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ミスター・ボクシング、マイダナを返り討ち。パッキアオ戦に望みを残す

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員
猛牛マイダナにコンビネーションを浴びせるメイウェザー

求められたスペクタクル性

13日行われたフロイド・メイウェザー(米)-マルコス・マイダナ(アルゼンチン)の再戦はメイウェザーが3-0のユナニマス・デシジョンでマイダナを破り、2階級、3つのベルト(WBC&WBAウェルター級とWBCスーパーウェルター級)を守った。オフィシャルスコアは116-111が2者に115-112でメイウェザーが支持された。

当日、会場のラスベガスMGMグランドの駐車場からホテル&カジノへ入ろうとすると、この一戦のビルボードといっしょに2週間後、同会場で予定されるUFC(通称アルティメット=総合格闘技)の広告が目に入った。アメリカでは近年ボクシングがUFCやMMAといった格闘技に押され気味の傾向がある。昨年から年に2度リングに立つ自他共に認める“ミスター・ボクシング”メイウェザーと猛牛マイダナの対決に、ファンとメディアが強く求めたのはスペクタクルなファイト。果たしてこのリマッチの内容は、その願いに叶ったものだっただろうか。

5月の初戦がインパクトを与え、ダイレクトリマッチとなった背景にはマイダナが試合を通じて221発パンチをコネクトし、230発ヒットしたメイウェザーと拮抗した勝負を演じたことが理由だった。しかし数字だけ見ると、今回マイダナがヒットしたパンチは128発と93発減少。ヒット率も22%に止まり、メイウェザーの51%(パワーパンチに限れば58%)に劣った。全体的にマイダナは前回よりも善戦した印象もしたが、ロープを背負うシーンがあまりなく、フットワークを駆使したアウトボクシングに活路を見出したメイウェザーがやはり一枚上だったといえる。

華麗なステップを踏むメイウェザーを見たのは久しぶりだった。もしそこでスイスイとアルゼンチン人のアタックをかわし、自在にパンチ決めていれば、よりスペクタクルだったに違いない。だが、クリンチ、ホールドの場面が多かったのも事実。初戦同様、上段からパンチを振りかざすシーンもあったマイダナのパワーを警戒したのだろう。ケニー・ベイレス主審が両者を分けるのが、やや早く感じたのは気のせいだろうか。もっとも10ラウンド、もつれた場面でマイダナはタックルをかけメイウェザーを押し倒す反則。減点を科され、ポイントが開いた。早めの「ブレーク!」は暴走を防ぐ効果があった。

一方8ラウンド、2人の体が交錯し、メイウェザーはレフェリーにクレームをつける仕種。ドクターチェックが入るなど、しばらく試合が中断する。試合後メイウェザーは「マイダナに噛まれて以後、左手の感覚がなくなった」と打ち明けたが、再生映像では逆にメイウェザーがマイダナのグローブを押さえていたようにも見えた。これもスペクタクル性とは相反するもので、話題の一つとなっただけ。マウスピースを着けているマイダナが噛みつくのは不可能だ。

強いてホットなシーンを挙げるなら、3ラウンド終了間際、メイウェザーが右を決めると、マイダナが反射的に右を返した場面か。一瞬メイウェザーの膝が揺れたように思えた。それでも何もなかったように続く4回、コーナーを蹴ったメイウェザーはさすが。逆に“マネー”のベストパンチは終盤11ラウンドに繰り出した左ボディーに見えた。アミール・カーン戦の初回、危うくボディー打ちで倒れ、カウントアウト寸前に陥ったマイダナ。今回も相当効いたように感じられたが、ローブローのクレームをつけ中断。もし主審が続行されていれば、もっとインパクトがある光景が待ち受けていたかもしれない。

ヘイモン現れる

発表で有料入場者は16,144人。断続的に同胞マイダナへ声援を送るアルゼンチン人ファンがこの数字に貢献。もしマイダナがサプライズを起こしていれば、現ローマ法王とレオネル・メッシの出身国はボクシング史に偉大なページを綴っていただろう。だが今回もメイウェザーの技巧とスピードが、そんなミラクルニュースが世界を駆け回ることを阻んだ。

試合直後のリングで「私は勝ったと思ったけど、ジャッジたちは試合中ずっとランニングして選手に勝利を授けた」と毒づいたマオダナだが、プレスルームに移った会見では「メイウェザーと2度も戦えて満足している。誰もパンチを浴びせられなかった男に私は自分の仕事ができた」と胸を張った。同時に「メイウェザーは勝てない相手ではない」とも。これは「自分がまた戦えば・・・」という希望もあるが、「いずれ誰かが(無敗レコードを)破るだろう」というニュアンスが感じられた。

マイダナが退場した後のステージに登場したメイウェザーは自身で会見を仕切った。噂では来年2015年、2度リングに上がりグローブを吊るすのではといわれる。当然のごとくメディアからマニー・パッキアオの名前が挙がったが、付き添うメイウェザー・プロモーションのレオナード・エレーベCEOは「パッキアオ戦はメディアが勝手に煽っているだけで、こちらでは何も決定していない」と強調。強面の顔をいっそうこわばらせた。メイウェザー自身も次回の相手に関してカーンの名前をわずかに口にしただけだった。

それでも解決すべき問題は少なくないものの、「メイウェザー-パッキアオ2015年実現」という報道が目立ち始めた。「ボクシング業界で影響力が強い人物」で上位にランクされるショータイム・スポーツのスティーブン・エスピノサ社長は「試合が決まれば、ショータイムのPPV放送となる」と主導権を握ることを吐露した。パッキアオと契約するライバルHBO、トップランク社を差し置いて、交渉を成立させる自信があるという。

会見が終わり、プレスルームを出ると、入れ違いに3人の男が足早に逆に中へ入ってきた。みんな慶事でもあったのかニコニコ顔。真ん中の長身痩躯の人物が強力代理人アル・ヘイモンだった。この日のイベントはアンダーカードを含め、ほとんどヘイモン傘下の選手たちで占められていた。「何がそんなにうれしいのだろう」と会見場にUターンしたが、“ゴースト”と呼ばれる代理人は、もうどこかに消えていた。「もしかして近いうちに一大発表がある?」。そんな予感がしてならない。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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