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最愛の妻を亡くした男性が撮った、竜巻直撃の瞬間映像

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
2015年4月9日アメリカ・イリノイ州を襲った竜巻の被害(写真:ロイター/アフロ)

ちょうど一年前の今日(4月9日)、アメリカで巨大な竜巻が発生しました。イリノイ州・フェアデールという小さな町では、家々が跡形もなく壊され、二人が命を落としたのです。

この竜巻によって最愛の妻を亡くした男性が、先日衝撃の映像を公開しました。その中には、竜巻が彼の家を直撃する瞬間が収められています。

なぜこのような映像が撮れたのでしょう。

当時85歳だったクレム・シュルツさんは、こう述べています。

その晩、竜巻警報は発令されていたが、まさかこの町を襲うとは思わなかった。ただ、竜巻が発生すると停電になることが多いので、妻をキッチンに残し、2階に上がってキャンプ用ランタンを取りに行った。すると、窓の外に竜巻を見つけたので、思わずカメラを回した。しかし、当初遠ざかると思っていた竜巻が、自宅の方に進んでくるのがわかった。時すでに遅く、もう妻を助けに行く猶予もなく、そのままカメラを回し続けた。

その後クレムさんは、瓦礫の下に埋まっていたところを、住民によって助け出されました。

この巨大な竜巻は、竜巻のスケール(改良版藤田スケール)で上から2番目に強い、EF4という強大なものでした。推定風速は秒速74〜89メートルで「壊滅的な被害をもたらし、車は小型ミサイルのように飛ばされる」ほどの威力があるとされています。

残念ながら奥さんのジェリさんは命を落としました。それに彼女の親友で隣人であった女性も亡くなりました。

しかし、奇跡的なことに、シュルツさん夫婦の写真が、55キロも離れた場所から見つかったのです。そして、竜巻の後いなくなっていた愛犬ミッシーも無事、発見されました。

ところで、日本の竜巻は一般的には弱いものが多いですが、かつて、この竜巻に匹敵する強さのものも発生しています。それどころか、2012年5月6日に茨城県つくば市を襲った竜巻は、局所的には風速が100mを超えていたとも言われています。そう考えると、この映像が、決して対岸の火事とは思えないのです。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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