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悪童ルイス・ネリはどこにいる? カネロが「汚染肉」を食べた町で調整中

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
ウエートオーバーでキャリアがとん挫するネリ(写真:REX/アフロ)

11ヵ月ぶりの登場

 度重なる体重超過ですっかり蚊帳の外に置かれた印象の元WBCバンタム級王者ルイス・ネリ(メキシコ)がリングに戻ってくる。ネリが所属するサンフェル・プロモーションズが計画する6月のイベント第3弾に出場予定。対戦相手は未定で、試合をメキシコへ中継するTVアステカのスタジオで無観客試合として行われる模様だ。

 ネリは今、試合に飢えている。最後に登場したのは昨年7月ラスベガスで行われたマニー・パッキアオvsキース・サーマンのリング。現WBAスーパー&IBFバンタム級統一王者井上尚弥(大橋)とWBSS(ワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ)で対戦し初回KO負けしたフアン・カルロス・パヤノ(ドミニカ共和国)を9回、ボディー打ちで沈めた。

 そして昨年11月、同じくラスベガスで、これもWBSSで井上に序盤で倒されたエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)とWBCバンタム級挑戦者決定戦が組まれた。ところが試合前日の計量でバンタム級リミット1ポンド超の119ポンドを計測。ネリは再計量を拒否してロドリゲスにファイトマネーの上積みをオファーしたが、ロドリゲス側が拒絶。試合はキャンセルされた。

 ネリの不遜な言動は、関係者の話によると自身のファイトマネーへの不満が理由だと言われ、規律を欠くだけではなくボクシングを冒とくするものとして非難を浴びた。また試合前、宿泊するホテル(MGMグランドガーデン)に10部屋も借りていた事実が明かされ、その暴挙が叩かれた。

昨年7月、パヤノ(左)にKO勝ちを収めたネリ。以後リングに上がっていない(写真:Cynthia Saldana)
昨年7月、パヤノ(左)にKO勝ちを収めたネリ。以後リングに上がっていない(写真:Cynthia Saldana)

1階級上の挑戦者決定戦は中止に

 そこでもキャリア終焉の危機を免れたネリは今年3月28日ラスベガスでアーロン・アラメダ(メキシコ)との試合がセットされた。これはWBCスーパーバンタム級挑戦者決定戦と銘打たれていた。スキャンダルまみれながらWBCはネリを厚遇した。語弊があることを承知で書くとメキシコに本部を置くWBCは同国選手を優遇する傾向が強い。

 しかし折からのCOVID19(新型コロナウイルス感染症)の流行でアラメダ戦はキャンセル。3月半ばの時点で4階級制覇王者カネロ・アルバレスのチームと米カリフォルニア州でスパーリング中心の調整を行っていたネリは、偶発的な出来事とはいえ、リング復帰が遠のいてしまった。そこへ助け舟を出したのがサンフェル・プロモーションズ社長フェルナンド・ベルトラン・プロモーター。ネリは6月20日のカードのメインに出番が回ってきた。

 メキシコからの情報ではその日ネリはアラメダ戦が仕切り直しになるとも言われた。だが確認してみると今回ノンタイトル戦を行い、その後、米国でアラメダと対戦する運びとなる見込み。相手も比較的無難な選手が抜擢されると予測される。

 ちなみにアラメダは地方のホープの一人で戦績は25勝13KO無敗。サンフェル・プロモーションズとライバル関係にあるプエブロ・プロモーションズ傘下の26歳で、ネリと同じサウスポー。ネリの復調具合を推しはかるには絶好の相手だと思われる。勝敗予想を聞かれれば、ネリと答えるが、私はかなりの苦戦を強いると予想している。

2人のお目付け役が同行

 さて、1週間前の時点でネリ(25歳)は地元ティファナにいた。予定では先週末、同じメキシコのグアダラハラへ移動しているはずである。新トレーナーのエディ・レイノソの指導を受けるためだ。

 正確にはレイノソは新トレーナーとは言えない。ネリは昨年、ロドリゲス戦が決まった後、レイノソの下でジムワークを始めた。しかし始動してまもなくカリフォルニアのジムでネリは神出鬼没となり、一度レイノソに見捨てられた過去がある。カネロ・アルバレスを育てトップ選手に昇華させた実績から2019年のトレーナーMVPに輝いたレイノソはライト級のスター候補ライアン・ガルシアや最近では前ヘビー級統一王者アンディ・ルイスが門下生に入った引っ張りだこのトレーナー。ネリに再度チャンスを与えるところに度量の大きさを感じさせる。

 グアダラハラに戻ったレイノソの下でネリは6月の復帰戦に備えている。そのまま同地で調整を続け、リングに上がることになるはずだ。ネリには2人の男が同行したと伝えられる。彼らはスパーリングパートナーではなく、トレーニングでレイノソのヘルパーを務める。多忙なレイノソはトレーニング以外でもカネロの試合交渉などでジムを出払うことがある。その2人はネリの“お目付け役”として送り込まれたのではないだろうか。

汚染肉を食べた町グアダラハラ

 レイノソが規律を叩き込めるか、ネリが真摯に指導を受けるかは何とも言えない。グアダラハラはすぐにティファナに帰れるほどの距離ではないから、ネリには集中して取り組める環境が整っている。きっとレイノソもそれを考えてネリを呼び寄せたに違いない。もし問題児ネリを再生できれば、いっそうレイノソの名声が高まることだろう。

レイノソ・コーチとのミット打ちで調整を図るネリ(写真:Team Canelo)
レイノソ・コーチとのミット打ちで調整を図るネリ(写真:Team Canelo)

 今回の試合を勝利で飾り、アラメダとの挑戦者決定戦をクリアすれば、ネリにはWBCスーパーバンタム級王者レイ・バルガス(メキシコ)挑戦の道が広がる。ゴールデンボーイ・プロモーションズの下で試合枯れに陥ったバルガスは米大手の興行会社PBC(プレミア・ボクシング・チャンピオンズ)とサイン。同じくPBC傘下のネリとはマッチメークがスムーズに進むと思われる。レールは敷かれている。

 それでも、いつものように脱線することも大いに想像可能。ネリはそうやって周囲を裏切ってきた。PBCとしてもこれ以上ネリの横暴を許すとは思えない。黙っていればどこまで暴走するかわからないネリをコントロールできるのはPBC、レイノソそしてベルトランだけなのだ。

 調整地のグアダラハラは2年前、カネロが「汚染肉」を食べたとしてドーピング検査でアウトになり、サスペンド処分を科された町。ネリも同じ問題が発生した時、汚染肉を主張して言い逃れした。その真偽は別として知り合いのメキシコ業界の関係者に聞くと、同国では以前からボクサーの間で薬物摂取が横行しているという。

 まさかネリが薬物に手を染めていることはないだろうが、これまでの愚行がキャリアのスムーズな進行を妨げていることは否定できない。コロナ禍による試合中止は“天罰”だと肝に銘じて精進を重ねることを願いたい。晴れ舞台への道はまだ限りなく遠い。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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