危険で予測不能…ビル・ゲイツ氏も出資する「太陽光ブロック計画」が一転して中止に

(写真:PantherMedia/イメージマート)

気候工学とは

「鳴かぬなら、鳴かせて見せよう、ホトトギス」と言ったのは豊臣秀吉ですが、「温暖化が止まらないなら、止めて見せよう」という研究分野が『気候工学(ジオエンジニアリング)』ではないでしょうか。

温暖化の影響を人工的に緩和するために、大気中から二酸化炭素を取り除いたり大気の温度を下げたりといった、夢のような技術が研究されています。それができるなら、願ってもない話です。

中でも関心を集めているのが、太陽光をブロックして地球を冷却しようという方法です。大規模な火山噴火が起きると、火山灰が空を覆って気温を下げる効果がありますが、それと同じような環境を人工的に作ってしまおうという研究なのです。1991年にフィリピンのピナツボ火山が噴火した際には、15か月後に世界気温が0.6度低くなったというデータがあります。

火山灰をまねて物質注入

実は今年6月に、スウェーデンでまさにその実験が始められようとしていました。「成層圏」と呼ばれる、空高いところへ微粒子を注入する世界初の実験です。ところが突然、その計画が延期されたというニュースが飛び込んできました。

その計画とは、ハーバード大学のコイチュ教授とキース教授が進めている「スコーペックス(SCoPEx)」と呼ばれるプロジェクトです。

ごくわずかな微粒子を、上空20キロほどの「成層圏」に撒いて効果を研究するのが目的です。成層圏にまで到達する気球を使って、炭酸カルシウムなどの微粒子を散布し、その物質がどのように変化するか調べるのです。あのビル・ゲイツ氏も資金提供をしているようです。

実験反対の声

予定されていた実験は、実際に物質を散布するのではなく、その前段階としての打ち上げ機器の動作確認などが目的でした。

しかし、スウェーデンの先住民の団体や環境団体から反対の声が上がりました。彼らの主張はこうです。

「実際に物質を撒かなくても、潜在的に危険で、予測不能で、管理不能な技術の使用に向けた最初のステップになる可能性がある」「自然と調和したゼロカーボン社会を目指すという、今すべきことに反している」。

こうした副作用を心配する声を受け、先月31日(水)に、この打ち上げを担うスウェーデン宇宙公社が実験の延期を発表しました。

副作用は?

成層圏への物質注入に副作用はあるのでしょうか。

まず、作業を終了した途端に気温が上昇することがあるそうです。これは「終端問題」と呼ばれています。しかしながら、これは大規模な操作の際に特に問題になるもので、気候工学を研究されている杉山昌広先生によれば、注入物質や規模を変えることで影響も小さくできるそうです。

次に、注入する物質によってはオゾン層を破壊する可能性も否めないそうです。しかし炭酸カルシウムを注入すれば、逆にオゾン層が増加するというシミュレーション結果も得られているといいます。

プロジェクトを率いるコイチュ教授は以前、ガーディアン紙にこう語っています。

「この研究をしないリスクは、研究をするリスクを上回る。」「地球温暖化の問題は大きく、人々に与える影響も莫大である。すべての問題を一気に解決してくれる魔法のような方法はない。だからこそ、すべての選択肢を検討するために、研究を進める必要がある。」

継続的な研究の必要性

全米科学技術医学アカデミーは先月、アメリカ政府に対して、今後5年間で最大2億ドルの資金を気候工学の研究費に充てるよう要望しました。現時点では気候工学を支持したり反対したりするには十分な情報がないため、継続的な調査が必要だとの立場です。

実験を始めて副作用が出てしまったら、元も子もありません。しかし始めなければ、それが危険かどうかは分かりません。「鳴かぬなら、鳴くまで待とうホトトギス」的なのんびりした温暖化対策では、地球の危機に対応できなくなってしまうでしょう。

気候工学には賛否両論ありますが、遺伝子組み換え、体外授精など、これまで「神の領域」として介入を懸念されていたことが、今や普通に行われる世の中にあります。もし温暖化が止まらなければ、こうした技術が一般化していく日が来てもおかしくなさそうです。

***参考文献***

気候を操作するー温暖化対策の危険な「最終手段」

杉山昌広著 (2021年)、KADOKAWA