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中国の反発よそに台湾は自由の守り手へ

宮崎紀秀ジャーナリスト
蔡総統と米下院議長の会談を報じた7日付の台湾各紙(2023年4月7日筆者撮影)

 台湾の蔡英文総統が現地時間5日、アメリカのロサンゼルス郊外でマッカーシー米下院議長と会談した。1979年にアメリカと断交して以来、台湾の総統が米国本土で下院議長と会談するのは初めてという。台湾メディアは「台米関係が新たな段階に入ったことを象徴する」と評価した。

会談のもつ意味

 アメリカの下院議長は、副大統領の次に大統領権限を引き継ぐに地位にあるという。台湾の中央通訊社によれば、会談ではアメリカからの武器売却や経済連帯の強化、共通の価値観の普及について確認した。

 蔡総統の属する民進党寄りの論調で知られる台湾の新聞「自由時報」は、7日付の紙面で、今回の会談の「意義」に関する社説を掲載、台湾総統がアメリカのナンバー3と初めて米本土で会談した点について、「台米関係が新たな段階に入ったことを象徴する」と説いた。

 社説では、去年8月にペロシ下院議長が台湾を訪問した際に、中国が大規模な軍事演習を展開して台湾を威圧したことについて触れ、「全世界が中国共産党政権の極端さと非合理性を目にした」と断じた。その結果、主な民主主義国家が次々と中国に台湾海峡の平和を促すようになり、アメリカなどの国々は中国軍の起こしかねない暴挙に対する防衛準備を加速させたとした。そうした環境の中で、アメリカ側と協議の上、今回の会談場所として台湾ではなくアメリカを選んだ点について、「中国に台湾海峡で騒ぎを起こす口実を与えないため」であり、そのこと自体が「中国によって引き起こされるリスクをコントロールする重要な協力」と評した。

民主主義の守り手へ

 米中関係が良好な時は、米中台で地域の安定を保つ上で台湾の立場は弱かったが、今や中国が民主主義国家の戦略上の競争相手で、ひいては「敵」であるとみなす「疑中論」が蔓延する中で、中国の脅威の最前線にある台湾は、「中国共産党の脅威を共にコントロールする民主主義陣営の主要な同盟者」になったという。

 全世界が注目するなかで今回の会談が発したメッセージは、地域情勢をエスカレートさせるためではなく、改めて民主主義陣営の同盟を示し、「共に信奉する自由という価値を守らなければならないということ」という。

 つまり台湾とアメリカとの関係は、「自由・民主主義を守るための仲間」という新たなステージに入ったというわけだ。その背中を押したのは圧力を強め続ける中国だ。

 フィンランドは長く続けた中立の立場を捨て、4日、北大西洋条約機構(NATO)に正式加盟した。ウクライナに侵攻したロシアからの脅威を感じての判断だろう。「自由時報」は同じ7日の紙面で、そのフィンランドと台湾との類似性について触れたコラムを載せ「今の台湾の地位も習近平が作った」と皮肉った。

ジャーナリスト

日本テレビ入社後、報道局社会部、調査報道班を経て中国総局長。毒入り冷凍餃子事件、北京五輪などを取材。2010年フリーになり、その後も中国社会の問題や共産党体制の歪みなどをルポ。中国での取材歴は10年以上、映像作品をNNN系列「真相報道バンキシャ!」他で発表。寄稿は「東洋経済オンライン」「月刊Hanada」他。2023年より台湾をベースに。著書に「習近平vs.中国人」(新潮新書)他。調査報道NPO「インファクト」編集委員。

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