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『臭いものにはフタをしろ!』で良いのか、教師のLINEと児童のアルコールランプ?

森井昌克神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授
教室

先般、理科の実験でアルコールランプが使われなくなているというニュースが流れました。

理科の実験でおなじみのアルコールランプが学校で使われなくなっている。なぜ? 共立女子中学高等学校の桑子研先生は言う。「取り扱いが難しく、注意点が多く、危険だからです」 危険の理由は、「児童・生徒が実験机から落とす可能性がある」「アルコールが少なくなると、ランプの中でアルコールが気化し、爆発する可能性がある」などだそう。

出典:理科の実験で「アルコールランプ」が使われなくなった理由:日刊SPA!

ほぼ同じ頃に、懲戒・訓告処分を受けた教員数が激増していることが話題になり、特にわいせつ等の行為でLINEが使われることが多く、その教員の利用制限についても議論されました。

LINE等のSNSは事実上広く浸透しており、スマホや携帯を持っている高校生のほぼ全員といって良いぐらい利用しています。緊急の連絡や広報の 意味での連絡では最適な情報通信手段であり、情報共有を行うための有効な道具でもあります。LINEを使う事と生徒と私的な関係を持つ事とはまっ たく別です。幼児に対してではなく、教師にまで「ナイフの類は危ないから使用禁止」というのではあまりにも情けなくはないでしょうか。

出典:教師も危ないからLINEを使わないように!?【Yahooニュース!個人ブログ】

この2つ、つまりアルコールランプ等、少しでも危険な行為や器具等の扱いを児童生徒には避けさせるということと、わいせつ行為へのきっかけとなる可能性が有り得るLINEの使用を教師にはひかえさせるという点で、ともにその有効性や将来の必要性を顧みる事なく、眼前の危険性の排除と言う問題解決を優先していることにあります。

まずアルコールランプの問題。これは児童生徒に「危ないから使わせない」ということで良いのでしょうか。これは「アルコールランプ」だけの問題でなく、何につけても、その効用や将来の必要性を無視して、「危険」という2文字だけで避けていては問題の解決にはなりません。確かにアルコールランプを将来にわたって使わない可能性も低くはありませんが、それでも、効用や将来の利用を考えて、あえて危険なものに対する扱い方を勉強する必要もあるでしょう。児童生徒に対する「危険」にも2つがあり、遭遇すべきでない危険と、将来遭遇する可能性がある危険があるのです。ハサミや彫刻刀などを含む刃物の使い方は後者でしょう。アルコールランプも後者に入ると考えられます。遭遇する可能性がある危険性への対策を教える事も学校教育の一つの役目であり、その危険性自体を存在しない事にするのは問題ではないでしょうか。

教員の事実上のLINE使用禁止の問題。同報通信、つまり児童生徒全員に同じ連絡事項を伝えることは許可することも多いようですが、やはり児童生徒にとってLINEの最大の利点は容易に使えるという事でしょう。この容易にというのは手間とか作業ではなく、心理的な障壁が小さいということです。教員と児童生徒との距離を極めて縮める可能性があるのです。確かにそれがそれが悪用につながるという表裏の関係にある事は事実でしょう。だから、その裏の部分の危険性だけを顧みて全面的に禁止するのではなく、上手に利用することを推奨し、教員も認識を新たにすれば、児童生徒を指導する最良のツール(道具)になることを目指すべきではないでしょうか。

児童生徒のアルコールランプ使用禁止と教師のLINE禁止問題。危険だから悪用されるからという眼前の理由だけで決定されてしまうというのは、児童生徒と教師が同じ次元で考えられているという事も相まって、悲しい限りです。

神戸大学大学院工学研究科 特命教授・名誉教授

1989年大阪大学大学院工学研究科博士後期課程通信工学専攻修了、工学博士。同年、京都工芸繊維大学助手、愛媛大学助教授を経て、1995年徳島大学工学部教授、2005年神戸大学大学院工学研究科教授。情報セキュリティ大学院大学客員教授。情報通信工学、特にサイバーセキュリティ、インターネット、情報理論、暗号理論等の研究、教育に従事。加えて、インターネットの文化的社会的側面についての研究、社会活動にも従事。内閣府等各種政府系委員会の座長、委員を歴任。2018年情報化促進貢献個人表彰経済産業大臣賞受賞。 2019年総務省情報通信功績賞受賞。2020年情報セキュリティ文化賞受賞。電子情報通信学会フェロー。

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