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5歳で売られた中国人女性。誘拐犯に1億5千万円超の賠償請求

宮崎紀秀ジャーナリスト
楊さんはSNSで自ら情報提供を求めた(中国のSNSより)

 中国で28年前に誘拐され売り飛ばされた女性が、自分を誘拐した犯人に日本円で1億5千万円余りの賠償を求めた。犯人に支払い能力が無いことを分かりながらも女性は「代償を払わせたい」と訴えている。彼女が経験した誘拐の悲惨な実態とは?

誘拐犯は隣に住む女

 この女性は、貴州省に住む33歳の楊妞花さん。中国メディアや楊さん自身のSNSでの発信によれば、楊さんは28年前の1995年、5歳の時に誘拐されたという。

 当時、楊さんは貴州省の貴陽市の家に両親と姉と住んでいた。隣に引っ越してきた家族と次第に仲良くなり、ある冬の日、セーターを編むかぎ針を買いに行くという理由で、楊さんは隣家の女に連れ出された。その後、電車に乗せられ、女から「騒いだら電車から投げ落とす」などと脅された。楊さんは河北省の農村に連れて行かれ、独身の聾唖の男の養女として売られた。男の老後の面倒を見させるためだったという。

 男やその親は、誘拐された楊さんを買ったことを隠そうともせず、早く稼いで金を返せとまで言った。

 楊さんは小学校を中退し13歳から働き始めた。成人して結婚、2人の子供に恵まれた。

自らSNSで家族探しを

「この数年、本当の両親と姉を探そうとずっと思っていました。でも私は四川省の方から連れて来られたと言われていたので、最初は間違って回り道をしてしまいました」

 2年前の2021年、楊さんは誘拐被害者やその家族の捜索のためのDNAバンクに改めて登録し、自らSNSで情報を求める動画を発信した。

「実家は山の中で、駅から比較的近くにありました。豚小屋から市場が見えました」

 父親の名前や姉との思い出など、記憶に残る手がかりを挙げ訴えた。

「情報を拡散してください。家族の目に触れて、私が早く実家に戻れるよう助けてください」

 楊さんの動画を、いとこが目にしたという。そのいとこは、楊さんが誘拐されたという話を聞かされていた。同年5月、楊さんの本当の家族が見つかった。

両親はすでに...

 2021年、楊さんは26年ぶりに実の姉との再会を果たした。だが、両親はすでに亡くなっていた。楊さんが誘拐されてから父は酒に浸るようになり2年後に死亡。母も精神を病んでしまい、父を追うように亡くなったという。孤児になってしまった姉は、祖母や叔父と数年暮らした後、働きに出ざるをえなかった。

 楊さんは警察に情報を提供した。貴州省の警察は去年6月に事件を受理し、1か月も経たぬうちに楊さんを誘拐した女の身柄を拘束した。楊さんは、警察から十数枚の容疑者の写真を見せられた際に、自分を誘拐した女の顔をすぐに特定できたという。

「私が最も憎んでいる人です。一生彼女の顔を忘れるはずはありません」

 幸せを奪った者の顔は、5歳の子供の記憶にさえ強く刻まれたのだ。

女は誘拐の常習犯

 その女は誘拐の常習犯だった。楊さんの弁護士によれば、女は子供2人を誘拐した罪で2004年に有罪判決を受け服役。5年後の2009年に出所していた。女は、今回の調べの中で、1993年から96年の間に楊さんを含む8人の子供を誘拐したと供述したという。今年2月、女は起訴された。

 楊さんの弁護士は、8人の誘拐と間接的に楊さんの両親を死に至らしめた結果は極めて重く、女が死刑か無期懲役の判決を受ける可能性があると指摘する。

 楊さんは女への厳罰を求めているが、その上で、女に対し790万元(約1億5300万円)余りの賠償を請求したことを明かした。楊さんは女に支払い能力が無いであろうことは承知した上でこう訴えている。

「彼女の行為が私の家族にもたらした被害はお金では計算できません。私の目的はお金ではありません。彼女に自分の行為に対する代償を払わせたいのです」

 誘拐は被害者一人の一生のみならず、その家族の人生さえも破壊してしまう。その被害の当事者が勇気をもって上げた声は、誘拐、人身売買という犯罪の卑劣さを改めて考えさせられるきっかけになっている。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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