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真吾氏を妨害したトレーナーに反省の色なし。井上尚弥vsロドリゲスは壮絶な試合になる!

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
井上真吾氏に詰め寄るクルス・トレーナー(写真:Shabba Shafiq)

ついに実現したフェイスオフ

 あと3日と迫ったワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝兼同級WBA・IBF統一戦の記者会見が15日(日本時間16日)開催地の英国スコットランド・グラスゴーで行われた。井上尚弥(大橋)は「ロドリゲスは素晴らしいアマチュアキャリアを持ち、ボクシングスキルとカウンターパンチに優れている」と相手を持ち上げながらも「ファンが私にノックアウトの期待を持っているのはわかっている。流れの中でKOを狙いたい。でも無理やりテンションを上げることはない。通常の日本と変わらない試合を披露したい」と胸中を語った。

 一方のエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)も柔らかい物腰で対応。「ウエートもつくったし、素晴らしいトレーニングキャンプが送れた。キャリアでベストなものだった。新しいトレーナーとコンビを組み、トレーニングはものすごく変わった。(前回苦戦した)マロニー戦とは全く違ったパフォーマンスをお見せできる」と意気込みを明かした。

会見で対面。勝利を誓ったモンスター井上とマニー・ロドリゲス(写真:WBSS)
会見で対面。勝利を誓ったモンスター井上とマニー・ロドリゲス(写真:WBSS)

写真撮影にエキサイト

 ドラマがあったのが前日14日、グラスゴーのMTKジムで行われた公開練習。リングに立ったロドリゲスをスマホで撮影しようとした井上の父でトレーナーの真吾氏をロドリゲスのトレーナーが押し込むシーンがあった。そのトレーナーが上記の新トレーナー、ウィリアム・クルス(28歳)。この行為は海外のメディアからも批判され、「公開練習では不必要な振る舞い。日本チーム(井上陣営)は仰天した」(ringtv.com)との報道もある。

 現地からのニュースでは主催のWBSSを通じてクルスは謝罪したとのこと。だが同トレーナーはフェイスブックで、今回の一件の不満をぶちまけている。

 「井上チームがやろうとしたことは完璧にプロフェッショナルイズムに反するもの。トレーナーの彼の父はエマヌエル・ロドリゲスのトレーニング全部を邪魔し録画しようとした。練習はメディア向けのもので、井上陣営の楽しみやベネフィットのためではない」と発信。(5月15日付)

 続けて「もし状況が逆だったらどうだろう。井上が練習を始めて私が録画しようとしたら、どんなリアクションを取るか。彼らはモンスターのイメージを持ち出すことに慣れている。でもこちらにはプエルトリコの血が流れている。とても小さな国だけど、我々は激情を抑えきれない」

戦争が待っている

 ロドリゲス本人同様、気合いが入っているクルス・トレーナー。添付されている動画でも愛弟子をバックアップする。

 「5月18日、エマヌエル“マニー”ロドリゲスは無敗をキープする。多くのファンはマニーが負けると言う。でも彼は世界チャンピオンで居続ける。きょう(14日)少しオーバーヒートしたことがあったけど、大して重要なことではない。メディアの仕事には問題ないけど、井上チームがいた。彼らは何かしらの意図があった。みんな、現実主義者になる必要がある」

 現実主義者という言葉から井上チームが指摘したようにロドリゲス陣営は、かなりナーバスになっている印象がする。15日、会見後、日本で試合を放送するWOWOWとフジテレビの取材をロドリゲス陣営は拒否したという。そこまで厳戒態勢を布く必要があるのだろうか。それでも同トレーナーは自己主張する。

 「我々は遊びや観光でここに来たのではない。試合は戦争だ。こちらの手が上がる結末に持ち込まなければならない。残念にも私は自分の役割を演じなければならなかった。彼らの面前に立ち、録画する行為をストップした」

 真吾氏の名誉のために言うと、彼は写真を撮影するだけで、けっして動画を撮る意図はなかったはずだ。なのにクルス・トレーナーはGRABAR(スペイン語で録画する)という動詞を頻繁に使う。それはともかく、同トレーナーの腕は確かなようだ。プエルトリコのファンからも「彼のコーチとしての業績に誇りを感じる」といった発言が聞かれる。

 動画の最後にクルス・トレーナーは「5月18日、モンスターは井上ではない。別の男がそれを襲名する」と明言。どこまでも愛弟子の勝利を信じている。

メキシカンのように戦え!

 現地プエルトリコの関係者に聞くと5-1あるいは7-1といわれる不利な賭け率に対しロドリゲスがアップセットを起こすには「今回エストラーダ(フアン・フランシスコ・エストラーダ=メキシコ。WBCスーパーフライ級新王者)がやったことを実行すべきだ」という意見がある。エストラーダは4月26日、シーサケット・ソールンビサイ(タイ)との再戦で3-0判定勝ち。ベルトをメキシコへ持ち帰った。

 その一戦でエストラーダはパンチャーのシーサケットに対してアウトボクシングを選択。距離を置きながらコンビネーションとカウンターでポイントを蓄積。終盤シーサケットの反撃をかわし、ゴールテープを切った。

 確かに万能型のエストラーダとロドリゲスのスタイルは類似したところがある。だがタイの強打者と井上を同一視することはできない。俊敏なステップも駆使できる井上とほぼベタ足で戦うシーサケットはアングル取りや攻撃のセットアップの段階で明らかな相違が見られる。モンスター相手に瞬時も気が抜けないロドリゲスのタスクは想像をはるかに超えるものがあるだろう。

予想絶対不利ながら打倒モンスターに意欲的なロドリゲス(写真:Shabba Shafiq)
予想絶対不利ながら打倒モンスターに意欲的なロドリゲス(写真:Shabba Shafiq)

強気なロドリゲス

 地元ファンの間でも「(ロドリゲスには)難しい。不可能と言っていい」、「モンスター井上の拳で爆発的なKO負け」と同胞に悲観的なコメントが目立つ。また「井上は速くて強すぎる。ハシーム・ハメドの再来のようだ」と書き込むファンもいる。超変則のハメド(英=元WBOフェザー級王者)と「オーラを漂わせる」(英国メディア)井上はマッチしないような気がするが、ある意味で怪物的だった悪魔王子ハメドとは親和性があるのかもしれない。

 とはいえIBF王者は会見で静かな自信を明かした。「非常に困難なファイトが待っていて井上はものすごい強打者だと認識している。そこで私が実行するのは、これまでの彼の相手が誰もできなかった、彼にバックステップを踏ませること」(ロドリゲス)

 試合予想が大きく井上に傾いていることから、この発言は“ハッタリ”とも受け取られる。それでも両陣営の衝突、因縁から想像を絶する展開、結末が待ち構えているような予感がしてくる。ゴングが待ち遠しい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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