Yahoo!ニュース

ハリケーン「アイダ」米国南部に上陸へ “居住不能”な被害のおそれ

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
NOAA出典のアイダの衛星画像に筆者加筆 (現地時間28日)

ハリケーン「アイダ」が急速な発達を遂げながら、アメリカ南部に迫っています。日本時間29日(日)昼時点のアイダの勢力は「カテゴリー3」と、ハリケーンの階級では上から3番目の強さとなっています。

衛星写真には、左右対称な円形の雲の真ん中に、ハリケーンの目がくっきりと見えています。

アイダの進路と勢力

国立ハリケーンセンター出典のアイダの予想進路図に筆者加筆
国立ハリケーンセンター出典のアイダの予想進路図に筆者加筆

【勢力】

アイダはさらに発達する見込みです。というのもメキシコ湾の海水温は30度以上と温かく、エネルギー源である水蒸気をたっぷりと補給できるためです。今後は32度近い海域を通るため、今よりひと段階強い「カテゴリー4」に到達するおそれがでています。

【風速】

上陸直前の予想最大風速は59メートルです。これは1分平均の風速なので、台風に用いられる10分平均の値に直すと、だいたい52メートルほどとなり「非常に強い台風」に相当します。

【上陸地】

上陸が予想されるのはルイジアナ州南東部で、州内第一の都市でジャズ発祥の地であるニューオーリンズと、第二の都市で州都であるバトンルージュも直撃のおそれがあります。

奇しくもカトリーナ上陸日に

上陸が予想される時間は、早ければ現地時間29日(日)午後、日本時間では30日(月)未明頃となります。実は8月29日というのは、16年前に全米史上最悪の被害を出したハリケーン「カトリーナ」が、ルイジアナ州南東部に上陸した日でもあります。カトリーナによる死者は1,800人にもおよび、被害総額はアメリカ史上最大となりました。

「居住不能な」被害のおそれ

この時、大多数の死者を出した原因が高潮でした。高潮は波とは違って、海が盛り上がって壁のように水が押し寄せてくる現象です。ルイジアナ州沿岸部は、海抜0メートル以下の地帯が広がっていますが、カトリーナによる高潮は8メートルに達したとも言われています。ニューオーリンズではその8割が水に浸ってしまい、逃げ遅れた人々が犠牲になりました。

アイダの上陸時の勢力は、先のカトリーナを上回るおそれがあります。アイダは「カテゴリ―4」の予想もありますが、カトリーナの上陸時は「カテゴリ―3」でした。ルイジアナ州知事は、過去170年の州の歴史の中で、最大級のハリケーンが上陸するかもしれないと、危機感を露わにしています。

気象局も”Unsurvivable surge”、つまり居住不能な高潮被害が発生する恐れがあると言った上で、救助してもらえると思わないでほしいと、声を荒げて即刻避難を呼び掛けています。

NWS発表のアイダの予報文を抜粋、筆者加筆
NWS発表のアイダの予報文を抜粋、筆者加筆

追記(8/30):

アイダは29日(日)11時55分、中心気圧930hPa、最大風速67メートルの「カテゴリー4」の勢力で、ルイジアナ州南東部Port Fourchonに上陸しました。風速で見ると、これまでルイジアナ州に上陸したハリケーンとしては、2020年のローラと1856年のハリケーンと並び最強となりました。また全米に上陸したハリケーンとしては、5位タイの強さでした。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事