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空白の高層天気図 気象庁異例の対応へ

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
高層天気図 左1月12日午前9時 右同22日21時 (出典気象庁 スタッフ加工)

輪島 釧路 松江 潮岬のデータが空白になっている

 タイトル画像に二つの図を並べましたが、左と右を見比べてください。よく見ると、右(きのう1月22日夜9時)の方の観測地点が何か所か欠落しています。(青丸が欠損部分)

 実はこの図は上空五千数百メートルの天気図です。正確にいうと、気圧が500ヘクトパスカルになっている面を表したものです。地上の気圧は約1013ヘクトパスカルですから、500ヘクトパスカルというのは地上の半分くらいの空気の圧力の場所ということになります。そしてこの天気図を見ると、空気の圧力だけでなく上空の風や気温の様子も分かります。

同1月22日21時の高層天気図 (出典気象庁 スタッフ加工)
同1月22日21時の高層天気図 (出典気象庁 スタッフ加工)

 改めて、高層天気図を見てみましょう。上はきのう(22日夜9時)の天気図です。

 例えば北海道の北を通っている線に5100と書いてありますが、これは”気圧が500ヘクトパスカルになる高さは5100メートルですよ”という意味です。同様に5700というのは、5700メートルということになります。空気は冷たいほど重くて縮んでいますから、高度が5700メートルより5100メートルの方が寒気がいっぱい詰まっていると言えるでしょう。

 この高層天気図は天気予報にはかかせないものですが、実はここへきて大きな問題が起きています。

観測施設で火災

 昨年2月25日のことです。釧路高層気象観測施設(釧路市益浦)で、火災が発生しました。

 この観測施設は2010年3月より自動観測が行われています。人が居ないのになぜ火災がということになりますが、高層観測を行うには水素を入れた気球を上空に放ちます。それまでは人間の手によって水素が充填されていましたが、その自動化によって原因不明の出火に至ったのです。なんらかの理由によって水素に引火したと思われますが、気象庁からは現在のところ、詳しい発表はありません。

 そして釧路の火災からほぼ一年後の今月13日。同じく無人観測所の輪島から釧路と似たような火災が発生したのです。

 気象庁はこれについても現在調査中ですが、とりあえず、輪島と同型の自動放球装置(ABL)を備えている松江と潮岬の高層観測も点検が完了するまで休止となったのです。

空白の高層天気図

 日本には現在16か所の高層気象観測所があります。今回、釧路の火災から端を発した観測休止は全部で4か所。実に四分の一の地点が空白になっています。

 1945年(昭和20)、原爆投下直後の広島を襲った枕崎台風と、そのときの広島地方気象台の苦闘を描いた「空白の天気図(柳田邦男)」という名著がありますが、平時に天気図が空白になるというのは異常事態だと私は思います。

 今回の高層観測休止で、天気予報に直接大きな影響が出ることはたぶん無いでしょう。予報の基になるコンピュータの精度にすぐ跳ね返ってくるわけではないからです。

 しかし、24日から入ってくる今回の寒気は10年に一度くらいとも言われています。この寒気の強さを正確に把握するには実際に観測機器で測った実測値が絶対に必要です。とくに上空寒気の玄関である石川県・輪島と島根県・松江のデータは、強い冬型のときに現れる日本海寒帯気団収束帯(JPCZ)の予測などにも微妙な影響を与える可能性があります。

気象庁異例の対応

 このままでは今回の寒気がどれほどの寒気だったのか、後に検証することができなくなります。できることなら、手動でこの数日だけでも気球をあげることができないか案じていた直後、今朝23日(月)に気象庁から輪島での手動観測の発表がありました。

2023年1月23日発表の報道資料 (出典気象庁)
2023年1月23日発表の報道資料 (出典気象庁)

さすがに危機感を感じたのだと思いますが、この判断は素晴らしいと思います。その他の地点も、一日も早い復旧を望むばかりです。

参考

配信資料に関するお知らせ

輪島高層気象観測点における一時的な観測の実施について

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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