Yahoo!ニュース

サッカー五輪年齢制限の渦中 マリティモ・前田大然が緊急インタビューで明かした本音

元川悦子スポーツジャーナリスト
FCポルト戦に挑むマリティモ・前田大然(著者撮影)

 イタリアで新型コロナウイルス感染症による死者が1万人を超えるなど、甚大な被害に直面している欧州サッカー界。目下、各国リーグがストップしたばかりでなく、各クラブの活動も休止している。その最中にいるポルトガル・プリメイラリーガ、CSマリティモに所属する前田大然に緊急インタビューを実施。クリスティアーノ・ロナウドの故郷である離島・マディラ島の現状やクラブの様子、東京五輪延期に伴う年齢制限問題の渦中にいる心境を赤裸々に語ってもらった。

試合どころか練習の機会さえ奪われる欧州組

 新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかかるどころか、深刻度はさらに増している。その現状を踏まえ、Jリーグは3度目の再開延期を決断した。J3が4月25日、J2が5月2日、J1が5月9日を目指すというが、本当にその通りになるかどうかも分からず、不安は募るばかりだ。

 Jクラブの所属選手はトレーニングや練習試合をこなせているからまだいいが、海外組の選手はほとんどが活動休止に追い込まれている。被害甚大なイタリアやスペインはもちろんのこと、日本人選手が多数いるベルギーやオランダでも無期限の練習中止を余儀なくされている。

 中島翔哉(ポルト)や権田修一(ポルティモネンセ)など日本代表クラスが数多く所属するポルトガルも同様だ。3月14日のリーグ戦が中止になり、各クラブは選手に自宅待機を要請。前田大然が所属するCSマリティモも17日から活動を停止している。

画像

(3月2日まで公式戦の行われていたマリティモのスタジアム=筆者撮影)

「3月14日の試合(ヴィトリア・セトゥバル戦)が中止になって数日間は4~5人のグループで自主トレをすることが許されていたんです。でもクラブから『練習は禁止。自宅で自主トレをするように』と言われて、メニューを渡されました。今は自宅で体幹や筋トレをしたり、駐車場でボールを蹴ったりと毎日2時間から2時間半は体を動かしていますけど、1人で練習するのはかなり難しい。プロになってからこんな状況は初めてで、戸惑うことばかりです。

 同じ欧州組の由勢(菅原=AZ)やタケ(久保建英=マジョルカ)とかとたまに連絡を取りますけど、みんな『練習できないのがキツイ』って言ってます。4月になれば欧州全体のリーグ戦がどうなるかの判断が下されるという話も聞いたけど、本当にどうなるか分かりません。リーグ打ち切りになったら帰国ということになるかもしれないし、本当に心配です」と彼は人生で初めて味わう苦境をストレートに吐露する。

買い物も2~3日に1回。自宅で過ごす辛い日々

 サッカーができないだけではない。政府から自宅待機命令が出ているため、外に出るのは2~3日に1回の買い物だけ。昨年6月に長女・爽世ちゃんが誕生し、今は家族3人でマディラ島に住んでいるが、子供がいるので感染への恐怖が強く、その買い物でさえも心配だという。

「マディラ島はポルトガル本土より感染者が少ないんですけど、やっぱり娘のことを考えるとそう簡単に外には出せません。僕は家族がいる分、励まされるし、頑張れるけど、1人でこの状況に耐えるのはかなり厳しいでしょう。(西村)拓真君がポルティモネンセから古巣のベガルタ仙台に移籍した気持ちもよく分かりますね」と前田はしみじみと語る。筆者が訪れた昨年10月は美しい海と自然に恵まれた楽園というイメージだったマディラ島がそこまでの恐怖に陥っているとは……。新型コロナウイルスの怖さを痛感させられるばかりだ。

画像

(美しいフンシャルの町から人が消えた=筆者撮影)

 前田にとってさらにショックだったのは、松本山雅に入団した2016年に「出場します」と公言した2020年東京五輪が延期になってしまったこと。ポルトガル移籍も、昨年6月の2019年南米選手権(ブラジル)で「このままじゃ五輪に出られたとしても活躍するのはムリ」と実感して踏み切っていた。その五輪が1年延びただけでなく、U-23という年齢制限がどうなるか分からないというのは、来年24歳になる前田にとって、やはり大きな懸念材料だろう。

「年齢制限がハッキリしていないんで、方向性が出るのを待つしかないというのが僕の本音です。山雅入りした年の新体制発表会で『五輪に出ます』と大勢のサポーターの前で言った以上、何としても果たしたいですけど、そこが自分のキャリアのゴールではないのも事実。もしも年齢制限に引っかかったら仕方ないですよね。『みんなで頑張ろう』って雄太(中山=ズウォレ)君が中心に発信してくれてるし、ホントにそうやってみんなで乗り切れたらいいですよね」と前田はここまで活動してきた仲間たちと大舞台に挑める環境になることを熱望している。

東京五輪出場へ仲間たちとともに抱える不安

 東京五輪の新たな開催時期は来年7月になると見られる中、まずは自分自身のパフォーマンスを上げることを最優先に考えなければならない。トレーニング再開時期が定まっていないものの、練習ができるようになったらまずはコンディションを戻し、公式戦をしっかりと戦える実戦感覚を取り戻すことに注力していく構えだ。

「今年1月に約1か月、ケガでリハビリを余儀なくされたんですけど、2月2日の試合(デスポルティーボ・アベス戦)で途中出場して公式戦に復帰し、2月16日のFCパソス・デ・フェレイラ戦でスタメンに戻ってからやっと本来のコンディションを取り戻せた気がします。その経験を踏まえると、今回は練習を再開して公式戦でトップフォームを出せるようになるまで結構かかるかなと。早くその状態に引き上げたいという気持ちが強いです。

 マリティモは昨年11月のヌーノ・マンタ監督からジョゼ・ゴメス監督に代わりましたけど、僕は主にサイドハーフで使われています。今の監督は前線の選手には『流動的にやれ』と言ってくれるので、かなり自由度が高くて、自分自身もやりやすさを感じていました。結果はあまり出てなかったけど、かなり楽しくプレーできていました。だからこそ、早くピッチに戻って試合をしたい。僕らサッカー選手はサッカーをするのが仕事。その日常を早く取り戻せるように、今はできることを地道にやっていきます」

画像

(ユニフォーム姿の前田大然=筆者撮影)

吉田麻也らが発信する「ステイ・ホーム」の重要性

 前田の発言は他の欧州組の思いに通じるはず。彼らが思いきりピッチを駆け回るためにも、新型コロナウイルスの感染拡大を収束へ向かわせなければいけない。日本代表キャプテン・吉田麻也(サンプドリア)や岡崎慎司(ウエスカ)、武藤嘉紀(ニューカッスル)が自身のSNSで「ステイ・ホーム」を呼びかけ、柴崎岳(ラコルーニャ)も「近い将来、今見ているこの酷い光景が日本にも訪れると想像すると背筋が凍ります」と警鐘を鳴らすなど、事態は緊迫感を強めている。日本にいる我々も彼らの苦しみを分かち合い、外出自粛にできる限りの協力をしたいものである。

スポーツジャーナリスト

1967年長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに。日本代表は非公開練習でもせっせと通って選手のコメントを取り、アウェー戦も全て現地取材している。ワールドカップは94年アメリカ大会から7回連続で現地へ赴いた。近年は他の競技や環境・インフラなどの取材も手掛ける。

元川悦子の最近の記事