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砂嵐で約70台が絡む大事故、原因は「記録的メイストーム」 米国

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
気象局がイリノイ州に発表した「ブローイング・ダスト警報」(出典: NWS)

5月1日朝、米国イリノイ州で、72台が絡む車の衝突事故が起こりました。死者は6人、約30人がケガを負ったとのことです。

事故が起きたのは、イリノイ州中部のファーマーズビル近郊でした。周囲には畑が広がるのどかな場所です。ここを通る幹線道路でおよそ70台の車が衝突し、トレーラー2台は炎上したと伝えられています。

事故に巻き込まれそうになったドライバーが地元ニュースのインタビューに答えている様子を見ましたが、顔は砂まみれで、砂嵐がいかにひどい状態であったのかが分かりました。

事故の原因

警察の調査によれば、この事故は砂嵐が引き金となって起きたもののようです。では、当時の気象状況はどのようなものだったのでしょうか。

事故現場の北に位置する気象観測所では、事故発生時の1日(月)11時頃に18メートルの最大瞬間風速を記録していました。比較までに、今年2月28日に関東地方で春一番が吹いたときの最大瞬間風速は15メートル弱でした。つまり春一番のような強風よりも速い風が吹いていたことになります。

強風に加え、先月は極端に雨が少なく、降水量は例年の4月の半分ほどでした。

そのうえ、道路周辺の畑の土が最近、耕されていたそうです。つまり、土が柔らかくなって、砂埃がたちやすい状況となっていたわけです。

記録づくめのメイストーム

では、強風を起こした原因は何だったのでしょうか。それは、発達したメイストームです。

下図に矢印で指したものがその低気圧です。異様に発達した低気圧で、等圧線の間隔が狭くなっているのが分かります。この低気圧の影響で、アメリカやカナダ東部では、5月としては記録的に低い気圧が観測されました。たとえばニューヨークシティでは1869年からの統計史上5月としては最低の982.1hPaが観測されています。

また低気圧の後面では季節外れの寒気が流れ込み、ミシガン州などで5月としては過去最大の降雪となりました。

1日の地上天気図に現れているメイストーム (出典: NWS)
1日の地上天気図に現れているメイストーム (出典: NWS)

温暖化と砂嵐

ところで砂嵐といえば、今春は日本でも幾度となく黄砂の到来にさいなまれました。中国では過去10年で最多となる11回の砂嵐が発生していたそうです。

国連によると、近年、干ばつや土地劣化などにより、砂嵐が劇的に増加しているといいます。砂嵐が増えれば、農作物や家畜への被害、交通事故や、人への健康被害も増えます。

そのうえ、大規模な砂嵐の場合、温暖化を助長する恐れもあるといわれています。なぜかといえば、黒や赤色の砂が空気中を漂うと太陽光を吸収し空気を温めたり、砂が極地方の氷雪に落ちると色づいて、日光の反射率を下げて氷の融解を速めてしまう可能性があるためです。

NASAは昨年、新しい観測衛星を打ち上げて、大規模な砂の動きを監視しています。砂が温暖化にどう影響を及ぼすか、今後ますます解明が進みそうです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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