が加わるという順当な顔ぶれで、サプライズはなかった。

森保一監督が最後まで悩んだのは、GKとサイドバック(SB)、アタッカーをどうするかという部分だったのではないだろうか。

シュートストップナンバーワンの谷晃生

 GKに関しては、実績にナンバーワンの大迫敬介(広島)と久保らとともに2017年U-17ワールドカップ(W杯)を経験するなど、年代別代表経験を着実に積み重ねてきた谷晃生(湘南)がリードしていたが、昨季から沖悠哉が台頭。今年に入って18歳の鈴木彩艶(浦和)もクラブで定位置をつかんだ。沖は常勝軍団・鹿島で2018年アジアチャンピオンズリーグ(ACL)制覇の立役者となったクォン・スンテを押しのけて正守護神の座を手にし、鈴木彩艶も西川周作というJ1・500試合出場をクリアした偉大な先輩からポジションを奪った点が際立った。それでも6月のU-24代表活動でのパフォーマンスと実績を踏まえて、森保監督は大迫と谷に日本のゴールマウスを託した。彼らはその大きな信頼に全力で応える必要があるだろう。

かつての川口能活を彷彿とさせる谷
かつての川口能活を彷彿とさせる谷写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 とりわけ、谷は若かりし日の川口能活(U-24代表GKコーチ)と重なる部分が少なくない。川口は10代のうちから年代別代表の常連で、U-17・20W杯はアジアで敗れて参戦経験がないものの、プロ2年目から横浜マリノスで定位置をつかみ、96年アトランタ五輪、98年フランスW杯と一気に階段を駆け上がった。当時の勢いは凄まじく、特にシュートストップと反応の鋭さはピカイチだった。谷も東京五輪代表候補4人の中で最もシュートを止める能力に優れ、思い切った飛び出しができる攻撃的守護神だ。イケメンという部分でも共通する彼が「マイアミの奇跡」の再現を起こしてくれれば、本当にメダルへの道も開けるかもしれない。ラッキーボーイの1人としてぜひとも日本中を驚かせてほしい。

旗手怜央は長友佑都の系譜を歩めるか

 SBに関しては、OAの酒井宏樹抜擢によって選考が難しくなった。右の候補者としては当初、岩田智輝(横浜)やマルチ型の原輝綺(清水)らがいたが、岩田は今年の横浜F・マリノス移籍で出場機会が減少。原も大ケガから復帰したかと思いきや、再び負傷離脱し、本番でフル稼働する可能性が遠のいた。こうした結果、最終的には橋岡大樹(シントトロイデン)と菅原由勢(AZ)の一騎打ちの構図となったが、センターバック(CB)を柔軟にこなせる橋岡が選ばれた形だ。

 左の方は、2019年段階では杉岡大暉(鹿島)が絶対的地位を築いていたが、2020年の鹿島移籍で試合出場機会が激減。候補から外れ、古賀太陽(柏)への期待が高まった。そんな中、昨年末から王者・川崎フロンターレで左SBに起用された旗手怜央が急成長。両サイドハーフやインサイドハーフ、FWもこなす究極の万能型が出てきたことで、状況が一変する。守備重視で考えるなら、酒井宏樹や左利きのユーティリティ・中山雄太(ズウォレ)を置けばいいが、攻撃でアクセントを作りたければ、旗手のようなアグレッシブなタイプがいた方がいい。そのニーズに応えたことで、彼は滑り込みを果たしたのだ。

コンバートでチャンスをつかんだ旗手
コンバートでチャンスをつかんだ旗手写真:森田直樹/アフロスポーツ

「東京五輪は夢のまた夢。現状では出れると思ってない」と2020年1月の段階では厳しい立場にいることを自覚していた旗手。そこから川崎というトップクラブの門を叩き、新境地を開拓したことで世界舞台を引き寄せた。

「1年延期になったことが僕自身にはすごく有利に働いたと思います。フロンターレで試合に出ることができましたし、去年の終わりころからSBを経験できたんで。その2つが大きかったと思います」と本人は逆転選出の要因を冷静に分析していた。

