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サイクロン・モカ、13年ぶりの勢力でミャンマーに上陸か

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NASA出典の14日のモカの衛星写真に筆者加筆

東をインドシナ、西をインドに囲まれたベンガル湾は、世界でもっとも多くの死者を出す危険なサイクロンを生みだす海域です。

この恐ろしい海に今、強烈な勢力のサイクロン・モカ(Mocha)が発生しています。ちなみにモカとは、コーヒーの"モカ"の由来である、イエメンの港町から付けられた名前です。

米軍の解析によれば、14日(日)時点のモカの中心気圧は923hPa、最大風速は69メートル(1分平均)です。これは、サイクロンの階級としては最大級の「カテゴリー5」に相当します。

米軍は“嵐のモンスター”だと、モカの強さを強調しています。このクラスのサイクロンがベンガル湾に現れたのは、2020年のアンパン(Amphan)以来のことです。現在この海域の水温が30~31度と高く、これがサイクロンを強めている一因となっています。

進路に世界最大の難民キャンプ

このモンスターサイクロンが、現地時間14日(日)午後にミャンマー北西部に上陸する見込みです。もしそうなれば、2010年に同国に150人の死者を出した、ギリ(Giri)以来最大の強さでの直撃となります。

強さに加え恐れられているのが、その進路です。ミャンマー北部から、隣国バングラデシュにかけて、サイクロンの中心付近の雨雲が覆う見込みです。

進路には、ミャンマー国内に多数の難民キャンプがあるほか、ミャンマーと国境を接するバングラデシュのコックスバザールが位置しています。ここには100万人近いロヒンギャの人たちが暮らす世界最大級の難民キャンプがあります。

モカの接近を受け、すでに多数の難民が避難していると伝えられていますが、被害の拡大は避けられない状況です。

過去には数十万の死者も

冒頭で、ベンガル湾で発生したサイクロンはとりわけ危ないと述べました。

ベンガル湾は世界の海域の0.6%の面積しかないにもかかわらず、ここで発生したサイクロンによる死者数は、世界全体の熱帯低気圧による死者数の80%も占めているのです。

一体なぜなのでしょうか。

それは沿岸部が人口過密地帯であること、インフラが整っていないこと、そして地形の問題があります。

沿岸部は海抜0メートル以下の地帯が広がっているうえ、河川が多い。ベンガル湾は逆Vの字をしているため、海水が狭い地域に集まって高潮の被害が大きくなりやすいのです。

2008年にミャンマーを襲ったナルギス(Nargis)は14万人、1970年にバングラデシュを直撃したボラ(Bhola)は10メートルの高潮を発生させ、30万~50万人が亡くなったと推定されています。

※追記(5/16)※

・ モカの最大風速は上陸前に78メートル(1分平均)に達し、インド洋北部のサイクロンとしては観測史上1位タイの強さとなりました。

・ 14日14時頃にミャンマー北部に上陸しました。上陸時の最大風速は69メートルで、インド洋北部のサイクロンとしては観測史上2番目の強さでの上陸となりました。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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