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明日(30日)から大雪・「降雪90センチ」は、新たに積もる雪の量。高齢者や祖父母には電話で確認を

森田正光気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長
29日朝7時の解析積雪深 日本海側の山間部はすでに積雪2m超え 出典 気象庁

 気象庁は、今回の寒波に関して「大雪と風雪及び高波に関する全般気象情報」を発表して警戒を呼びかけています。今回の寒波は、前回(12月14日~21日)よりも上空の気温が低く、しかも西日本から入り込むために北陸や北日本だけではなく、近畿・中国地方の山間部や九州北部でも大雪になる見込みです。

30日夜9時の予想天気図 等圧線が日本列島に5本以上かかると強い冬型 提供 ウェザーマップ
30日夜9時の予想天気図 等圧線が日本列島に5本以上かかると強い冬型 提供 ウェザーマップ

「降雪」と「積雪」の違い。情報はつねに「降雪情報」

 気象庁の大雪情報は、必ず地域別に降雪予想が発表になります。ここで間違えてはいけないのが、”積雪”ではなく、”降雪”の予想だということです。では降雪と積雪は何が違うのでしょうか?

 文字通り降雪は「降る雪の量」、積雪は「積もった雪の量」です。雪の少ない地方や、雪の積もっていないところでは降雪も積雪も同じように思えてしまいますが、豪雪地帯では違います。例えば、すでに1メートル積もっている地方では、降雪90センチというのは、新たに90センチの雪が追加されて、積雪は単純計算すれば1メートル90センチになるということなのです。(融けたり雪の圧縮が無いとする)

図 スタッフ作成
図 スタッフ作成

 しかも新たに降った雪(降雪)は、それまでに積もっていた雪の上に積もりますから古い雪面が滑りやすく(弱層という)、新雪なだれが起こりやすくなります。今回の予想降雪量は、いずれも多いところで30日朝から31日朝までに北陸では70~90センチ、中国地方でも50~70センチ、近畿や関東甲信も40~60センチ降る見込みです。さらに、1日朝にかけては北陸で80~120センチ、近畿では50~70センチなどと予想され、その後も北日本、東日本の日本海側を中心に大雪が続く恐れがあります。普段から豪雪地帯と呼ばれているところでは、出来るだけ早めの対応が必要です。

「避難」とは難を避ける事

 「避難」という言葉で思いだすのが3年前の豪雨です。

 2017年の7月、福岡県朝倉市と大分県日田市を中心とした地域が、猛烈な雨に襲われました。前日、気象庁は24時間で180ミリの大雨が降るとの予想を出しましたが、実際にはそれをはるかに上回り、降り始めからの総雨量は1000ミリを越えた所もありました。「平成29年7月九州北部豪雨」です。

 その豪雨から3か月後、テレビの取材で現地に赴き、どうやって難を逃れたかを色々な方にお聞きしました。その中で印象的だったのが、大分県日田市小野地区のH・T(女性)さんの証言でした。

 H・Tさんの御自宅は山あいにあって、娘さんは日田市街の方に嫁いでいるので、大雨時は一人で家に居ました。7月5日の夜、H・Tさんによると、雨の降り方がいつもと違うなぁとは感じていましたが、どうすることもなく、まさか裏山が崩れるとは思ってもいなかったそうです。しかし、その危機を事前に察知したのが娘さんでした。娘さんはテレビやインターネットの情報で実家が危険ではないかと思い母親に電話をしました。ところが電話はなかなかつながらないので、ますます不安になった娘さんは、実家から少し離れたお寺の住職のところへ電話をしました。その電話を受けた住職は豪雨の中、H・Tさんの御自宅に車で向かい、安全な公民館に避難したとのことでした。そして翌日、豪雨が収まったあとの自宅に戻ると、裏山が崩れて自宅の床上まで土砂に埋まっていました。

 もし、娘さんの機転が無かったら、結果はどうなっていたのか分かりません。また、この豪雨での避難のきっかけについて調べると、多くの人が家族や友人など親しい人の助言に従ったことが分かりました。つまり、マスコミやネットで情報を知った人々が、それを自分の親しい人に届けるということが極めて重要なのです。確度の高い情報は重複してもかまいません。多くの人に、何度でも声を掛け合うというのが大切です。

大雪情報の難しいところ

車に積もる雪 写真 PHOTO AC
車に積もる雪 写真 PHOTO AC

 大雨の場合は極端に言うと、情報がまったく無くても、降り方が経験したことのないような状況だったり、雷鳴が轟いたりして、ある程度は自分の五感で危機を事前に察知することが出来ます。

 しかし、雪というのは深々と降り積もって、知らないうちに逃げるに逃げられないような状況になります。さらに屋外では、ホワイトアウトと言って数メートル先も見えなくなることもあります。2013年には、ホワイトアウトによって北海道で娘をかばいながら父親が亡くなるという悲惨な事故もありました。私自身も、青森県内でタクシー乗車中にホワイトアウトを経験したことがありますが、車が轍(わだち)にはまって、抜け出せなくなり、運転手の方が焦っていた時は、恐怖感を感じました。

 日本海側の方は「雪に慣れている」とは言いますが、災害は、その「慣れ」を上回るような規模でやってきます。前回の大雪の時にも大規模な交通障害が起こりましたが、交通障害などは事前の行動を変えることで防ぐことが出来ます。(参照 大雪に対する国土交通省緊急発表

 高齢者や祖父母など、ご親戚や友人・知人で、情報にあまり接していない方には、ぜひ電話やメールなどで、お声がけをお願いしたいと思います。気象情報は、どんなにその情報が正しくても、それを利用する人に届かなければ意味がないのです。

出典 気象庁(スタッフ作成)
出典 気象庁(スタッフ作成)

 これは、これまでの積雪の上に新たに積もる可能性のある雪の量です。大雪による災害は、静かにやってきます。今後、最新の気象情報の確認をお願いします。

参考

気象庁HP 全般気象情報

気象解説者/気象予報士/ウェザーマップ会長

1950年名古屋市生まれ。日本気象協会に入り、東海本部、東京本部勤務を経て41歳で独立、フリーのお天気キャスターとなる。1992年、民間気象会社ウェザーマップを設立。テレビやラジオでの気象解説のほか講演活動、執筆などを行っている。天気と社会現象の関わりについて、見聞きしたこと、思うことを述べていきたい。2017年8月『天気のしくみ ―雲のでき方からオーロラの正体まで― 』(共立出版)という本を出版しました。

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