先週(6月14日(月)~)の放送から、気象予報士試験の勉強が始まり、今週(6月21日(月)~)はいよいよ主人公・永浦百音(モネ・清原果耶)が気象予報士試験に挑戦しました。サヤカが驚いたように、試験の合格率はおよそ5%。さて、その結果はどうなるのでしょう。

 私の場合は「森田さん落ちる」と新聞記事になりました。

山の方が太陽に近いのに、なぜ地上より寒いのか?

富士山頂と地上気温の差の考え方 この気温減率が地上の放射と対流で決まる(スタッフ作成)
富士山頂と地上気温の差の考え方 この気温減率が地上の放射と対流で決まる(スタッフ作成)

 お天気キャスターに成りたての頃、私は視聴者の方から、「なぜ富士山頂は地上より気温が低いのか?」という、質問を受けました。山頂の方が太陽に近いのだから気温が高いのではと、その方は疑問に思われたのです。

 太陽に近いと言っても、太陽との距離は約1億5000万キロ、富士山の3.8キロは無いに等しいくらいわずかな誤差でしかありません。

 しかし上空の気温がなぜ低いのか。この答えを分かりやすく伝えるのは実はとても難しい事です。

 気象予報士試験の参考書には上空の温度が低くなる理由について「対流圏の気温減率は、放射平衡に対流の効果が加味されて決まる」と、書いてあります。これでは何を言っているのかチンプンカンプンです。

 簡単に”通訳”すれば、「われわれの住んでいる地球の表面は太陽から得られた熱を放射しています。この放射と空気の対流によって気温の下がり具合が決まります」と言っているわけですが、まだ分かりにくいですよね。

 実は気象予報士試験というのは、こうしたややこしい言葉を理解する事から始まるのです。

「伝導」の役割

 6月18日(金)放送(25話)で、モネは「太陽は上から射しているのに、なぜ上から暖かくならないのか」と、菅波光太朗(坂口健太郎)に質問を投げかけます。さらに「空気が下から暖まるというのが、どうしてもイメージできない」とも言いました。

 この疑問に対する答えも大変難しいものです。菅波は、空気は透明だから太陽の光は通り抜けて、まず地面を暖めると説明しました。そして地面に接している空気に少しずつ熱が伝わっていくので、下の方から暖まっていくのだと”熱伝導”の仕組みを話そうとします。

 これもまた熱力学の第二法則というもので決まっていて、熱は必ず高い方から低い方へ移動しますが、モネにはいま一つ理解ができません。

 ただ菅波の説明も、ここで熱伝導を持ち出したのは少し飛躍があったかも知れません。

 一般に、熱の伝わり方には三つあります。

・伝導 (物と物が接触したときに、接触面から伝わる)

・放射 (エネルギーが電磁波として四方八方に伝わる)

・対流 (空気などの流体が動く事によって伝わる)

 この三つの原則にしたがえば、地面から空気への温度の伝わり方は放射と対流であり、伝導はわずかしかありません。

 しかしドラマの進行上、このシーンはどうしても”伝導”でなければならない理由があります。それは新田サヤカ(夏木マリ)が「伝導なんて簡単だよ」と言って、菅波とモネをソファーに並んで座らせる必要があったからです。

 サヤカは、「どう?接していると、お互いに体温を感じっちゃ。それが熱の伝導」と、単刀直入に答えます。本当はどちらか高い方から低い方に熱が伝わっているはずですが、伝導についてのこれほど分かりやすい説明はありません。

 こうしてモネは、菅波の勉強会を通じて気象予報士試験を目指す事になるのです。

気象予報士試験とは何なのか

(予報業務の許可)

第十七条 気象庁以外の者が気象、地象、津波、高潮、波浪又は洪水の予報の業務(以下「予報業務」という。)を行おうとする場合は、気象庁長官の許可を受けなければならない。

(気象業務法より抜粋)

 モネが受験する事になった気象予報士とは、1993年(平成5)の気象業務法改正によって設けられた国家資格です。それまでの気象業務法では、気象庁以外の者は天気予報をしてはいけませんでした。当時、私は(財)日本気象協会の職員で、気象庁の予報をテレビやラジオで解説するのが仕事でしたが、気象庁の予報と違う見解を述べる事は出来ませんでした。

