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記録的ハリケーン「イサイアス」米上陸、首都やNYに最接近へ

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
接近するハリケーン「イサイアス」の衛星画像 (3日、NOAA出典)

太平洋で観測史上初めてとなる「台風0個」が記録された7月、大西洋では統計史上最多となる「2個のハリケーン」が発生していました。そのうちの1つである「イサイアス(Isaias)」は、3日(月)アメリカに上陸しました。5日(水)にかけてアメリカ東岸を通過する見込みです。

イサイアスの状況

イサイアスはアメリカ南東部のノースカロライナ州に、現地時間3日(月)夜、日本時間4日(火)正午頃上陸しました。上陸時の中心気圧は988hPa、最大風速は39m/sの「カテゴリー1」の勢力でした。これは「強い台風」に相当する強さです。

イサイアスは今後やや弱まり「トロピカルストーム」の勢力で北上を続ける見込みです。トロピカルストームとは、最大風速17~32m/sの「台風」に匹敵する嵐です。

イサイアスの予想進路

国立ハリケーンセンター出典の予想進路図に筆者加筆
国立ハリケーンセンター出典の予想進路図に筆者加筆

国立ハリケーンセンターの予想によると、イサイアスは4日(火)午後から夜にかけてワシントンDCやニューヨークシティなどを通過し、5日(水)にかけてアメリカ北東端のマサチューセッツ州などに接近する見込みです。その後、温帯低気圧となってカナダ東部を北東進する予想となっています。

ニューヨークシティは、7月に「フェイ(Fay)」の直撃に遭ったばかりです。最接近時のフェイの勢力は「熱帯低気圧(最大風速17m/s未満)」でしたが、地下鉄の構内が浸水したり、19歳の少年が海で溺死するなどといった悲しい出来事も起きています。

今回イサイアスにより予想される降水量は、ノースカロライナ州などで最大で200ミリです。

一方ニューヨークシティなどでも大雨が降る予想で、8月の月間降水量を上回る150ミリが予想されています。

大雨、強風や竜巻に加え懸念されているのが、高潮です。折り悪く、現在は満月の時期に当たるため、満潮の時間と嵐の接近が重なると、潮位が高くなって浸水のおそれが高くなります。

(↑すでにノースカロライナ州では、高潮の被害が起きているもよう)

イサイアスの記録

このように、アメリカ東部の大都市圏を直撃し被害をもたらすと心配されるイサイアスですが、これまでに様々な記録を塗り替え、別の意味でも注目されてきました。

一体どのような記録なのでしょうか。

まず、イサイアスは「観測史上初めて7月に発生した、2つ目のハリケーン」(最大風速33m/s以上)です。1つ目はハナで、7月25日にテキサス州に上陸しています。

次に、イサイアスは7月30日に最大風速が17m/sに達し、大西洋における今年9号のトロピカルストームとなりました。これは「大西洋の観測史上もっとも早い時期に発生した、トロピカルストーム9号」(最大風速17m/s以上)です。9号の平均発生日は10月4日ですが、イサイアスは2カ月以上も早く発生したことになります。

記録はそれだけではありません。

イサイアスの上陸で、アメリカには今年5つのハリケーンとトロピカルストームが上陸したことになりました。コロラド大学のクロッツバック教授によると、「8月3日の段階で5つ目が上陸するというのは、観測史上初めて」のことのようです。これまでの記録は1916年8月18日なので、2週間以上も早かったことになります。

イサイアスの記録が、発生時期の早さだけに終わることを、心から願う気持ちです。

2020年大西洋トロピカルストーム名前リスト (筆者作成)
2020年大西洋トロピカルストーム名前リスト (筆者作成)
NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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