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史上3例目インド洋横断サイクロン「フレディ」、南半球記録を更新

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
20日撮られたサイクロン「フレディ」の衛星画像。(左:NASA、右:NOAA)

いまインド洋に、未だかつて観測されたことのないような奇異なサイクロンが発生しています。

その名は「フレディ(Freddy)」といい、宇宙から撮られた下の映像には、不気味なほど明瞭な「目の壁」と、左右対称の密度の濃い雲の塊が映されています。

このサイクロン、一体何が珍しいのでしょうか。

史上3つ目の”トランス=インド洋”サイクロン

まず、異例のインド洋横断サイクロンであることです。

フレディは今月6日、オーストラリアの北でサイクロンに発達しました。それから西進を続け、移動距離は6,500キロ以上に達しています。これは日本からハワイまでの距離に匹敵します。

フレディはそのままアフリカ大陸へ到達する可能性もあり、もしそうなると移動距離は9,000キロに到達します。

インド洋をほぼ端から端まで渡り切ったサイクロンは、これまで2例しか記録がありません。そのうち2000年のサイクロンは、29日間かけてインド洋を11,000キロ横断し、最長トランス=インド洋記録を打ち立てています。

20日、NOAA/HWRF出典のフレディの経路と予想進路図。筆者加筆。
20日、NOAA/HWRF出典のフレディの経路と予想進路図。筆者加筆。

断トツの”エース”

フレディは史上3つ目の長距離走者であるうえに、強さの面でも他と次元を異にしています。

20日(月)時点、フレディの中心気圧は939hPa、最大風速は56m/sで「カテゴリー5」の勢力となっています(フランス気象庁発表)。

フレディは強弱を繰り返しながらも、このような強力な勢力に発達したりして、17日間も存在しているため、放出された総エネルギー量は、インド洋さらには南半球の観測史上最大となったのです。

ここでいう総エネルギー量とは何なのでしょう。

一般に、サイクロンや台風など熱帯低気圧の強さを比べるときに注目されるのは中心気圧や風速ですが、それは一時的な強さを比べただけのものです。

一方で、サイクロンの存在期間中のすべての強さを比べるときに用いるのが「ACE(エース)」です。日本語では「熱帯低気圧積算エネルギー」などと訳され、最大風速の2乗を6時間ごとに足していって計算します。

19日(日)時点、フレディのACEは59.5となり、これまでの記録であった2016年「ファンタラ」(ACE: 52.5)を抜いて、トップとなりました。

フレディの行方

フレディは、南半球記録をますます更新していきます。

というのも、フレディはこの後もサイクロンのまま西進し、21日(火)夜にマダガスカル24日(金)にはアフリカ大陸モザンビークに上陸する可能性があるからです。

マダガスカル島は、先月サイクロン「チェネソ」の直撃を受け、死者・行方不明者は50人超に及びました。度重なる嵐の上陸で、被害は益々拡大するおそれが出ています。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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