Yahoo!ニュース

求む、ハリケーンハンター!アメリカ当局が人材募集中

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(写真:ロイター/アフロ)

穏やかすぎた大西洋に、ようやく今年初のハリケーンが発生しています。名前を「ダニエル」、しばらく強さを維持して洋上を旋回する見込みです。

ダニエルの発生を受け、先週、真っ先に現場の海上に駆け付けたのが、気象観測用偵察機、その名も「ハリケーンハンター」でした。この飛行機、もちろん人が乗っています。彼らは勇猛果敢にハリケーンに突っ込み、「目」の中で観測機器を落として、嵐のデータを取るのです。

ジェットコースターの一つも乗れない私には、全くもって不可能な仕事ですが、皆さんならどうでしょうか。いま、アメリカ海洋大気庁より求人募集が出ていますので、ご紹介まで。

ハリケーンハンターの募集内容

では、まず仕事内容から。

観測機に乗って、気象のデータを取る気象学者の募集です。フルタイムの正社員雇用、年収は66,000ドルから103,000ドル、今のレートで930万円から1,500万円です。本拠地はフロリダ州レイクランドですが、年に90日以上は大西洋、太平洋上を含む国内外の出張があります。

飛行は当然、乱気流の連続です。言うまでもなく、それに耐えられるだけの体力や忍耐力が必須になります。

たとえば重い荷物を背負って機体のはしごを昇降できることはもちろん、85デシベル以上の轟音(間近で聞く救急車のサイレンの音量が85デシベル)、熱帯の暑さから極地の寒さまでの極端な温度変化に耐えられることも要求されます。

なお採用されたら、海に落ちてしまったときのために、海上トレーニングも課されます。

資格は、気象学や自然科学などの学位があること、かつ必要な実務経験を満たしていること。さらにアメリカ国籍か市民権を持っていることが前提ですので、あしからず。

過去の墜落例

ハリケーンハンターが過酷な仕事であることは、想像に難くないですが、一体どれだけ危ないのでしょうか。

ハリケーンハンターが始まったのが1940年代。過去80年の歴史で、墜落した観測機は6機、死亡者は53名です。

たとえば1953年には、台風「ドリス」の目の中に超低空飛行で突入した観測機が墜落、その後、不幸にもその機体を捜索中の2機が墜落し、新たに39人が帰らぬ人となりました。

また1955年には、カリブ海のハリケーン「ジャネット」に突っ込んだ観測機が音信不通となり、搭乗員7人と記者2人が帰らぬ人となりました。このハリケーンは地上でも甚大な被害を出し、メキシコで約1,000人が亡くなっています。

反対に、絶体絶命のピンチに見舞われながらも、危機一髪帰還した例もあります。1989年ハリケーン「ヒューゴ」に突っ込んだ観測機は、想定外の最大瞬間風速89メートルの風をもろに受けました。乱気流でエンジンが故障、搭乗員も6Gの重力加速度をもろに受けるほどでしたが、幸い、全員が無事生還したという話があります。

ハリケーンハンターのやりがい

なぜこんな恐ろしい任務を全うできるのでしょうか。ハリケーンハンターのイアン・シアーズさんは、こう語っています。

「隣人を助けているような気分です。同胞を助けているように感じるのです。それが私たちが誇りに思っている使命感なんです」。

ハリケーンハンターたちの勇気のおかげで、嵐の研究・調査が進み、救われる命がたくさんあります。風速や気圧などの気象データは、それ自体はただの無機質な数字ですが、その裏にはこうした苦労と努力が隠れているのです。そう思えば、ありがたさが増してくるようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事