信用金庫を核にして、そのもとに営業地域内の顧客を全て連結すれば、地域という理念的な企業ができますが、その企業こそ、信用金庫の真の実態なのではないでしょうか。真の地域金融機関とは、地域そのものであり、真の協同組織金融機関とは、その自己資本を顧客と共有することで、相互扶助原理により顧客全体のリスクテイクを可能にする仕組みなのではないでしょうか。

金融排除と相互扶助

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信用金庫の融資先は、金庫の出資者である会員ですし、信用組合についても、その融資先は出資者である組合員です。仲間が集まって、皆で出資し、預金して、資金の塊を形成し、そこから皆で融資を受ける、これが相互扶助原理としての協同組織金融の本質です。

これらの融資先企業は、ほとんど全て非公開の中小企業、あるいは個人企業などであって、自己資本の厚みもないところが多いと想定されます。だからこそ、いわゆる金融排除、即ち、営利企業である銀行等からの融資が受けられない事態もあることから、自衛措置として協同組織を構成しているのです。

つまり、相互扶助の原理からすれば、信用金庫等の協同組織の場合、その自己資本は会員や組合員によって共有されている自己資本としての性格をもつはずです。即ち、各自に十分な自己資本がなくとも、他の仲間とともに、その零細な自己資本を拠出して、大きな資本の塊を形成することで、自己のリスクテイクができるようにする仕組み、それが協同組織金融なのです。

地域という連結企業

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資本を共有するということであれば、信用金庫と、その融資先企業とは、一つの理念的な企業統合とみなすこともできます。特定の産業を基盤にした信用組合を考えれば、一層わかりやすいでしょう。この信用組合の性格は、産業組合の金融部門ということになります。産業組合といえば、農業協同組合が典型的な事例です。

個人経営の農家が集まって協同組合をつくれば、対内的には多数の独立事業者の集合ですが、対外的には一つの大きな法人として個人事業にはない交渉力をもつことができます。なかでも、その組合としての力が顕著に発揮されるのが信用事業です。農業協同組合の信用事業は、個人経営では不可能であった資金調達を相互扶助によって可能にするものなのです。

こうして、農業協同組合は金融機能を内製化した特殊な事業法人といえますが、そうした特例が許されるのは、農業の特殊性によるわけで、普通の小企業や個人経営からなる産業の場合は、産業組合を作ったとしても金融機能を内包させることはできませんから、別に相互扶助の協同組織金融機関として信用組合が作られているのです。

ですから、信用組合を核にして、その組合員の事業者を頭のなかで連結することにより、農業協同組合と同じように自前の金融機能を内包した一つの法人としての産業組合が観念されるはずです。同様に、ある地域を営業領域とする信用金庫を軸に、その地域内の会員事業者を連結すれば、一つの地域という法人が観念され得るでしょう。

地域の機関銀行

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では、観念的な連結とは、どういうことか。実は、普通に連結することです。債権者である信用金庫と、債務者である会員企業を連結すれば、金庫の貸付債権と企業の借入負債、金庫の預金債務と企業の預金資産、金庫の自己資本と企業の出資金資産が相殺されて消え、資産勘定には金庫の投資有価証券等と企業の事業資産の合計が残り、負債勘定には個人預金と企業の信用金庫以外からの借入負債が残り、資本勘定には企業の自己資本の合計が残ります。

これぞ、まさに地域の貯蓄を基礎にして形成された地域という企業にほかならないわけで、ここに信用金庫の経済的実質があると思われます。ただし、理念的に連結した姿と、連結前の現実の姿とでは、資産勘定と負債・資本勘定の両建てが相殺されて、貸借対照表の規模が連結前の単純合計よりも著しく小さくなる点が異なります。つまり、逆にいえば、預金取扱金融機関として資金増幅効果をもたらしている信用金庫の信用創造機能がみえてくるということです。

また、金融仲介機能の真の姿もみえてきます。地域内の企業や個人の資金需要の状況は、それぞれに異なるわけですが、資金需要が旺盛なものは、そうでないものから借りて、資金繰りに余裕のあるものは、そうでないものに貸す、そうした相互間の貸借による資金需給調整は、信用金庫の預金と融資の勘定の処理によって容易に実現されています。これこそ、信用金庫の金融仲介機能の本質であって、それは預金取扱金融機関だからこそ可能になる仕組みです。

いわば、信用金庫は地域の中央銀行のようなもの、より正確にいえば地域の機関銀行のようなものなのです。このことは、農業協同組合や信用組合のように産業別に組織された協同組織金融機関の場合は、より明瞭です。それは、独立した金融機関ではなくて、実態としては、産業組織の金融部門、即ち機関銀行にほかならないのです。

地域の自己資本

こうして、地域の実態が解明されます。地域といいましても、特定の信用金庫の営業領域という意味ですが、その限りにおいては、地域内の資産構成や資本構成の実態がみえるはずです。なかでも重要な点は、地域の自己資本です。はたして、資本不足という事実はあるのか、また、資本の分布は、企業側に偏っているのか、それとも、金庫に集積されているのか。

