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WBSS決勝は井上vsドネアで決まり? フィリピーノ・フラッシュが代役を轟沈

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
セミファイナルでヤング(右)を倒したドネア(Photo:WBSS)

 米ルイジアナ州ラファイエットのザ・カジョン・ドームで27日(日本時間28日)行われたワールド・ボクシング・スーパー・シリーズ(WBSS)バンタム級準決勝は日本でもお馴染みの“フィリピーノ・フラッシュ”ことノニト・ドネア(フィリピン)がステフォン・ヤング(米)に6回2分37秒KO勝ち。決勝進出を決めるとともに保持するWBAバンタム級“スーパー”王座を防衛した。

英国で復活

 フライ級からフェザー級まで暫定王座を含めると5階級を制覇したドネアはWBSS参戦のため、フェザー級から2階級下のバンタム級に体重を落とした。36歳になった彼には容易な決断ではなかったに違いない。誰もがすでにドネアは峠を越えた選手だと思っていた。8選手が参加したトーナメントではアウトサイダーに甘んじ、初戦(準々決勝)敗退が濃厚と予想された。

 1年前、英国・北アイルランドのベルファストに遠征した試合でドネアは地元の元スーパーバンタム級、フェザー級2階級王者カール・フランプトン(英)に3ジャッジとも6ポイント差をつける完敗を喫した。昨年11月、同じ英国スコットランドのグラスゴーで開催されたWBSS初戦でも当時のWBA“スーパー”王者ライアン・バーネット(英)の軍門に下ると思われた。

 ところがドネアに幸運が舞い降りた。やや押され気味だったドネアだが、4ラウンドの攻防の最中、10歳年少のバーネットが突然、腰を痛めるアクシデント。インターバルで棄権を余儀なくされる。

強敵テテが無念の出場辞退

 幸運といえば今回の準決勝も当てはまる。相手は初戦でロシア人選手に勝ったWBOチャンピオンのゾラニ・テテ(南アフリカ)。初戦は冴えない判定勝ちだったが、17年の防衛戦で初回11秒KO勝ちの世界タイトルマッチ最短KO勝ちを記録したサウスポーのハードパンチャーだ。ところが現地入りしたテテが試合3日前になって肩の負傷を理由に出場を取り止めてしまった。

 急きょピンチヒッターに抜擢されたヤングはランキング上位(WBA5位)だが、テテとは威圧感、風格が違う。類似点といえばサウスポーということ。これはジムワークでサウスポー相手にスパーリングを重ねたドネアに味方した。

左フックで豪快に沈める

 ここまでドネアは39勝25KO5敗。ヤングは18勝7KO1敗。ヤングの黒星は昨年3月、レイマート・カバリョ(フィリピン)とWBAバンタム級暫定王座を争い判定負けしたもの。ラスベガスで調整したドネアは同地のベテラン・トレーナー、ケニー・アダムスと実父のノニト・ドネア・シニアがコーナーに陣取る万全の体制。相手の強打を警戒してサイドステップを踏むヤングに左アッパーなど有効打を浴びせてリード。フィリピン人が試合を作るかたちでラウンドが進行する。

 迎えた6ラウンド、ドネアの右ボディーから左フックが急襲。背中からキャンバスにダイビングしたヤングは後頭部を打ちつけて大の字。レフェリーは即時ストップをコールした。これまでスペクタクルなノックアウトを演出した伝家の宝刀、左フックが勝負を決した。

 リングサイドで観戦したテテも仰天のフィニッシュブロー。「タイミングと距離を計算できた。それがノックアウトを誘発した」と自画自賛のドネア。ニックネームのフィリピーノ・フラッシュが復活した瞬間だった。

6ラウンド、ドネアの左フックが火を噴き、ヤングが沈む(Photo:WBSS)
6ラウンド、ドネアの左フックが火を噴き、ヤングが沈む(Photo:WBSS)

井上にエールを送る。そしてロドリゲスはどこにいる?

 多くのファンや関係者たちが予期しなかったドネアのファイナル進出。来月18日グラスゴーで予定されるもう一つの準決勝、井上尚弥(WBAバンタム級“レギュラー"王者=大橋)vsエマヌエル・ロドリゲス(IBF王者=プエルトリコ)の勝者といよいよ雌雄を決する運びとなった。

 「2人ともアメージングな選手だと認識している。でも私と日本には暗黙の了解がある。私は日本という国をとてもリスペクトしているし、愛着がある。それはナオヤ・イノウエにも当てはまる。彼はいつもファイナルで私と対戦すると想像していたはずだ。ついに我々はフェイスオフする時がきた」(ドネア)

 もちろんグラスゴーで井上がロドリゲスを破ることが必須条件だが、ドネアの心はすでにモンスターとの決戦に向かっている。井上がプロで台頭時にはジムでアドバイスしたこともあったというドネア。運命の巡り合わせは最高の決勝カードを私たちに提供してくれそうだ。

 気になるロドリゲスの調整ぶり、動向だが筆者が陣営に問い合わせたところ、米国の山中で特訓を敢行しているとしか教えてくれない。マネジャーは「ロドリゲス本人さえ、どこにいるのかわからない」と煙に巻く。カリブ海のボクシング強国プエルトリコが産出したロドリゲスの実力は掛け値なしに本物。それでも勝敗予想が大きく井上に傾いている事実が何とも頼もしい。ロドリゲス自身が予想する決勝カードはロドリゲスvsドネアなのだが……。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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