暖まるアラビア海に「災害」という名のサイクロン
「災害」という名前のサイクロンが、インドとパキスタン周辺に上陸する見込みです。このサイクロン、様変わりするアラビア海を象徴するような嵐です。
現在アラビア海に、サイクロン・ビパージョイ(Biparjoy)が発生しています。15日(木)午後に、インド北西部とパキスタンの国境付近に上陸する見込みです。
すでに洪水などで複数の死者が出ていますが、強風、高潮に加え、雨の少ない地域に大雨が降るため、被害が大きくなる可能性もあります。
奇しくもビパージョイとは、ベンガル語で「災害」を意味します。
長寿かつ3本の指に入る強さ
ビパージョイは、記録的なサイクロンです。
今月6日に発生し、それから9日が経っています。太平洋にできる台風なら、稀にひと月ほど渦を巻くことがありますが、海水温が低めで、台風の発達を妨げる風も吹いているアラビア海では、ほとんどが短命に終わります。
ところがビパージョイは、平年よりも暖まっている海上をゆっくり北上しています。アラビア海のサイクロンとしては、観測史上もっとも長寿になる可能性があると、インド気象庁は発表しています。
長寿に加え勢力も強いので、【強さ】×【期間】で表される「エース(熱帯低気圧蓄積エネルギー指数)」の値が、アラビア海のサイクロンとしては過去3本の指に入る大きさとなったそうです。
変貌するアラビア海
世界の平均海水温は、毎年のように記録を塗り替えています。その記録に大きくかかわっているのが、アラビア海です。
アラビア海の水温は、10年間で0.18度のペースで上昇、これは他の海洋を大きく上回ります。
海の熱波などが原因で、これまでは穏やかだったアラビア海に、このような変化が現れているようです。
サイクロンの発生数:52%増 (※1)
寿命:80%増 (※2)
近年サイクロンが増えている上に、寿命も延びているというのです。その意味でも、ビパージョイは変貌するアラビア海を象徴するようなサイクロンといえるのではないでしょうか。
増える問題点
アラビア海は、スエズ運河を通る船舶の通路でもあり、世界でもっとも多忙な航路の1つですから、こうした変化は世界的に大きなインパクトを与えることになります。
そのうえ、アラビア海が暖まると沿岸部の漁獲量が減り、普段は漁師だけれども時々海賊になって船を襲う"海賊バイト"の人たちが増えるだろうという研究もあります。
サイクロンも増えれば海賊も増える。アラビア海はいろいろな意味で、おっかない海になってしまうかもしれないようなのです。
(※1)2001-2019年と1982-2000年の比較
(※2) 今世紀と1982-2000年の比較