この問の後段は、連結前の金庫の自己資本と、連結後の地域の自己資本の差に表れるわけで、差が企業にある自己資本の総計です。おそらくは、一般に、多くは金庫に集積されているのではないでしょうか。ならば、前段の問は、金庫の自己資本が十分にあるかということに帰着します。

では、金庫の自己資本が十分かというと、もちろん、金庫ごとの差が大きいわけですが、地域内の融資需要が弱いため、自己資本を稼働しきれていない金庫も少なくはないとみられます。ですから、地方創生の課題において成長資本の不足がいわれるとき、その有力な解として信用金庫等の地域金融機関の自己資本の活用が検討されることは理に適うことだと考えられます。

貯蓄から投資へ

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信用金庫の地域連結をしたときに、地域内の個人貯蓄が預金として集積されるわけですが、その額は自己資本に比して過剰である可能性が高いと思われます。そこで、これも、よくいわれることですが、地域において、一方で資本が不足し、他方で貯蓄が過剰ならば、貯蓄を資本に転換する工夫をすべきだということです。

この工夫には、理論的に、いくつかの方法があり得るのであって、必ずしも、地域ファンドであるとか、住民ファンドであるとか、はたまたクラウドファンディングであるとか、そのような単純かつ直接的な手法に限られることはないのです。

金融庁は、貯蓄から投資へという標語のもとで、信用金庫等の預金取扱金融機関に対して、個人顧客への資産運用提案力を高めて、預金から良質な投資信託へと顧客資産を移転できるように、経営改革を促しているわけです。これは、もちろん、国民の安定的な資産形成のためになされる施策ですが、同時に信用金庫等の金融機関の利益にもなることです。なぜなら、過剰な預金の集積が経営の大きな負担となっているからです。

預金として調達された資金は、融資に運用する機会が限られることから、過剰分は国債等に投資されるほかないのですが、極端な超低金利下では、調達コストを大きく下回る運用収益しかもたらさないのです。預金が減れば、逆鞘の運用を減らせるので、信用金庫の利益率は大きく改善します。つまり、それだけ、リスク負担力も強化されるということです。

資産運用の高度化

しかし、いかに貯蓄から投資へといったところで、預金過剰の現状が急速に変わり得ないことは明らかですから、融資以外の投資の重要性は残ります。そこで、金融庁は、国債一辺倒の投資を改めるように求めているわけです。もっとも、最近は、それほど資産運用の高度化をいわなくなっているのですが、それは施策の重要性が低くなったということではなくて、高度化の名のもとに低度な投資をして損失を発生させる等の事案が散見されるからです。

信用金庫においても、金融庁が求める真に高度な資産運用を行えば、逆鞘であったものが利益を生むようになるのですから、金庫の収益力の強化に与える影響は極めて大きなものとなります。こうして、真の資産運用の高度化は、信用金庫の体力を強くして、そのリスク負担力を一段と強化するのです。その強い力があってこそ、地方創生に貢献できるというものです。

地方創生

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地域連結により、信用金庫の顧客の間の産業連関構造は、地域企業の内部構造として資産勘定側に示されるわけです。その構造が明らかになってこそ、信用金庫を中軸にして、地域内部の問題として、地域自身の問題として、地域内の構造改革の方向が議論できるようになるのでしょう。

地方創生は、創生といわれているように、現にある地方を振興するものではなくて、抜本的な改革により、現にある旧構造の地方の上に、新構造の地方を創生することです。そのためには、中核となる推進機関が必要ですが、信用金庫は、間違いなく、その代表的な存在なのです。

それにしても、地方創生では、もともと地域商社の必要性がいわれ、それは、今では、地域特産品の販売代理店のようなものに矮小化されてしまったようですが、本来は、信用金庫を軸に地域連結したような大きな構想であるはずだったのです。

地方銀行の未来

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これまで信用金庫について述べたことは、一つのことを除いて、そっくりそのまま地方銀行にもあてはまります。その決定的に異なる点は、協同組織金融機関の場合は、株主に相当するものが顧客であって、故に内部完結して地域と一体化するのですが、地方銀行の株主の多くは地方に利害を全くもたない純粋な投資家なのですから、地域外部に開いてしまいます。

この点をとらえて、地方銀行においては、信用金庫におけるような地域への深い浸透は不可能ではないかという意見もあるのです。しかし、地方銀行は地域に根差してこそ企業価値があるのであって、その事情は信用金庫と全く同じなのですから、要は、地域中核金融機関としての自己の企業価値を投資家に正しく提示できるかどうかが論点であるわけです。

地方銀行は、銀行業が先にあって地方に立地しているのではなくて、地方が先にあって銀行業を営んでいるわけですから、その企業価値は地域の力に依存するのです。地域を強くすることが銀行を強くすることである、そうした信念を経営者が貫き、そして成果をあげ、株主に自信をもって企業価値の証明ができるのでなければ、地方銀行の存立基盤はないのです。