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今年最強ハリケーン『イオタ』がニカラグアに上陸

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
上陸直前の「イオタ」の衛星画像 (出典: NOAA)

大西洋のハリケーン「イオタ」が、日本時間17日昼、カテゴリー4の今年最強勢力で中米ニカラグアに上陸しました。同国は2週前にも「イータ」の直撃を受けています。

日本時間17日昼、ハリケーン「イオタ(Iota)」が中米ニカラグアに上陸しました。上陸時の中心気圧は920hPa、最大風速は69m/s(1分平均)。勢力は上から2番目に強い「カテゴリー4」でした。イオタは一時「カテゴリー5」に発達し、今年大西洋で発生したハリケーンの中で最強の勢力となりました。

イオタは今後ニカラグアを横断し、ホンジュラス、エルサルバドルへと進む見込みです。予想される雨量は最大で760ミリ、最大瞬間風速は85m/sです。85m/sは時速にすると約310km/hと、フォーミュラーワンのレーシングカー並みの速度です。

カテゴリー4とは…

一体、カテゴリー4の強さとはどのようなものでしょうか。その最大風速は、定義上58~69m/s以上ですが、その被害をアメリカ国立ハリケーンセンターはこう説明しています。

「壊滅的な被害が発生する。頑丈な家屋も損傷し、屋根や壁が破損する。停電は数週間から、場合によっては数か月続く。また数週間から数か月の間、居住不能になる。」

史上初、2週間で2つ目

これまでニカラグアに「カテゴリー5」の勢力で上陸したハリケーンは、1971年のエディス(Edith)と、2007年のフェリックス(Felix)だけです。

イオタは上陸直前に一段階低いカテゴリー4に弱まりましたが、それでもカテゴリー5との風速差はたったの1m/sと、ほとんどカテゴリー5といっても過言はありません。しかも今回の場合は、過去の2例よりも災害が拡大する恐れがあります。

というのも、ニカラグアは今月5日(木)にもハリケーン「イータ」の直撃を受けているためです。驚くことに、イオタの上陸位置はイータの上陸位置とたったの25キロしか離れていませんでした。

イータも「カテゴリー4」での上陸でしたが、幸いニカラグアでは住民が前もって避難したため、人的被害は小さくすんでいます。しかし周辺諸国では甚大な被害が出ました。

ホンジュラスでは洪水や土砂崩れで74人が死亡、グアテマラでは土砂崩れで100人以上が亡くなっています。イオタは、こうした被災地に、イータよりも強い勢力で直撃することとなります。

カテゴリー4以上の勢力の大西洋のハリケーンが、2週間で同じ場所に上陸したことは、これまでに一度もありません。

(↑濃いピンクがイータの経路、薄いピンクがイオタの予想進路。)

イオタの記録

そのほか、イオタは数々の歓迎されざる記録を塗り替えています。その記録とは次のようなものです。

・ 1932年以来もっとも強い11月の大西洋ハリケーン

・ 観測史上もっとも遅い時期に発生した「カテゴリー5」の大西洋ハリケーン

・ 観測史上初めて5年連続で発生した「カテゴリー5」のハリケーン

(2016年マシュー、2017年マリア、2018年マイケル、2019年ロレンゾ、ドリアン)

さらにイオタは、観測史上初めて大西洋で発生した「30号」です。大西洋では、太平洋における「台風」と同じ強さに相当する「トロピカルストーム」と「ハリケーン」に、番号ではなく名前が付けられます。今年は30個の名前が付いた嵐が発生しました。

これまでの記録は2005年の28個でしたので、その記録を2つも上回っています。実は次のハリケーンも発生する兆しが出ています。もし発生すれば「カッパ」、再び記録を更新します。

追記(11/26): ニカラグア政府は、イオタが同国の観測史上最強のハリケーンであったと発表しました。6人が死亡、40万人が被害にあったもようです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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