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井上尚弥vs.タパレスの対抗馬は井岡一翔vs.あの男? 年末日本リングが沸騰する予感

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井岡vs.フランコ第2戦(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

大みそかの主役、井岡登場はあるのか

 WBC・WBO世界スーパーバンタム級王者井上尚弥(大橋)vs.同級WBAスーパー・IBF王者マーロン・タパレス(フィリピン)の4団体統一タイトルマッチが12月26日、日本で開催されることがほぼ確定している。正式発表は10月下旬と聞いているので、もう秒読み段階ではないだろうか。井上は横浜の大橋ジムで、タパレスはラスベガスの「ナックルヘッド・ボクシング・クラブ」で調整を図っている。

 井上vs.タパレスが今年の大トリかと思っていたら、日本ボクシング界には大みそかというビッグステージが残されている。大みそかと言えば、WBA世界スーパーフライ級王者井岡一翔(志成)が真っ先に頭に浮かぶ。7月にジョシュア・フランコ(米)との再戦に勝利を飾り、返上したWBO王座からWBA王者に君臨した井岡は2011年以降、17年を除いて毎年大みそかのイベントに登場してきた。今年も井岡の勇姿が見られる可能性は高いのではないだろうか。

 世界的な注目度が高い井上vs.タパレスに対し、井岡が例年のように大トリを務めるならば、それなりの相手が抜てきされると考えていいだろう。少なくとも目標に掲げる王座統一戦を熱望しているのは確かである。ライバル王者はWBCフアン・フランシスコ・エストラーダ(メキシコ)、WBO中谷潤人(M.T)、IBFフェルナンド・マルティネス(アルゼンチン)の3人。日本のファンは“ネクスト・モンスター”中谷との対決を望んでいるだろう。だが、これはもう少し先のお楽しみになるのではないだろうか。フランコを下した後、井岡が口にした相手は“ガジョ”(闘鶏)エストラーダだった。

やはりエストラーダ

 昨年末に来日し、井岡vs.フランコ第1戦をリングサイドで観戦したエストラーダはスーパーフライ級の第一人者と位置づけられる。宿敵“ロマゴン”こと4階級制覇王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)に勝ち越した実績が光るが、ここ数年のスーパーフライ級を牽引したキャリアが彼をトップへ押し上げる。権威がある米国メディア「ザ・リング」でもスーパーフライ級チャンピオンに君臨する。井岡そして中谷が当面のターゲットに据えても誰も異存はないはずだ。

 エストラーダもメキシコからわざわざ井岡戦を視察に訪れたのは未来の対戦を想定してのことに違いない(夫人同伴で観光気分も感じられたが)。彼は昨年12月3日のロマゴンとの第3戦からリングに登場しておらず、上がる気配も感じられない。水面下で井岡陣営との交渉が進められていると伝えられるが、果たして噂は本当なのだろうか。

井岡のターゲット、闘鶏エストラーダ(写真:DAZN)
井岡のターゲット、闘鶏エストラーダ(写真:DAZN)

 私は9月18日、東京・有明アリーナで挙行された寺地拳四朗(BMB)vs.ヘッキー・ブドラー(南アフリカ)をメインに中谷の防衛戦、那須川天心(帝拳)のボクシング転向第2戦などのイベントをスポーツ専門メディア、ESPNのスペイン語版「ESPNノックアウト」で観戦した。その中継中に進行役が「年末に井岡とエストラーダが統一戦を行う話が出ている」という話をはさんだ。

 さっそく日本のあるメディア関係者に聞いてみた。すると「井岡vs.エストラーダはまだこちらでは把握できていません。ただDAZN(ダゾーン)が中継すれば米国開催になり、大みそかではないと思います。大みそかになれば、日本開催かと。以前、本人(井岡)から交渉の感触は悪くないと聞きましたが……」という返事をもらった。

挑戦者決定戦に勝ったラミレス

 日本のスポーツ紙の記事によると井岡は「エストラーダと闘うならば米国で試合がしたい。日付や日本開催にこだわらない」と明かした。昨日(21日)ロサンゼルスのザ・フォーラム(現在はキア・フォーラム)でゴールデンボーイ・プロモーションズ(GBP)主催のイベントをDAZNが中継した。スポットで流したプロモーション映像(広告)ではDAZNで試合が中継される選手たちが登場し、その中にエストラーダも含まれていた。しかし年内のスケジュールに彼の名前はない。同時に本格的なトレーニングを開始した様子もうかがえない。

 大みそかまで2ヵ月と少し。普通なら試合の発表が行われてもおかしくない。ちなみにフォーラムのカードではセミファイナルでWBAスーパーフライ級2位ジョン・ラミレス(米)が同級7位ロナル・バティスタ(パナマ)に4回2分33秒KO勝ち。“スクラッピー”ラミレス(13勝9KO無敗=27歳)は、この一戦で井岡の指名挑戦者に名乗りをあげた。それでも試合間隔の短さを考慮して彼のプロモーター、GBPが即座に井岡陣営に接触するとは思いにくい。

バティスタに攻めかかるスクラッピー・ラミレス(写真:Cris Esqueda / GBP)
バティスタに攻めかかるスクラッピー・ラミレス(写真:Cris Esqueda / GBP)

ビッグネーム同士ほど締結しやすい?

 エストラーダに話を戻すと、彼ほどの大物を招へいするとなると、ファイトマネーも跳ね上がると推測される。反対に高額報酬が提示されればエストラーダは再び日本の地を踏むだろう。短絡的すぎるが、すでにグローブを吊るすことも頭にあると言われる“ガジョ”は「引退前のひと稼ぎ」と井岡戦を位置づけているかもしれない。以前、井岡が口にしていた「エストラーダを引き出すことができれば……」という願いが叶う見込みが強まる。エストラーダがビッグファイトに執着すればするほど、井岡戦実現の可能性が増してくるのではないだろうか。

 ボクサーのファイトマネーを扱う「sportpaedia.com」というメディアによるとロマゴンとの第3戦でエストラーダは最終的に200万ドル(約3億円)を得たと言われる。ロマゴンは125万ドル(約1億8750万円)。この額と同等か超える金額をエストラーダ側が要求するのではと察せられる。そうなると、交渉は簡単には運ばないだろう。日本マネーはDAZNマネーとの競争で優位に立てるかもしれないが、エストラーダを説得できる保証はない。

 現状で今年の大みそかにビッグマッチが組まれる雰囲気は感じられない。やはり井上vs.タパレスが掉尾を飾ると思うのが妥当かもしれない。井岡はまだしもエストラーダの動向が予測しにくいところが歯がゆい。一つずつベルトを統一して行くなら、IBF王者マルティネスという選択肢もある。だがエストラーダが動き出さないのは、じっと井岡に照準を合わせているからとも受け取れる。業界のセオリーに「大物同士の対決の方が締結しやすい」というものがある。井上vs.タパレスに続き近々、ビッグニュースが伝えられることを期待して止まない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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