 日本の左SBというのは、ご存じの通り、選手層が極めて薄いポジション。日本代表も2008年から長友佑都(マルセイユ)の独壇場となっていて、後釜問題は依然として解決の道筋が見えていない。仮に旗手が東京五輪で屈強な外国人相手に互角以上に渡り合うことができれば、一気に後継者候補に浮上することもあり得る。

 よく考えてみれば、長友も東福岡高校時代まではボランチを主戦場にしていて、SBになったのは明治大学に進んでから。左で確固たる地位を築いたのは、北京五輪代表候補入りした2008年。21~22歳の頃だった。つまり、現在23歳の旗手にも大化けできるチャンスがあるということだ。

「長友選手の成長曲線は分かんないんで何とも言えないですけど、僕は僕なんで、SBをやっていてもまた違ったSBだと思いますし、人と比べることはない。毎試合状況が変わりますし、臨機応変に対応していくことが大事だと思ってます」と本人も言うように、高度な適応力でオンリーワンになれれば、ひょっとすればひょっとする。この男も東京五輪のラッキーボーイの1人と言っていい。

三笘薫に求められる「個の打開力」

 最後のアタッカーについては、三好康児(アントワープ)、三笘薫(川崎)、林大地(鳥栖)の3人から誰を選ぶかというのが難題だったと見られる。

 三好はチーム発足時からの10番で、攻撃のリーダー的存在。A代表との融合チームで挑んだ2019年コパアメリカ(ブラジル)でもウルグアイ戦で2ゴールを叩き出し、世界を震撼させている。それに加えて過去2シーズンをベルギーで過ごし、UEFAヨーロッパリーグ(EL)にも参戦。高度な国際経験値を養っている。

 一方の三笘は川崎フロンターレ・アカデミー時代の三好の1つ下。U-18からトップ昇格を打診されながら、「まだプロでやる自信がない」と筑波大学進学を選んだ。当時からドリブル技術の高さは群を抜いていたが、これが研ぎ澄まされたのがプロ1年目の昨季。”ヌルヌルドリブル”と評された緩急を巧みにつけたドリブルで敵をキリキリ舞いさせ、J1・13得点と新人年間最多記録に並んだ。この大活躍で評価が急上昇。3月のUー24アルゼンチン戦(東京)では屈強な外国人相手に当たり負けするシーンが多く、国際経験不足を危惧されたが、個の打開力という傑出した強みは森保監督もほしいところだった。

 そこに今季絶好調の野獣系ストライカーが絡んできたのだから、本当に誰を選ぶか迷いに迷ったはずだが、最終的には三好と三笘を取った。特に三笘は「スペシャルなものを持っている選手」と指揮官が名指しで期待したのだから、注目しないわけにはいかない。

世界に知られていない秘密兵器のブレイクに期待
世界に知られていない秘密兵器のブレイクに期待写真:長田洋平/アフロスポーツ

「本大会で日本がどれだけボールを持てるか分からないです。でもスペースのある時もない時も自分のドリブルは生きると思っている。1つはがせればチャンスを作れると思っていますし、引っ掛かればピンチになるとも思いますし、自分自身が結果を左右する立場だと思うので、しっかりと使命感を持って特徴を出していければと思います」

 三笘は筆者の質問に対し、神妙な面持ちでこう語っていたが、彼のようにまだ世界であまり知られていない秘密兵器が活躍してこそ、日本はメダルという大目標に近づける。堂安や久保らすでに欧州である程度の実績を残している面々は徹底マークを受ける可能性が高い分、彼ら国内組が勝利を引き寄せる大仕事をする必要があるのだ。それは相馬勇紀(名古屋)や上田綺世(鹿島)も同様だろう。

 中2日の超過密日程、猛暑、18人という異例のレギュレーションの五輪を勝ち抜くには、主力だけが輝けばいいということは絶対にない。大舞台で名を挙げるのは一体、誰なのか。そこに注目しながら、日本の戦いをしっかりと見ていきたい。