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村田諒太戦で自信深めたゴロフキン。宿敵カネロに番狂わせは起きるか

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
2018年の第2戦の攻防(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

決戦まであと2日

 スーパーミドル級4団体統一王者サウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)vs挑戦者ミドル級2団体統一王者ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)の第3戦が間近に迫ってきた。4年ぶりの対決は17日(日本時間18日)ラスベガスのT-モバイル・アリーナでゴングが鳴る。

 2人は2017年9月、同アリーナで対戦。12ラウンズの攻防はゴロフキン有利に思えたが、3ジャッジが下したスコアカードは三者三様の引き分け。1年後、再び同会場で顔を合わせ、これもフルラウンドの戦いとなり、カネロが2-0のマジョリティー・デシジョンで世界ミドル級2団体王者に就いた。第2戦も判定が議論を呼び、決着戦が待望されていた。

 試合が発表された6月の時点で3-1ないし4-1でカネロ有利と出ていたオッズは現在5-1ほどに開いている。ゴロフキンがリベンジを果たせば番狂わせということになる。その確率はどれくらいあるだろうか。

 予想賭け率に大きく影響するのは“GGG”ことゴロフキンの40歳という年齢である。20連続防衛を達成し、その中で17連続KO防衛、王座獲得以前からの23連続KO勝ちと不動の実績からミドル級の帝王と畏怖されたゴロフキン。しかし不惑を迎え、戦力低下が指摘される。本人がいくら「年齢はキャリアの妨げにはならない」と豪語しても周囲は衰えを否定しない。逆に8歳年少のカネロにはアドバンテージとなって作用する。

ゴロフキンはスタートダッシュが必要

 米国カリフォルニア州にジムを構え、ヘビー級3団体統一王者オレクサンドル・ウシクとの再戦に向けてアンソニー・ジョシュアのトレーナーを務めた名将ロバート・ガルシア氏はメディアのインタビューで「ゴロフキンは前半の4、5ラウンドまで全力投球しなければならない。歳のせいで、いくらコンディションが良くてもその後、疲れ果ててしまうだろう」と分析。カネロ攻略のカギは先制ダッシュにあると明かす。

 確かに的を射た指摘だが、大きな賭けであることには変わらない。イチかバチかの危険をはらむ。序盤を乗り切られるとカネロにペースが傾くと推測される。スタミナを消耗したゴロフキンがカネロの逆襲に晒されて墓穴を掘る展開が頭に浮かぶ。それがオッズに直結しているとも受け取れる。

 具体的にゴロフキンが実行すべきことは「ハイペースの展開に持ち込むこととコンビネーションを多く繰り出すこと」と強調する専門家がいる。これは5月の最新戦でカネロが敗れたドミトリー・ビボルが採った戦法そのもの。しかしビボルとゴロフキンでは戦闘スタイルが異なる。正直なところ、ゴロフキンがビボルのような戦法を選択すると“年齢の壁”に突き当たると予測される。ゴロフキンは売り物のアグレッシブさを前面に出して立ち向かう方が良策だと思える。

ラスベガス入りしファンから熱烈歓迎を受けるカネロ(写真:Ed Mulholland)
ラスベガス入りしファンから熱烈歓迎を受けるカネロ(写真:Ed Mulholland)

ゴロフキンvs村田がヒント?

 カネロ自身もゴロフキンの最新戦、4月にさいたまスーパーアリーナで行われた村田諒太(帝拳)とのミドル級統一戦を引き合いに出してGGGに言及。警戒心と自信を織り交ぜながら心境を語る。

 「彼は以前と変わらないストロングな選手でハードなパンチをヒットし、同時にパンチに耐えられることを証明した。ムラタはゴロフキンにディフェンスを強い、ハードパンチを顔面、ボディーに決めた。でもムラタのショットは大きなダメージを与えるものではなかったようだ。だからゴロフキンはオーケーだった。真実はわからないけど私はそう思う」

 村田のアタックは前半ゴロフキンを苦しめたが、心を折るほどではなかったとカネロは言いたげだ。そこに「俺のベストパンチが当たれば今度こそ……」という自尊心がうかがえる。カネロはこれまでの合計24ラウンズを通じてゴロフキンのパワーを実感。ノックダウンはおろか効いた仕種も見せなかった。これも勝負を占うファクターの一つとなる。

 とはいえゴロフキンも2試合を体験してカネロのパンチにビクともしなかった。GGGは下馬評不利に反論する。

 「プロモーターのマッチルーム・ボクシングでさえ、私がアンダードッグだと広言して憚らない。でも私はそう思っていない。私は自分を信じている。ムラタとの試合でグレートな気持ちになれた。あの戦いで自信を深め、今度のファイトの準備ができた。エディ・ハーン(マッチルーム・ボクシング会長)のトークを信用しない方がいいよ」

好ファイトの材料が満載

 今回も接戦が展開されるという予想もある中で、ゴロフキンがサプライズを起こすとすれば、KO決着が濃厚。だがカネロの耐久力とビボル戦以前の盤石ぶりが、その妨げとなる。GGGにはパワー以外にもハートの強さという利点がある。ただし年齢的にも、文字通りサプライズを起こすようなスタイルの変化は望めない気がする。現有戦力をどう活用して対処するかが勝利を呼び込むキーポイントになりそうだ。

 一概に短期決戦が最良策とは言い切れない。しかしガルシア氏が指摘するようにラウンドを重ねるごとにゴロフキンの勝機は減少するのではないか。カネロにはビボル戦で失った威厳とパウンド・フォー・パウンド・キング奪回というモチベーションが存在し、ゴロフキンはリベンジをかけたキャリアの集大成という拠りどころを持ってリングへ向かう。

リベンジとキャリアの集大成を期すゴロフキン(写真:Ed Mulholland)
リベンジとキャリアの集大成を期すゴロフキン(写真:Ed Mulholland)

 好ファイトの材料が満載された待望の第3戦。ガルシア氏は「おそらく12ラウンズの勝負にはならないだろう。私の予想はカネロの勝ち。スペクタクルなノックアウト決着は起こらないだろうが、中盤から終盤にかけてレフェリーストップが入ると思う」と締めくくる。

 一方でゴロフキンは「カネロとの第4戦だってオファーされるかもしれない。どうして『ノー』と言えるんだい?」と話す。そうなると今回ももつれるということか。第4戦でフアン・マヌエル・マルケスが宿敵マニー・パッキアオに痛烈な決着をつけたKOシーンが目に浮かぶ。果たして最後に笑うのはどちらか?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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