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ゴロフキンvsカネロ再戦交渉開始。視聴率王のメキシコ人に判定問題もかすむ

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
カネロの攻勢に帝王ゴロフキンも守勢に立つ(写真:Tom Hogan/GBP)

 ラスベガスで1週間前行われた“GGG”ことゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とサウル“カネロ”アルバレス(メキシコ)のミドル級統一タイトルマッチは公式判定が三者三様の引き分けに終わった。試合後大きな波紋を投げかけたジャッジの一人アデレード・バード氏の118-110でカネロの勝ちは論外にしても好試合、接戦であったのは確かだった。私は115-113でゴロフキンの勝ち。私の周りの人間もGGGを支持する者が多い。

 アリーナで試合を直に観戦したファンも反応が分かれている。「カネロはずっとバックステップを踏んでいた。その点GGGはアグレッシブな戦法を貫いた。このカネロのTシャツを買ったけど恥かしいよ。メキシカンスタイルで戦ったのはゴロフキンだ」と同胞カネロを避難するファンもいれば、「勝者は明らか。8-4のラウンドでカネロの勝ち。パンチの正確さで勝った」と反論する者もいた。総じて2-1ぐらいの割合でゴロフキン有利説に傾くようだ。だから個人的には2-1(スプリットデシジョン)でGGGが勝ったと心で思っている。

当代随一の魅力カード

 試合直後の会見から両者の再戦が話題に取り上げられた。いや、試合前日だったと思うが、「このカードは第3戦までシリーズ化するだろう」と記す記事があった。どちらが勝つにしても展開がもつれる、スコアが論議を呼ぶと予測する向きが強かった。事実そうなってしまったのだが、当代のミドル級でもっともファンの関心を引きつける魅力的な対決であることは間違いない。

 同じ会見の印象からダイレクトリマッチにより乗り気だったのはゴロフキンに見えた。実力は申し分ないのに、本当の意味でのビッグマッチは今回が初めてだった。すでに35歳とキャリアの終点が近いだけに(本人は40歳までリングに立ちたいとも言っているが)ビッグマネーが約束されるカネロとのシリーズに傾倒するのは当然だろう。またドローながら防衛回数を19に伸ばしたゴロフキンは、あと一つでバーナード・ホプキンス(米)が樹立したミドル級防衛記録20に並ぶ。再戦で決着をつければ、実利と名誉を一挙に獲得できるのだ。

 一方カネロは表面的にリマッチをウエルカムとしながらも「今年いっぱいは完全休養したい。次の試合に関してはそれからだ」と強調。直接リマッチについては「ファンが望めば・・・」にとどめた。その時点(今月16日夜)で両陣営が即交渉に入る雰囲気は感じられなかった。

カネロの威厳に敬服

 それとは別に私を驚かせたのは27歳のメキシカンが発散する貫禄だった。

 メディアからドローはラッキー、スコアカードに救われた――という意見が飛び交う中、「この試合でボクシングを生き返らせた」とカネロは言ってのけた。「KOしたかったか?」という質問にこそ「目の前のボクサー(ゴロフキン)は困難で、楽な相手ではなかった」とGGGを立てたものの、試合後リング上のインタビュー中に巻き起こったブーイングに関して「別に何も感じなかった」とすました顔で対応。そして「これからは私の時代だ」と威風堂々、言い残した。

メキシコで3500万人が観戦

 それから数日後、ゴロフキン戦のメキシコでの視聴率が28.2%と発表された。メキシコではTVアステカとテレビサの2大テレビ局が地上波で放送。前者が1810万人、後者が1650万人、合計3460万人のファンが観戦したと報じられる。これは全土で約4人に一人が試合を観た計算になる。先月、同じ2局で放映された異色対決、フロイド・メイウェザーvsコナー・マクレガーの同国での視聴者数1220万人を大幅に上回った。

 会場のT-モバイル・アリーナのゲート収入は3000万ドル(約33億円)弱と伝えられ、メイウェザーvsマニー・パッキャオの7200万ドル、メイウェザーvsマクレガーの5540万ドルに次ぎ、ラスベガスのボクシング興行歴代3位の売り上げをあげた。4年前のメイウェザーvsカネロのゲート収入は約1000万ドル。メキシコのスターが“独り立ち”した印象がする。

 現時点で米国のPPV契約件数は発表されていない。それが興行収益の基幹となるのだが、母国メキシコのテレビ視聴率、同視聴者数はプロモーターたちが無視できる数字ではない。カネロがシルベスター・スタローンと共演しているテカテ・ビールのコマーシャルも好評。TVアステカのスポンサーでもある同ビールはカネロが負ければ、ダメージは少なくない。そんなさまざまな外圧が重なり合いドローという結果が生まれたと勘ぐるのは短絡的過ぎるだろうか。

地震被害に1億円を寄付

 試合から3日経過した9月19日午後、メキシコ中央部でマグニチュード7.1の地震が起こり、多くの死者、けが人を出す災害が発生した。サッカー選手が中心となりアスリートたちも一丸となってボランティア活動に専念する中、カネロも医薬品や建設材料を提供。そして100万ドル(約1億1千万円)を復旧費用として寄付した。ホームタウンのグアダラハラでは王侯貴族のような暮らしをしていると伝えられるカネロ。だが1億円はポケットマネーから工面できる額ではない。彼の郷土愛、愛国心を見た思いがした。

地震の復旧に向け、物資の救援活動を行うカネロ(写真:ボクシングシーン)
地震の復旧に向け、物資の救援活動を行うカネロ(写真:ボクシングシーン)

3月開催もあり?

 カネロがビッグマッチの直後、リング外で奔走すると同時にプロモーターたちも驚くほどの速度でリマッチの交渉をスタートさせた。ゴロフキンのトム・ルーファー・プロモーターとカネロを擁するゴールデンボーイ・プロモーションズのエリック・ゴメス社長が22日から交渉テーブルに着いた。ゴメス氏がメディアに語ったところでは来年18年5月第1土曜日が有力。もしかしたら3月挙行の線もあるという。そこには初戦の勢いを失いたくない主催者側のソロバン勘定がある。

 3月開催になったとしてもカネロには2ヵ月以上の準備期間がある。全く可能性がない話ではない。実現すれば、今回以上の人気を呼ぶだろう。テレビ局2つがこぞって試合を中継したがるのは何ともうらやましい話。日本では遥か遠く1960年代のボクシング黄金時代までさかのぼらなければならない。

 これまで作られたスターの印象もあった赤毛の青年カネロだが、実力が伴い、彼本人が宣言したように“カネロ時代”に突入しそうな予感がする。論議を巻き起こした採点も彼の前に霧散した?

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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