オスメスで違う気候変動下の生存戦略
昔から人々は「男女は違う生き物」と口にしてきましたが、いま、気候変動という波の中で、その差はさらに目立ってきているようです。
早起きするメスのホッキョクジリス
米アラスカ州にホッキョクジリスという、可愛くもたくましい動物がいます。厳しい寒さを耐え抜くために、時に体温を0度以下に下げながら、半年以上冬眠して暮らします。
今月26日に発表されたコロラド州立大学などによる論文では、このホッキョクジリスの冬眠パターンに、男女差が出てきたことが明らかになりました。
25年にも及ぶ調査の結果、メスの冬眠から目覚める時期が10年間で4日のペースで早まっている一方で、オスには変化が起きていないことが分かりました。早起きの原因は、土壌の融解が早まったことにあるのではと考えられています。
通常、いち早く目覚めるのはオスの方です。冬の間に下がったテストステロンを上げてメスを待つのだそうです。
つまり、メスが早く起き出してしまったことで繁殖のチャンスが減ってしまうのではないかという問題が出てきます。
またホッキョクジリスは多くの動物のエサでもあり、その数が減ることで、他の生態系にも影響を与えてしまう可能性もあるのだそうです。
雄と雌の違いと言えば、他にもこんな研究があります。
メスばかり産まれるウミガメ
有名な話ですが、ウミガメは卵がかえった砂浜の温度に応じて雌雄が決まります。29.5度以上ならメス、以下ならばオスになるという研究もあります。
この性質の結果、オーストラリアのレイン島では、ここ20年間メスしか生まれていないという驚きの事実も確認されています。
ウミガメのように、温度によって雌雄が決定する生き物は、他にワニや魚などがあります。
色白化するトンボのオス
米セントルイス・ワシントン大学の研究では、トンボのオスが、その羽の斑点の黒さを薄くして、暑さに対応しようとしていることが分かりました。黒い模様は日光を吸収するので、暑さへのダメージが大きくなります。
面白いのは、こうして“色白化”しているのはオスだけで、メスには変化がなかったことです。するとどうなるでしょうか。メスがオスを同じ仲間だと認識できなくなったり、興味を失ったりして、繁殖の機会が減ってしまうのではないかと心配されています。
餓死するトナカイのオス
北極圏に住む、スバルバードトナカイにも変化が起きています。
北極圏は世界でもっとも温度上昇の激しい場所の一つですが、冬の間も気温が上がって、雪の代わりに大雨も降るようになりました。すると地面の水が寒さで凍り、草も氷に閉ざされて、特にオスのトナカイが餓死するという例が増えています。
なぜでしょうか。
寒い冬の前に交尾の時期がやってきます。この間、メスは栄養を取ることに専念できるので脂肪を蓄えていますが、オスは他のオスとの熾烈な戦いを繰り広げたりして多くのエネルギーを使ってしまいます。体重が3分の1ほどに減ってしまうこともあるようです。こうしてやせ細ったオスたちが、氷の下のエサが取れずに餓死するケースが増えているようなのです。
こうしてみると、気候変動への反応はオスとメスで違うことが分かります。では人間はどうでしょうか。昨夏タクシーの運転手さんが、こう話していました。
「暑い日、町中を運転しながら人間観察しているとね、男女の違いがよくわかるんだよ。男は汗をたらたら死にそうな顔で歩いているけれど、女の方は涼しそうに颯爽と歩いているよ」。
男性の皆さん、どうか暑さに負けないで。