東北楽天・野村元監督は知っていた「マー君 神の子 不思議な子」発言とエルニーニョの関係

野村克也元監督(写真:アフロ)

 昨年(2020年)2月11日、田中将大投手の恩師である野村克也氏が亡くなりました。その一周忌を前に、田中投手の楽天復帰が決まり、感慨深いものがあります。

 その野村元監督の語録の一つに「マー君 神の子 不思議な子」というのがあります。

田中投手が楽天入団1年目の2007年、前半に5失点しながらも勝利投手になり、その運の強さと神がかり的な力を野村監督が「神の子」と称したのです。この発言はスポーツ紙をはじめ大きな話題になり、誰もが知る言葉となりました。

 しかし、この「神の子」発言の真意は、単に語呂合わせで言ったのではなく、おそらく異常気象を起こす「エル・ニーニョ現象」を踏まえて話されたというのが私の考えです。少なくとも野村元監督は、「エル・ニーニョ現象」が「神の子」を意味する言葉だというのはご存じでした。

 ではエル・ニーニョ現象とは何でしょう?

エル・ニーニョ現象

エルニーニョの模式図 日本では太平洋高気圧の位置が変わり、冷夏になりやすくなる 出典:ウェザーマップ
エルニーニョの模式図 日本では太平洋高気圧の位置が変わり、冷夏になりやすくなる 出典:ウェザーマップ

 上の図は、太平洋を中心としたアメリカ大陸から東アジアまでの地図です。赤い線は赤道を表しています。

 「エル・ニーニョ」とは一言でいえば、赤道付近の東部太平洋の海面水温が平年よりも高くなることです。海面水温の上昇は、上昇気流を通じて上空の風の流れを変えます。日本では冷夏になりやすくなるなど、世界中で異常気象が多発するようになることは現在ではよく知られています。

 では、この海面水温が高いことを、なぜエル・ニーニョと呼ぶのでしょう?

 南米ペルーでは、昔から12月のクリスマスの頃、海面水温が高くなることによって、いつもとは違う魚が獲れることがありました。これを神の思し召しとして、地元では海面水温が高くなることを「エル・ニーニョ(神の子)」と呼んでいました。エル・ニーニョというのはスペイン語です。ニーニョは”男の子”、エルは”特定の”という意味であり、直訳すると「エル・ニーニョ=特定の(特別な)男の子」となります。

 特別な男の子、すなわちイエス・キリストのことで、つまり神の子を意味するというわけです

 1950年代になって海洋の研究が進むと、エル・ニーニョは、実はペルー沖の局所的な現象ではなく太平洋全体に広がる大規模な大気循環にも関係していることが分かってきました。その研究の過程で、日本でも1972年ごろからエル・ニーニョ現象という言葉も定着してきました。また、1983年の冷夏をきっかけに新聞紙面にも頻繁に登場するようになり、異常気象とエル・ニーニョの関係が一般の方にも徐々に浸透していきました。

野村元監督とエル・ニーニョ

 1993年夏のことです。私は当時、中日ドラゴンズファンで、ヤクルトスワローズと中日が、激烈な首位争いをしているのを注目していました。そんな時、オールスター戦直後のスポーツ誌の取材に、ヤクルト野村監督は「あれが起きるとエエことがあるんや」と答えていました。”あれ”とはエル・ニーニョのことで、野村監督にとって”エエこと”がある年は、エル・ニーニョが起きているというのです。

エルニーニョの指標 ★マークは野村元監督が優勝、記録を打ち立てた年 出典:気象庁(スタッフ加工)
エルニーニョの指標 ★マークは野村元監督が優勝、記録を打ち立てた年 出典:気象庁(スタッフ加工)

 そこで連載記事のネタにするため実際に調べてみると、なんと初めてホームラン王になった1957年、年間52本を打ち当時のホームラン日本記録を作った1963年、三冠王になった1965年、さらに南海ホークスの監督時代に優勝した1973年、そしてヤクルトスワローズを14年ぶりにリーグ優勝に導いた1992年と、いずれも典型的なエル・ニーニョ年だったということがわかったのです。

 野村氏ほどの選手・監督の実績があれば、エル・ニーニョ年と活躍の年が一致するのは当たり前と言えなくもありませんが、エル・ニーニョの起こる確率は4年に一回ほどですから、ゲンを担ぐ勝負の世界では監督自身が良い方に考えたことは不思議ではありません。ちなみに、野村元監督が、いつエル・ニーニョと自分の関係に気付いたかですが、おそらく、1992年のリーグ優勝の年でしょう。新聞でヤクルト好調の記事を読むたびに、同時にエル・ニーニョの記事も、必然的に目に入ります。そこで過去のエル・ニーニョ年も自分が活躍した年と一致していると、気付いたものと思われます。

 なお、ヤクルトが日本一になった1993年は、現在の気象庁の基準ではエル・ニーニョ年とされていませんが、当時のニュースでは冷夏とエル・ニーニョ現象が関連付けて報道されていました。さらに、4度目の日本一となった1997年は「20世紀最大規模のエル・ニーニョ」が発生していた年でもあります。

 そしてその十年くらい後に、私は野村監督とお会いする機会がありました。その時にエル・ニーニョのことをお聴きすると、フフフと笑みを浮かべながら「そのようだね・・」と肯定されたのが印象的でした。

球界の”異常気象”

 このことからも、野村元監督が「マー君 神の子」と言ったのは、エル・ニーニョ現象を踏まえて、球界に”異常気象”をもたらす存在として、比喩的におっしゃったのだと私は理解しています。ちなみに「異常気象」という言葉は、英語では「Extreme weather(エクストリームウェザー)」とも言います。本来は、”極端な”とか”先端”とか”突出した”というような意味合いを持つ言葉です。その意味からすると、田中投手は、まさに「エクストリームピッチャー」と言えるでしょう。

 ところで昨年夏から今年にかけては、エル・ニーニョとは反対のラ・ニーニャ現象が起こっています。ラ・ニーニャ年は夏は暑く冬は寒くなりやすいと言われていて、実際、今年の冬も寒くなりました。現在、気象庁のエル・ニーニョ監視速報によると、このラ・ニーニャ現象が春以降に終息する可能性が出てきています。(下図参照)

棒グラフの数字は確率(%)を表している。4月以降は平常に戻る確率が高い 出典:気象庁
棒グラフの数字は確率(%)を表している。4月以降は平常に戻る確率が高い 出典:気象庁

 田中将大投手は、入団当初は登板予定日が次々と雨にたたられ「雨男」と呼ばれていたそうですが、今シーズンはラ・ニーニャが終わって、順調な天気と”エクストリーム田中”と呼ばれるような御活躍をおおいに期待したいと思います。

※エル・ニーニョの表記について、現在はエルニーニョとされていますが、本来の意味を考慮し本文中はエル・ニーニョとしました。(ラ・ニーニャも同様)

※1997年のヤクルトスワローズの優勝についてと、最新のラニーニャ予測資料を追加しました。

参考

野村克也氏 ウィキペディア

気象庁 エルニーニョ監視速報

「監督とエルニーニョ 森田正光」 共同通信1993年9月配信