 私自身の経験ですが、サクラの開花予想(当時は気象庁が発表)を気象庁が発表する前に独自で発表したところ、翌日、気象庁(産業気象課)から呼び出され注意を受けた事があります。その理由は、「君が発表したものは気象庁予想と同じである。事前に君にリークしたと思われるのは心外なので、以後、事前発表はやめてもらいたい」との事でした。開花予想ですら、民間人が行ってはいけなかったのです。

 ところが1980年代後半から「高度情報化社会」が社会的テーマになり始め、その一つとして天気予報も民間に開放すべきだとの機運が高まりました。気象業務法は、そうした流れを受けて改正されたものです。問題は天気予報の自由化は良しとしても、完全に自由化されると個人が勝手に発信・発言し社会的混乱をきたすのではないかという事でした。

 そこで、予報の品質を担保するために導入されたのが「気象予報士制度」なのです。

森田さん落ちる

試験の様子 イメージ画像
試験の様子 イメージ画像写真:Natsuki Sakai/アフロ

 気象予報士になるためには予報士試験に合格する必要があります。そしてその第一回の試験が、1994年(平成6)8月に行われました。

 暑い夏でした。エアコンの無い教室でしたが、それなりに勉強していた自負もあったので合格すると思っていました。しかし帰り道に問題を見返してみるとケアレスミスだらけで電車の中で青ざめたのを憶えています。

 そして結果は”不合格”・・・。

 不合格がわかった日、駅のキヨスク売店に”森田さん落ちる!”という夕刊紙の見出しが掲げられました。いま思うと、私自身「問題を読まないのが問題」の典型だったと思います。(参照 6月18日(金)掲載記事

 6月21日(月)放送(26話)で、いよいよモネは気象予報士試験を受験する気持ちを固めますが、そんなモネに菅波は、「永浦さんの目標は気象の知識を深める事か予報士試験に合格する事か、どちらですか」と問いかけます。それに対してモネは「気象予報士試験に合格する事です」と、きっぱりと答えます。この答えは、ある意味立派です。

 どんなに気象の事が分かっていても、予報士資格を修得しなければ自由に天気予報を出す事はできません。そして菅波は、合格するためには戦略が必要だとして、モネのために学習スケジュールを立ててあげる事になるのです。

予報士合格には最低600時間が必要

 ところで予報士試験に合格するためには、どれほどの勉強時間が必要なのでしょう。

 長年、予報士受験スクールの講師をされている斎藤義雄氏によると、一定程度の基礎知識があると仮定して、早い人で約600時間。ふつうは予備校に通って1000時間。独学だと2000時間くらいはかかるとの事でした。1000時間と言っても、四六時中勉強しているわけにはいきませんから、仕事をしながらだと大体1~3年、独学だと5年くらいかかるのが平均のようです。

 また受験回数についてお聞きすると、初回や二回目で合格する人はわずかで、たいてい三回以上はかかるとの事でした。

 菅波が作ったモネの受験スケジュールによると、モネは三回目に合格するとの目標ですから、この目論見通りになれば、モネは相当優秀な生徒という事になります。

 そしてとうとう6月23日(水)放送(28話)で、モネは第一回目の気象予報士試験に挑みました。気象予報士試験というのは、学科・一般と学科・専門、そして実技の三部門に分かれています。とくに実技は、学科が受からないと採点すらしてもらえません。

 モネは受験後、心配する菅波に「意外にできた気がします!」と、すがすがしい笑顔で答えますが、私も受験直後は、意外に簡単だなと思いました。しかし、試験と言うのはそのとき”書けた”と思っても、落とし穴がいっぱいあるものです。

 実際に私はケアレスミスで学科・一般を落とし、実技は完璧に出来ていたのにと、ものすごく悔しい気分になりました。

 もしモネが一発合格なんてなったら、我々の立つ瀬がありませんから(笑)、おそらく今回の試験で合格するという事は無いでしょう。来週以降の試験の結果発表を待ちたいと思います。

参考

『一般気象学』小倉 義光著 東京大学出版会

気象業務法

気象予報士試験問題 一般財団法人気象業務支援センター発行

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】