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メイウェザーに善戦したゲレロに亀海がアタック

三浦勝夫ボクシング・ビート米国通信員

昨年5月、現役最強ボクサー、フロイド・メイウェザー(米)と対戦したロバート“ザ・ゴースト”ゲレロ(米)が1年余を経てリングに復帰する。相手を務めるのはOPBF(東洋太平洋)ウェルター級王者の亀海喜寛(帝拳)。今週土曜日21日(日本時間22日)米ロサンゼルス近郊カーソンのスタブハブ・センターで開始ゴングを聞く。

フェザー級王座(IBF)から徐々に階級を上げウェルター級に到達したゲレロは転向3戦目でメイウェザーと対戦。0-3判定負けだったものの、コンピュータ集計で12ラウンドを通じ113発パンチをヒット。これはメイウェザーの最新試合の相手マルコス・マイダナ(アルゼンチン)の185発、空前の人気を呼んだメイとのビッグファイトでオスカー・デラホーヤ(米)がマークした122発に次ぐ数字である。

実力とともにゲレロがファンに支持されるのは、その崇高なスピリットだ。このサウスポーのボクサーパンチャーは対戦相手の牙城が高ければ高いほどハートが燃えるタイプ。「もし魅力的なオファーが舞い込めば、ミドル級はおろかヘビー級にだって体重を増やして挑むだろう」と現地の関係者は口を揃えて言う。その精神力は元ヘビー級統一王者イバンダー・ホリフィールド(米)に通じるものが感じられる。

ホリフィールドといえば、熱心なクリスチャンで有名な元王者同様、ゲレロも教会活動、奉仕に身を捧げることで知られる。同時に家族愛が生活の支柱。妻のキャシーさんが白血病を患い安否が気遣われた時、大事なタイトル戦をキャンセルしてまで看病に時間を費やした。

これまで米国で1勝1敗1ドローの亀海(24勝21KO1敗1分)にとり、ゲレロが高いハードルであることは間違いない。メイウェザー以外でもウェルター級参戦後の相手セルチュク・アイディン(トルコ)、アンドレ・ベルト(米)はいずれも実力が折り紙つきで、ハードな試合を強いられた。アジア圏で力を誇示する亀海にしても、ゲレロのキャリアと対比すると、どうしても見劣りしてしまう。米国メディアの中で亀海をアンダードッグと決めつけるのは、まだマシな方。露骨にOPBF王者を“ジャニーマン”(噛ませ犬)と記すところもあり、「ゲレロにとり今回はチューンナップ試合」と強調するメディアも目立つ。

ゲレロ自身は会見で「亀海は常に向かって来る男で、彼をリスペクトしなければいけない。イージーな展開は待っていないだろう。彼は打撃戦に身を投じ打開を図る男」と気を引き締める。それでもメディアの見解同様、前哨戦の意義が強いことを明かす。「リングにカムバックするのはメイウェザーの残り3試合で再度、彼の相手に選ばれるチャンスを得たいからだ」

ゲレロとの一戦を皮切りに米国有料ケーブルのショータイムと6試合の大型契約を締結したメイウェザー。3試合を消化し、今年9月に1試合、来年15年に2戦行い、引退の花道を飾ると推測される。その1つでゲレロはもう一度、対立コーナーに陣取り、リベンジを果たしたいと本気で念じているのだ。

正直なところ、ゲレロの思惑は米国メディア、関係者から一笑に付されている印象。メイウェザー戦のPPV購買件数が伸びなかったことも理由に挙げられる。本来ならゲレロは再起するにあたり、メイウェザー、マニー・パッキアオ(フィリピン)の2大巨頭を筆頭にキース・サーマン(米=WBA暫定王者)、ショーン・ポーター(米=IBF王者)が追従する超激戦区ウェルター級のコンテンダーたちと対戦すべきだという声があった。事実、サーマン、マイダナ、アミール・カーン(英国)とのカードが話題に上った。だが、いずれも交渉は成立せず、アジアの雄、亀海が抜擢された。ゲレロの戦闘スタイルが“ハイリスク”な選手として彼らに嫌われたのだろう。それだけでも彼の実力者ぶりの一端が計り知れるというものだ。ブランクが気になるが、これまでも1年以上リングから離れたことがあり、支障ないとみる。もし亀海が番狂わせを演じれば、世界のリングシーンに相当なインパクトを与えるに違いない。

プロモーターのゴールデンボーイ・プロモーション(GBP)と大物代理人アル・ヘイモンのサポートを受けるゲレロはキャリア終盤で花を咲かせようと復帰を決意した。勝てば、おそらくGBP傘下のサーマン、ポーターらへの挑戦が具体化するだろう。この若い2人を攻略することだけでも至難の業だが、その先のメイウェザーとの再戦を熱望しているのには恐れ入る。同時に亀海にも無限の未来が待っていることを肝に命じて奮闘してもらいたい。

ボクシング・ビート米国通信員

岩手県奥州市出身。近所にアマチュアの名将、佐々木達彦氏が住んでいたためボクシングの魅力と凄さにハマる。上京後、学生時代から外国人の草サッカーチーム「スペインクラブ」でプレー。81年メキシコへ渡り現地レポートをボクシング・ビートの前身ワールドボクシングへ寄稿。90年代に入り拠点を米国カリフォルニアへ移し、フロイド・メイウェザー、ロイ・ジョーンズなどを取材。メジャーリーグもペドロ・マルティネス、アルバート・プホルスら主にラテン系選手をスポーツ紙向けにインタビュー。好物はカツ丼。愛読書は佐伯泰英氏の現代もの。

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