Yahoo!ニュース

今年はハリケーン名にアナ、エルサ、オラフ 科学者も魅了した『アナと雪の女王』

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2018年ハリケーン・フローレンス (出典: NASA、Arnold氏撮影)

世界に社会現象を巻き起こしたディズニー「アナと雪の女王」は、科学者の心もくぎ付けにしたようです。今年はこの映画のキャラクター名が付いたハリケーンが3つも出現するかもしれないうえに、とある怪事件を解明する糸口ともなりました。

2021年のハリケーン名

アメリカでハリケーンに名前が付けられるようになったのは、今から約70年前のこと。1953年からは予報官の奥さんや恋人などから取った女性名が使われました。1979年からは男性名やフランス語とスペイン語の名前も仲間入りしています。最大風速17メートル以上の、つまり台風と同じ強さの熱帯生まれの嵐に、名前が付けられます。

さて今年2021年はどのような名前のハリケーンが発生するでしょうか。名前の候補リストを見てみると、何やら見覚えのある名前が並んでいます。

2021年のハリケーンの命名リスト (筆者作成)
2021年のハリケーンの命名リスト (筆者作成)

左が大西洋、右が東部太平洋の名前リストです。大西洋のリストには、「アナと雪の女王」の主人公の2人「アナ(Ana※)」と「エルサ(Elsa)」が、太平洋のリストには、名脇役の雪だるまの「オラフ(Olaf)」の名前があります。偶然にしては出来過ぎですから、どうやら命名権者にディズニー好きがいると考えられます。

そのうえよく見ると、「ピーター(Peter)」と「ワンダ(Wanda)」という名前もあります。「ディズニー・アディクト」という名前のサイトでは、それぞれピーターパンとアヴェンジャーズの登場人物から来ているのではないかとマニアックな推察を展開しています。なお「アディクト」とは、中毒の意味です。

世界一不気味な事件の鍵

「アナ雪」の影響力はこれに留まりません。スイスの科学者をも魅了して「世界一不気味な怪事件」の解決につながりました。

「ディアトロフ峠事件」と呼ばれる、この事件の経緯はこうです。

1959年、旧ソ連の山でトレッキングをしていたグループが遭難。吹雪で視界を失って、仕方なく山の斜面の雪を削ってテントを張り、一夜を明かすことになりました。残念ながらこれが彼らにとっての最期の夜となります。数週間後に発見された彼らの死体は、頭蓋骨や肋骨が折れていたり、舌や眼球がなかったりと、およそ自然の仕業とは思えない凄惨な様相を呈していました。当然のこと、宇宙人による誘拐説やイエティによる襲撃説など、陰謀論が飛び交いました。

その夜、何があったのか。この謎は約60年もの間人々の頭を悩ませてきましたが、ようやく今年1月にスイスの2人の研究者によって科学的に解明されました。その糸口になったのが「アナ雪」です。

研究者は映画の雪のCGに感銘を受け、その技術を参考にしてシミュレーションを作り、事故当日の様子を検証しました。すると小規模な雪崩でも硬い雪が板状に崩れ落ちれば、人に骨折を負わせるほどの威力を持つことが明らかになりました。これですべての謎が解けたわけではないというものの、被害者はひどい外傷と低体温症で亡くなり、その後に野生動物などに襲われた可能性が高いと結論付けています。

赤ちゃんもエルサ

謎の解明にも一役買い、ハリケーン名にも抜擢された「アナ雪」ですが、赤ちゃんの名前にも変化をもたらしました。映画が公開された2013年には、アメリカで1,131人の赤ちゃんがエルサと名付けられ、97年ぶりにエルサが上位500位入りを果たしたとか。

作者も舌を巻く影響力です。

※映画のアナの綴りはAnna

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

森さやかの最近の記事