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まだ森保ジャパンで何も残していない久保建英が今、やるべきこと

元川悦子スポーツジャーナリスト
カメルーン戦の後半から出場した久保建英(写真:日刊スポーツ/アフロ)

攻撃が物足りなかったカメルーン戦

約1年ぶりの日本代表戦となった9日のカメルーン戦(ユトレヒト)はご存じの通り、スコアレスドローに終わった。スタメンは2019年9~11月に消化した2022年カタールワールドカップアジア2次予選前半戦4試合を軸とした陣容で、前半は4バック、後半から3バックで戦った。

 吉田麻也(サウサンプトン)、冨安健洋(ボローニャ)ら守備陣は安定感を見せたが、攻撃陣は迫力不足が目立った。後半から入った伊東純也(ゲンク)が持ち前のスピードと推進力で爪痕を残したものの、南野拓実(リバプール)が「個の力で打開してゴールに向かうプレーが絶対に必要」と強調したように、個人個人の得点への意欲と迫力がより一層強く求められてくる。

コートジボワール戦は先発濃厚の久保

 こうした中、13日の次戦・コートジボワール戦(ユトレヒト)を迎える。「少しでも多くの選手にピッチに立ってもらいたい」と森保一監督が話したように、前回からは大幅にメンバーを入れ替えて挑むことになるだろう。カメルーン戦では後半20分から堂安律(ビーレフェルト)と代わって出場した久保建英(ビジャレアル)もスタメン出場が濃厚と見られる。

 ただ、ポジションについては4バックか3バックによって異なる。前者の場合は、これまでの流れを踏まえると右サイドが有力視されるが、絶好調の伊東を頭から起用したい意向もあると目されることから、トップ下や左サイドもあり得る状況だ。前回トップ下で出た南野は71分プレーしており、次は控えに回る可能性が高い。そこにすんなり鎌田大地(フランクフルト)を置く考え方もあるが、指揮官も久保を使ってみたい思いは強いはず。屈強なアフリカ勢相手に小柄な久保が中央でどれだけ戦えるのかは確かにチェックすべき部分。そこは興味深い。一方で、鎌田が真ん中なら久保が左ということもある。ビジャレアルのウナイ・エメリ監督からは「左でもプレーできるようになってほしい」と要求されているだけに、評価を変えられるような動きを期待したい。

4バックなら2列目のいずれか、3バックなら2シャドウで起用へ

 3バックの場合は、カメルーン戦同様、2シャドウの一角に入ることになる。強さとパワーに秀でた相手との対峙が増えるのはトップ下と変わらないが、誰とコンビを組むかが重要になってくる。1トップは鈴木武蔵(ベールスホット)が確実で、2シャドウのパートナー候補は鎌田、三好康児(アントワープ)のいずれかだ。

 三好とは東京五輪代表や昨年のコパアメリカ(ブラジル)でもともにプレーしているから未知なる関係ではないが、久しぶりの共演で感覚を合わせるのに少し時間がかかるかもしれない。それでも三好はコパのウルグアイ戦(ポルトアレグレ)で2ゴールを挙げた実績があり、ここ一番の決定力は頭抜けている。そういう選手と組めば、久保もよりゴールに迫れるチャンスは増える。ぜひとも今回はこの組み合わせにトライしてもらいたい。

求められる「ゴールに直結するプレー」

 そんな想定の中、ピッチに立つ久保に求めたいのは、やはりゴールに直結するプレー。カメルーン戦では、左サイドをドリブル突破し、深い位置からクロスを入れ、大迫勇也(ブレーメン)にあと一歩で合いそうだった後半39分のチャンス、クロスバーを直撃した終了間際の左足FKの2つの決定機を演出しているが、25分以上のプレー時間が与えられた割にはややインパクトが薄かった印象だ。

 出場直後にはスッと足が伸びてくる相手にボールを奪われ、カウンターを繰り出されかけたこともあった。ビジャレアルで今季開幕5試合連続途中出場で、出場時間が全て20分以下と少ない中、すぐさま鋭い実戦感覚を取り戻すのは難しいのかもしれないが、まずは「周りを生かしつつ、自らも生きる」という持ち味を最大限生かしながらプレーするべきだ。

オンライン取材に答える久保(筆者撮影)
オンライン取材に答える久保(筆者撮影)

「前目の選手なのでゴールはいつも狙っていますし、それはどこが相手だろうと変わらない。結局、点を取ったチームが勝つので、自分も点を取ることがチームにとって一番の貢献なのかなと思っています。かといって、自分が点を取ることが全てではない。チームが勝つための選択肢のひとつとして、ゴールはつねに視野に入れていきたいと思います」

「絶対的存在」になるために重要な試合

 今回の代表活動に合流した際、久保は冷静にこうコメントしていたが、得点かアシストという目に見える結果がなければ、厳しいサバイバルに勝てないのも確かだ。今回の森保ジャパンには2列目要員が7人もいて、誰もレギュラーを保証されていない状況だ。カメルーン戦で光った伊東、フィニッシュの貪欲さで魅せた南野にしても、まだまだ「絶対的存在」にはなり切れていない。19歳の久保がその領域に達するためには、ライバルを上回るだけの価値を示さなければならない。ゴールを奪うことは一番の近道。そのために、時には若者らしいエゴや強引さを見せてもいい。カメルーン戦でも直接FKのチャンスがあっただけに、今回再びそれが巡ってきた際には、確実に沈めることが肝要だ。

中田英寿は20歳、稲本潤一は21歳で代表をけん引

 19歳で日本の看板アタッカーになった選手は過去の代表を見ても皆無に近いが、98年フランスワールドカップアジア最終予選の日本代表をけん引した中田英寿は当時20歳、2002年日韓ワールドカップで2ゴールを挙げた稲本潤一(相模原)は当時21歳だった。すでに21歳の冨安が日本の守備リーダーとしての評価を勝ち得ているが、久保はまだ何も残していないのが実情だ。小学生時代をバルセロナで過ごし、FC東京のアカデミーに入ってからも全ての年代別代表を飛び級で経験し、18歳になるや否やレアル・マドリードに買われた逸材には、こうした先人たちを超えていけるだけのポテンシャルがあるはず。それを彼がコートジボワール戦で力強く実証してくれれば、日本サッカー界全体に大きな希望を与えられるに違いない。

久保も一足飛びで飛躍を!

 新型コロナウイルスによって約1年間の停滞を余儀なくされ、チームの進化がストップした状態の今、この歯車を大きく動かすのは若きタレントだ。同世代の将棋棋士・藤井聡太2冠が早々とスターダムにのし上がったように、久保建英にも目の前の壁を一足飛びに越えていくところを今度こそ見せてほしいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

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